第8話『今はまだ遥か幽かな光』
PART 8
- 泉
……。
- 先輩
キミと一緒なら天下を取れるよ! わたしは!
一緒に天下を目指そうじゃないか! - 泉
ははは、なんだよそれ。
- 先輩
やったよ、泉ちゃん! わたしたち……やったんだ!
- 先輩
夢がーー叶ったんだよ!!
- 泉
ああ……。 私たちで掴んだ、夢だ!
- 先輩
泉ちゃん、どうして……。
- 泉
私はもう、あなたと共には、歩めない。
- 泉
さようなら。
- 先輩
泉ちゃん!
- 先輩
泉ちゃん、ごめんね……。
- 先輩
あなたも、きっと……自分の夢を! 自分だけの夢を、見つけてね!
- 泉
……先輩。
- 泉
いったい私は……。
いつになれば、この呪いが晴れるんでしょうか。 - 泉
それとも……あの時の決断は、間違っていたんですか? 先輩。
- 姫芽
~!
- 泉
……え?
- 姫芽
いたぁ~!
- 泉
……姫芽、ちゃん?
- 姫芽
はぁ、はぁ……。 やっぱり、ここだった……。
- 泉
どうして。
- 姫芽
ふへへ……。 もし間違ってたらみんなを巻き添えにしちゃうから……
アタシひとりで、来ちゃったよ~。 - 姫芽
事情は、せらりんから聞いたよ~。
蓮ノ空、辞めようとしてるんだって~? - 泉
……。 ああ。
- 姫芽
ふぅん。
もう、決めたこと~? - 泉
そうだ。
- 姫芽
じゃあ、しょうがないっかぁ~。
- 泉
……私を連れ戻しに来たんじゃないのか?
- 姫芽
戻ってくる気があるなら、そうするけど~?
- 泉
……。
- 姫芽
アタシは、まあ、それも仕方ないのかな~って思うよ。
事情は人それぞれ。 - 姫芽
いずみんとは仲良くなれたから、寂しいのは同じだけどね。
どこに行ったって別に、ネットでは繋がってるわけだし。 - 泉
……あなたは話が早くて助かるよ、姫芽ちゃん。
私とあなたは、最初からどこか、似ているところがあったから。 - 姫芽
そ~だね。
- 姫芽
ただ、せらりんは傷つくだろうね~。
- 泉
……手遅れになるよりは、よっぽどいいさ。
- 姫芽
その考え方も、間違ってないと思うよ~。
- 姫芽
ただ、吟子ちゃんならこう言うだろうね。
『逃げるの?』って。 - 姫芽
小鈴ちゃんなら、こう言うかな。
『きっとなんとかなるよ!』って、力強い笑顔で笑って、さ。 - 泉
……なにが言いたいんだ、姫芽。
- 姫芽
アタシの両親はね、
アタシが小さい頃にとっても遠いところに行っちゃったんだ。 - 姫芽
優しくて、大好きだったお父さんとお母さんに、もう会えなくなって……。
毎日、ふさぎ込んでた。 - 姫芽
そんなアタシを救ってくれたのは、
お姉ちゃんが買ってくれたゲーミングPC。 - 姫芽
そのおかげで、また友達ができた。
たくさんの人と繋がることができた。 - 泉
……それが?
- 姫芽
でもね、去年。
どうしてもスクールアイドル活動がうまくいかなくて悩んだアタシは、
スクールアイドルのためにゲームを捨てようとしたんだよ。 - 姫芽
どっちも中途半端になるぐらいなら、なにかひとつに打ち込むのが正解。
そう思い込んで、ね。
だけど結局、それも間違いだった。 - 姫芽
ひとりで思いつめてるとね、見えるものも、見えなくなっちゃうんだよ。
- 泉
……それでもあなたには、スクールアイドルが、あったんだろう。
- 泉
私には、なにもない。
なにもないんだ。 - 姫芽
そう思い込んでるのは、いずみんだけだよ。
- 泉
誰かの夢に寄生することしかできない私は、あなたとは違う!
蓮ノ空に来た私の選択は、そもそもが間違いだったんだ! - 姫芽
だからぁ!
それが違うって言ってるんでしょ! 泉! - 姫芽
今でも思うよ、アタシは!
- 姫芽
もしゲームを捨てて本気でスクールアイドル一本に打ち込めば、
もっとうまくいってたのかな、とか! - 姫芽
アタシがもっといい子にしてたら、お父さんともお母さんとも、
今も一緒にいられたのかな、とかさぁ! - 姫芽
だけど!
人生には、成功も間違いも、ない! - 姫芽
どんな不幸が襲ってきても!
ただ自分の選んだ道を正解にするために、毎日がんばるんでしょ! - 泉
だったら!
- 泉
私はどうしてこんなに苦しいんだ!
なにひとつ、捨てたくなんてなかった! 先輩と演劇を続けていたかった! - 泉
だが、仕方なかったんだ!
