第8話『今はまだ遥か幽かな光』
PART 9
- 小鈴
きょうも雨、だね。
- 吟子
それに、泉が学校を休んでから、もう、5日。
一応『心配しないように』ってメッセージは来たけど……。 - 小鈴
ね、姫芽ちゃん。
昔の先輩に会いに行くって、大丈夫なのかな。 - 姫芽
ん~……。
- 吟子
もしかして、そのまま演劇界に復帰したり……。
- 吟子
それに……泉がいなくなっちゃったら、
今、検査で実家に戻ってるセラスだって、
もしかしたら来年、瑞河に……。 - 姫芽
吟子ちゃんは心配性だねぇ~。
- 姫芽
……きっと、大丈夫だよ。
- 吟子
え?
- 小鈴
姫芽ちゃん?
- 姫芽
なんとなく、なんとなくね。
- 泉
……やあ、久しぶり。
- セラス
え? 泉……?
- 泉
海莉さんから聞いてね。
あなたとここで待ち合わせしている、と。 - セラス
……。 この5日、なにしてたの。
……心配、してたんだよ。 - 泉
姫芽ちゃんから聞いたんだろう。
かつて演劇を一緒にやった先輩を捜していた、と。 - セラス
……聞いたけど。
会えたの? - 泉
ああ。
- 泉
懐かしいね。
あなたと初めて会ったのも、こんな雨の日だった。 - セラス
……ねえ、泉。
- セラス
長野の病院で一応、検査を受けたけど……結果は問題なしの、健康優良児。
だから、泉の思う通りには、ならないよ。 - 泉
……それは、なによりだ。
- セラス
それでね、わたしも、いろいろと考えたんだ。
泉がいなくなってる間。 - セラス
それでね……。
- 泉
その前に、私の話を聞いてくれないかな。
- セラス
……ん。
……わかった。 - 泉
ありがとう。
- 泉
先輩はね、演劇を続けていたよ。
- 泉
体は治り切ってはいないようだったけれど、今度はちゃんと、
自分のペースでね。 新しい仲間たちと一緒に、楽しそうに過ごしていた。 - 泉
お礼を、言われてしまったよ。
- セラス
……。
- 泉
私があのとき止めてくれたから、今の自分がある、って。
- 泉
……おかしいだろう。
- 泉
私は『どうして自分を捨てたのか』と、怒鳴られることも承知の上で、
会いに行ったというのに。 - 泉
それから、いろんなことを話したよ。
先輩と離れてから、私の世界はずっと灰色になってしまったこと。 - 泉
空っぽの私は、誰かの夢を叶えることでしか、情熱を感じ取れなかったこと。
ずっと、空虚な想いを抱えていたこと。 - 泉
そう話すとね、また誘われてしまった。
もう一度、演劇をやらないか? って。 - 泉
今度は、小さな夢だった。 自分の手の届く範囲、大好きな仲間と一緒に、
自分が最高だと思える劇を完成させたい。 - 泉
昔みたいに、夢の頂を目指すわけじゃないけれど、
だからこそ、私にも一緒に来てほしい、と。 - セラス
泉は。
- セラス
……なんて、答えたの?
- 泉
……そうだね。
それも、いいかもしれない、って。 - 泉
私がずっと自分を呪い続けていなければ、
きっと、そういう未来もあったんだろうな、ってさ。 - 泉
でも私には、新しい夢が、できたから。
- 先輩
そっか……そっか!
- 泉
……どうして、そんなに嬉しそうなんだ?
- 先輩
だって、見つけられたんだね、泉ちゃんは。
- 先輩
新しい夢を……自分だけの、夢を!
- 泉
……違うよ、先輩。
これはもう、私だけの夢じゃない。 - 先輩
え?
