はっ……はっ……。

はっ…………はっ…………。

はぁ……はぁ……。
……ふ、ふふ。きょうも朝練いちばん乗り！
わたしがいちばん！

残念。 2番だ。

なっ……！？

泉に負けた……っ！
ああああああああああ！

そんなに？

いやでも待って。
泉はスクールアイドルがあまりにも楽しいから、

朝早くから練習しようとしてたんだよね。
それってわたしの影響だよね。

つまり、結果的にわたしの勝ち！
ウィナー！ セラス 柳田 リリエンフェルト！

……朝から楽しそうだね、あなたは。

バカにしてる！？

いや、この点に関しては褒めてるよ。 羨ましいぐらいだ。

ならよし。

わたしもすぐ着替えるから、練習しよ。

もちろん、良いとも。

ふふっ。
どうどう？ そろそろ、スクールアイドル、好きになってきた？

さてね。

逆張りは恥ずかしいことなんだよ、泉。

……あなたは本当に、朝から元気だね。

んぐぐ……。

そ、そういえば、泉。
例の宿題、進んでる？

ああ、Edel Noteの新曲の話だね。

そう。 今月のFes×LIVEで披露する新曲。
お互い、案を持ち寄ろうって言ってたやつ。

できてるよ。 3曲。

……できてる？
完成させたってこと？

ま、とりあえずね。

……スクールアイドルしゅきしゅき♡人間じゃん。

思いついたから作ってみただけだよ。
実物があったほうが、話が早いだろう？

ツンデレなの？ 吟子先輩ってこと？

曲、聞いてみるかい？

ききたいききたい！

どうかな？

セラス？

……違う。

だから違うんだってば！

おや……。 敗北感で胸がいっぱい、という雰囲気ではなさそうだね。
お気に召さなかったかな。

曲はどれもいい曲だけど！ そういうことじゃなくて！

いつもクオリティにねじ伏せられてきたけど、きょうこそは言うからね！
泉は自分のできることばっかりやるから、だめ！

ん……？ んん……？？

あのときも！

泉、わたしの考えてきた新しい振り付け、どうだった？

ふむ……なるほど、なかなか悪くない。
だけれど、こういうのもどうかな？

え、待って、むちゃくちゃクオリティ高い……。

……って、そうじゃなくて！

？

あのときも！

ね、泉。
新曲の衣装のイメージ書いてきたんだけど、見て見て。

へえ、いいじゃないか。
でも、あなたはもう少し、こういうほうが似合いそうだけれど。

は……？ ファッションセンス、神すぎん……？

……って、違う違う！ そういうことじゃなくて！

？？

泉はいつだってそう！
ラブライブ！優勝しそうなことしかしない！

ひょっとしてものすごく遠回しに褒められているのか？

違う！

今から、ものすごくめんどくさいこと言うね。

普段通りってことじゃないか。 それがセラスだろう？

そうだね。 わたしめんどいもんね。
っておーーーい。

わたしは、もっと“桂城 泉”が見たいの。

私を……？

そう。 振り付けでも、衣装でもそう。
世界中で、泉にしか作れない、泉が作ることに意味がある曲。

蓮ノ空の先輩方みたいな……そういう、オンリーワンの曲。

私だけの曲……か。

常により良いものを作ろうと思っていたつもりだったけれど……
その観点は確かに、なかったかもしれないね。

……ごめんね。

……なぜあなたが謝るんだ？

泉は去年1年間、わたしの夢を叶えるために努力してくれた。

ラブライブ！で優勝するための曲は、
みんながいいなと思ってもらえる曲じゃないとだめだから。

それがもう、泉のスタンダードになっちゃってるんだよ。

泉はずっと、わたしのためにそうしてくれてたから。

確かに、私のスクールアイドルとしてのスタイルを定めたのは、
あなたとの1年間だった。

だが、別にそれが悪いわけじゃないだろう？

そうだけど。 でもこないだね、
セミに追いかけまわされて半泣きで最悪な気分になったとき、気づいたんだ。

セミに……。

ほんといやだったけど、小鈴先輩が助けてくれた……。 神……。

小鈴先輩は頼りになるね。

うん。 それで、
寮に帰ってからも怒りが収まらなくて『セミ滅べ』って曲を作ってたら、ふと思ったの。

そうか、泉は“余裕があるからだめ”なんだ、って。

それ話繋がってる？

泉は曲作りだって、振り付けだって、
衣装デザインだってなんでもうまくこなせちゃうから、
自分を出す必要がないんだ。

出さなくても、今までずっと勝ってきたから。
出す必要性が、なかったんだ。

泉がスクールアイドルを楽しめてないのも、
ずっと、自分を出してないからなんじゃないかって思って……。