だったらこれが正解だったって、そう自分に言い聞かせるしかないだろう! - 泉
あの時、他にも道があったのなら……私は、私は……。
- 泉
あまりにも……救われないじゃないか……。
- 姫芽
……泉。
- 姫芽
『やりたいことをやれ』。
- 姫芽
それが、アタシが蓮ノ空に入って教えてもらった、偉大な先輩方の言葉。
- 姫芽
見てればわかるよ。
- 姫芽
泉が蓮ノ空を離れたくないと思ってるのも、
スクールアイドルクラブの毎日を、楽しいと思ってくれてるのも。 - 姫芽
アタシは、人の楽しいって気持ちに、敏感だからさ。
- 姫芽
その気持ちを押し殺して、
誰かのために行動してる人は、ちょっと見過ごせないんだ。 - 姫芽
それが友達なら、なおさら、ね。
- 泉
あ……。
- 姫芽
ねえ、いずみん。
- 姫芽
アタシたち、まだ人生の半分も生きてないんだよ。
その中で、何百回も、何千回も間違ったって思うんだろうけどさ。 - 姫芽
ゲームは、始まったばかりなんだよ。
- 姫芽
最後まで、どう転ぶかなんて、ぜんぜんわかんなくない?
- 泉
……人生をゲームに例える、あなたらしい言葉だ。
- 姫芽
だからね。 諦めちゃダメなんだよ。
ぜったいに、自分のことだけは。 - 姫芽
去年、竜胆祭の後で、いずみんに言われたよね。
アタシは肝心なときに人に気持ちをぶつけることができないって。 - 姫芽
あのときは、すごく悔しかった。
お前にアタシのなにがわかるんだ~、って思ったよ、正直。 - 姫芽
だけど、それだってほら、乗り越えられた。
- 姫芽
どんなに今がつらくても、苦しくても、
かじりついてさえいれば、どこかできっと逆転できるんだ。 - 姫芽
それが、人生ってゲームだと、アタシは思う。
- 姫芽
少なくともアタシは、その気持ちで生きてきたよ。
今も、生きてる。 - 姫芽
最後に勝つまで、何度だってチャレンジできるんだよ。
気持ちさえあれば、ね。 - 泉
それは、どうすれば最後に、勝ったって思えるのかな。
- 姫芽
そんなの、決まってるっしょ~!
- 姫芽
『楽しかった』ってそう思えたら、全員ウィナー!
大勝利だよ~! - 泉
……そうか、『楽しかった』って、そう思えたら、か……。
- 泉
そうか……そうか。
- 泉
私はきっと、心のどこかでこう思っていたんだ。
こんな自分が救われるべきではない、と。 - 泉
先輩の夢を奪った私を、私自身が許せなかった。
- 泉
ずっと……世界を灰色に見せていたのは、私の目だ。
私がこの世界を、拒絶したんだ。 - 泉
どうりで、空っぽなわけだ……。
- 泉
姫芽。
ようやく、私のやるべきことがわかったよ。 - 泉
私は、自分で自分を救わなければ、ならなかったんだ。
- 泉
本当にリベンジするべきは、去年、夢を叶えられなかったことではなく……。
最初に心を閉ざしてしまった私自身だ。 - 泉
どんな不幸に心を歪められたとしても、諦めず、
私自身の光に、手を伸ばさなければならなかった。 - 泉
しっかりと自分の気持ちに寄り添い、正面から向き合って……。
- 泉
そうして、私だけの道を見つけ出し、
これが正解だと信じて、進むしかなかったんだ。 - 姫芽
……うん。
- 姫芽
もし迷って、なにも見つからなくて、不安になったそのときはね。
いつだって誰かがそばに、いてくれるんだから。 - 姫芽
『あなた自身を信じてあげて』って、そう言って、背中を押してあげるために。
- 姫芽
アタシや吟子ちゃん、小鈴ちゃん。 かほせんぱい、さやかせんぱい、
るりちゃんせんぱい。 学校のみんな、そして。 - 姫芽
セラスちゃんが、ずっと、そう叫んでくれてたんだから。
- 泉
……ああ。
そういう意味だったのか……。 - 泉
スクールアイドルを好きにさせるということは、すなわち。
- 泉
ありのままの桂城 泉を、
どうしようもなく肯定する言葉だったんだな……。 - 泉
ありがとう、姫芽ちゃん。 みんなに伝えてくれ。
私には、やることができた。しばらく蓮ノ空には戻れない、と。 - 姫芽
……どうするつもり~?
- 泉
もう一度、先輩に会ってくる。
- 姫芽
……!
- 泉
そして、向き合うんだ。
- 泉
どんなに罵声を浴びせられようが、突き放されようが。
そうしなければ、私は前には進めない。 - 泉
過去を乗り越え、この目を開く。
先輩に預けた夢を、色彩を……人生を、取り戻すんだ。 - 泉
これが私の、最後のリベンジだ。
- 泉
行ってくるよ。
私自身を、救うためにーー。