- 泉
これはねーー。
- 泉
セラス。
あなたがくれた、私の夢だ。 - 泉
スクールアイドルという、私の夢だ。
- 泉
あなたがいなければ、私は前に進むことはできなかっただろう。
そして、スクールアイドルを好きになることもなかった。 - セラス
それじゃあ、泉……。
- 泉
ああ。
- 泉
先輩との日々は、本当に、楽しかったんだ。
ようやく、思い出せた。 - 泉
どうして、呪いなどと思っていたのだろう。
あんなに、楽しかったのに……。 - 泉
ようやく私は、彼女との思い出に、決着をつけることができた。
- 泉
ここからまた、歩き出すんだ。
- 泉
斯くありてーー。
- 泉
あどけなき姫君の願いは、星々の下、ついに結晶し。
今ここに物語は春の凱歌を奏で、歓喜の終幕をーー迎えたり! - 泉
我が騎士にして、パートナー。 セラスよ。
- 泉
すべて貴女が、叶えてくれたんだ。
ここまでの旅路……真に、大儀であった。 - セラス
泉……。
- 泉
……少し、気取りすぎだったかな。
- セラス
……ううん。
嬉しいよ。 ほんとに……すごく。 - セラス
ありがとう。
スクールアイドルを好きになってくれて、ありがとう。 - セラス
わたしが泉の夢を、叶えたんだね……。
- 泉
私はまだスタートラインに立っただけだ。
- 泉
自分だけの確かな情熱を見つけるために、
これから途方もない時間がかかるかもしれない。 - 泉
なんだってすぐにできるようになると言われたこの桂城 泉が、だ。
- 泉
だけど、自分自身で掴もうともがき続ければ、
きっと見つけられると信じている。 - 泉
あなたとの日々があったから。
- 泉
スクールアイドルという夢を見るあなたは、誰よりも輝いていた。
その光を浴びて、私ももう一度、自分を信じてみようと思えたんだ。 - 泉
こんな私が、スクールアイドルを好きになれたんだから。
きっと、なんだってできるんだ。 - 泉
あなたはきっと、これからも大勢を救い続ける。
どうか、夢を見せてあげてほしい。 - 泉
私もあなたを、ずっと、想い続ける。
- セラス
……うん!
- セラス
ねえ、泉。
- セラス
ずっと悩んで、迷って、これでいいのかなって思ってた。
- セラス
だけど……あなたの言葉で、わたしも、ようやく前に進む勇気ができた。
とても大きくて、途方もない夢だけど……新しい夢が、できたんだよ。 - セラス
わたしの救った泉が、わたしの背中を、押してくれたんだ。
- セラス
これから海莉に会うの。
わたしの決意を、一緒に、聞いてくれる? - 泉
もちろんだとも。
私のお姫様でもなく、私の騎士でもないーー。 - 泉
私を救ってくれた、友人であるあなたの言葉を、
誰よりも尊重するよ。 - コメント
セラスと泉が並んで立っている。
- コメント
セラスはなにやら決意の顔で、口を開く。
- 泉
……おや。
- 姫芽
いずみ~ん!
- 小鈴
おかえりなさい!
- 吟子
まったく。 ようやく帰ってきた。
- 泉
あなたたち……。
どうして、こんなところで。 - 花帆
みんな、待ってたんだよ!
ふたりが帰ってくるの! - さやか
ですから、お出迎えです。
- 瑠璃乃
っていうか、セラスちゃん、どうしたの!?
もしかして、また!? - セラス
……。
- 泉
ああ、いや。
これは、ちょっと疲れてしまったみたいでね。 - 瑠璃乃
変わろっか?
- 泉
ふふ、平気さ。
ありがとう、瑠璃乃先輩。 - 姫芽
で、これからどうするつもり~?
- 泉
とりあえず、お風呂に入りたい気分ではあるかな。
- 吟子
そうじゃないでしょ!
- 泉
はは、わかってるよ。
- 泉
この度は、心配をかけて、申し訳なかった。
本当に、すまない。 謝罪で済むとは思っていないがーー。 - 小鈴
ーーそうでもなくて!
- 泉
え?
- 小鈴
どうするの!? セラスちゃんと、泉ちゃんは!
- 泉
……ああ。
- 泉
ちゃんと、これからも続けるよ、スクールアイドルを。
この、蓮ノ空でね。 - 泉
もちろん、あなたたちが許してくれるなら、だけれどーー。
- 花帆&瑠璃乃
やったぁー!
- さやか
許すもなにもありませんよ。
- さやか
あなたたちはずっと蓮ノ空の生徒で、
そしてわたしたちスクールアイドルクラブの仲間です。 - さやか
それが揺らいだことなど、一度もありませんから。
- 泉
……そうか。
- 吟子
……よかったぁ…………。
- 小鈴
うん、うん、よかった、よかったね!
- 姫芽
めでたしめでたしだね~。
- 吟子
姫芽、実はなにか知ってたんじゃないの?
- 姫芽
ええ~?