だから！ そのために……わたしはどうにかして
泉にギャフンと言わせなきゃいけないんだよ！

わたしが泉の、セミになってあげる！

またあなたは……面白いことを考えてきたね……。

でしょう？

4月から数えて、もう4か月。

なんの成果も出ないまま、1年の3分の1が過ぎちゃったんだよ。
人間の寿命で考えると、60歳だよ！

私は180歳まで生きるのか……。

今の泉は、60歳！ これじゃ、スクールアイドルが楽しくなってきた途端に
Edel Noteが終わっちゃうよ！

ね、泉。
わたしが、泉の壁を壊してあげる。

スクールアイドルがみんな、自分の想いを前に出した曲を作るのは、
それが自分たちにとっていちばんの武器だからだよ。

泉の作る新しい曲は、きっと、いい曲になるって信じてるから。

だから、素の泉の歌を、聞かせて。
そうしたら泉も……もう一段、スクールアイドルが好きになれると思うから。

……なるほど、ね。

あなたの言いたいことはわかったよ。
罪悪感を覚えていることも、私のために言ってくれていることも。

『セミ滅べ』でもいいよ。 泉の気持ちが乗ってるなら。
きっとラブライブ！優勝を目指す曲より、泉らしい曲になるよ。

あいにく、人生でセミに殺意を覚えたことはないんだ。

あんなに最悪なのに……！！

でも、本当になんでもいいってことか。

うん。

まあ、その考え自体は、受け入れるよ。
具体的には、どうすればいいんだい？

そう、具体例。
そこでわたしは、さらに考えました！

ずいぶんたくさん考えてくれるじゃないか。

一応、あなたのパートナーですから。

夏合宿の話、聞いた？

ああ、来週だったね。

じゃあ、それが蓮ノ空だけじゃなくて、
近隣のいろんな高校のスクールアイドルと合同で合宿しようって話が
持ち掛けられてることについては？

初耳だ。

ふふん。 まあね。
きょうの朝、わたしにお誘いの声がかかったばかりだからね。

それは……まだ誰にも言ってないんじゃないかな。

うん……。 これから花ちゃんに、お願いしにいかないとなんだけど……。

ほら、去年、武者修行でいろんな高校を巡ったでしょう？
そこで知り合った人が、ぜひ、って。

わたしたちが蓮ノ空に入ったことも知ってたから、
よければ皆さんでご一緒に、って声をかけてくれたの。

わたしは、やってみたいな、って。

たくさんのスクールアイドルに、もみくちゃにされて、
スクールアイドルの情熱をいっぱい受け取って……。

泉が自分のスクールアイドル道を見つめ直す、
すごくいいきっかけになると思う。

ついでに、合同合宿の卒業試験を
『各自、ひとつ自分の曲を完成させること！』ってすれば、

わたしたちみんなFes×LIVEで披露する曲も作れるし。

慣れない子が一生懸命に曲を作ってる姿を見れば、
ほら……泉もグッとくるでしょ！

そういうのが泉は大好きなんだから！ 情熱マニア！

否定はしないけれど。

その上！ 夏合宿で、わたしが数々の試練を与えて泉にギャフンと言わせたり、
『もうむりぎぶあっぷー！』って言わせられたら、

泉も『このやろー！』っていうやる気に満ちあふれること、
間違いなし！

泉は『このままじゃだめだ……！ もっと強い私にならなきゃ……！』
と歯を食いしばって、泥臭く手段を選ばなくなった結果、

本当の言葉で曲を綴れるようになるんだよ！

はぁ、はぁ……どう！？ 泉！

本当に、いろいろと考えてくれたんだね、セラス。

泉はわたしのお姫様だからね！

……去年、泉にしてもらったことを考えたら、まだまだだけど。

泉は、どう？

……うん。
私の作る、私だけの歌、か。

そそられる響きだ。

じゃあ。

壁を壊したいと、私自身も願っているんだ。
あなたからの申し出、嬉しく思うよ。

ぜひ、やらせてほしい。

よっし！
この夏は、生まれ変わったEdel Noteを見せてやろうー！

しかし、問題がひとつある。

え……？

わざと負けるわけには、いかないんだろう？
だったら……あなたが私にギブアップと言わせる未来が、見えないな。

……。 今、挑戦状をたたきつけてきたね？

申し訳ないが、ただの事実なんだ。

ふふふふふ……。
その言葉、後悔させてあげるから。

それじゃわたしは早速、花ちゃんにお願いしに行ってくるから。

せいぜい今だけ余裕ぶってるといいよ。
さようなら、生まれ変わる前の、桂城 泉。 グッバイ！

あははは！

なにをする気なんだ……。

ふふっ。

まったく……あなたといると、飽きないよ。 セラス。

合宿、楽しみだ。