アタシは吟子ちゃんに隠し事なんて、一個もないよ~? - 吟子
でも姫芽はごまかすのうまいし。
- 泉
……姫芽ちゃんも、本当にありがとう。
- 吟子
ほら!?
- 姫芽
~♪
- 小鈴
あはは。
- 泉
……ああ、光だ。
- 泉
……いつか、私もなれるかな、その光に。
- セラス
……泉が気づいてないだけ。
- セラス
最初から、わたしにとって……泉は、希望の光だったよ。
- 泉
……ふ、そうか。
- セラス
…………なんて、言ってみたり。
- 泉
ところでセラス。
- 泉
起きていたんだったら、自分の足で歩いてほしいな。
それとも、甘えん坊なお姫様はそんなに私の背中が気に入ったのかな。 - セラス
な!?
- 吟子
え~? セラス、赤ちゃんみたいだね~?
- 小鈴
徒町も、抱っこされるの好きだったよ! 幼稚園ぐらいまで!
- セラス
!?
- セラス
お、下ろして! 今すぐ下ろして! 泉!
- 泉
そうだ、ちょうどいい。
みんなに言っておきたいことがあるんだ。 - セラス
泉! こら! 悪魔! 聞いてるでしょ!
- 泉
Edel Noteが解散した、来年以降のことだ。
- 姫芽
お~?
- 泉
私はこれからもスクールアイドルを続けたい。
だが、誰にも寄りかからず、自分の力でやってみたいんだ。 - さやか
というのは?
- 泉
だからね、さやか先輩。
私はこの蓮ノ空で、ソロのスクールアイドルになるよ。 - 花帆&瑠璃乃
ソロ!?
- セラス
それって……。
- 泉
違うよ、セラス。 誰かを巻き込むと不幸にしてしまうとか、
今度はそういう後ろ向きな理由じゃない。 - 泉
あなたたちひとりひとりが胸にもつ光を、私も自分自身で見つけたい。
誰かに見出してもらうだけじゃ、駄目だと気づいたんだ。 - 泉
時には壁にぶつかるかもしれない。何度でもつまずくかもしれない。
もしかしたらこの決断は、賢い選択ではないのかもしれない。 - 泉
それでも、懸命に、愚直に前に進もうとする私の姿を、
あなたたちに見ていてほしい。 - 泉
いつかのさやか先輩のように。 途方もない夢を掲げた花帆先輩のように。
自分が変われるのだと信じて行動した瑠璃乃先輩のように。 - 泉
そして、こんな私を仲間と認めてくれた104期生のみんなのように。
- 泉
私もこのスクールアイドルという輝きのひとつに、なれるように。
あなたたちと肩を並べて……そう、がんばってみたいんだ。 - 泉
セラスが私を、救おうとしてくれたように。
- 泉
できるかどうかはわからないけれど……
私も自分の手で、自分の花を咲かせてみたい。 - 泉
……もちろん、蓮ノ空の伝統に反する申し出であるということは、
重々承知の上だ。 - 泉
誰かひとりでも快く思わない人がいるならば、私はこの言葉を取り下げよう。
あなたたちは皆、私の恩人であるのだから。 - 泉
……どう、だろうか?
- コメント
姫芽、小鈴、吟子がにっこり笑う。
- コメント
瑠璃乃とさやかが、花帆の背中を押す。
- 瑠璃乃
ほら、花帆ちゃん。
- さやか
花帆部長。 あなたの出番ですよ。
- 花帆
うん!
- 花帆
泉ちゃん! あたし、いいと思う!
- 花帆
泉ちゃんのやりたいこと、ぜんぶやって、そして!
- 花帆
みんなで一緒に、いーっぱい、花咲こうね!!
- 泉
……ありがとう、花帆部長。
- セラス
泉……。
- さやか
……わたしと同じように空っぽだと言った、
そんなあなたが選んでくれた生き方を、歓迎します、泉さん。 - さやか
この蓮ノ空に、あなただけの花を、咲かせてください。
- 泉
ありがとう、さやか部長。
それに、みんなも……ありがとう。 - 泉
これで、Bloom Garden Partyは私たちの解散公演であり、
そして、私たちの新たな夢の一歩になったね、セラス。 - セラス
……うん!
- 瑠璃乃
来月には、Starring Bloomだしね!
やるぞー、みんなー! - 吟子&小鈴&姫芽
おー!
- 泉
ふふふ。
- セラス
いぇ~い!