第8話『Not a marionette』
PART 5
落としまでの、今の綴理の上向きな調子を改めて描く。 | |
梢 | そう……しっかり、やれたのね。 |
瑠璃乃 | おおー! つづパイセン、凄かったんだねー! |
吟子 | 茜やさんの方からも、こないだ、お礼を言っていただけました。 私からも。 改めて、ありがとうございました。 |
綴理 | ううん……楽しかった。 |
姫芽 | いや~、ゲームの大会さえなければ、アタシも行きたかったな~。 |
花帆 | でも、大人数でお邪魔すると、逆に迷惑になっちゃうからね。 姫芽ちゃん。 |
姫芽 | ですよね~。 |
花帆 | だからまた今度、吟子ちゃんと3人で遊びにいこ! ふふっ、あたしが案内してあげるね! |
姫芽 | わ~、いきましょいきましょ~! かほせんぱい~。 |
吟子 | えっ……人数に入れられてる……。 |
小鈴 | 綴理先輩、凄かったですよ! |
小鈴 | 綴理先輩に見てもらってた人たち、本当に体験コーナー楽しそうで…… 出来上がったデザインも、どれもめっちゃ綺麗でした! |
うんうん、と喜んでいる面々を遠目に、梢と慈が話をする。 | |
梢 | 卒業したくない……。 その気持ちは分かるけれど、 綴理も心持ちひとつでまっすぐ進めるはずなのよね。 |
慈 | 市役所の方でも、頑張ってたらしいじゃん。 綴理は心配いらないよ。 ちょっと思い詰めちゃうところがあるだけでさ。 |
ふたりがそう言って綴理たちの方を見やり、視点が綴理に移る。 | |
小鈴 | 綴理先輩! 綴理先輩のオープンキャンパスは……成功しましたか!? |
綴理 | うん。 やりたいことがこれ、っていうのをはっきり分かったわけじゃないけど……。 |
綴理 | でも、みんなに認めてもらえて、嬉しかったんだ。 この嬉しい気持ちは、嘘じゃない。 |
梢 | ……進路調査票、ちゃんと出せそうかしら? |
もそもそと自分の懐を探る綴理。 | |
綴理 | うん。 ……? ……うん? |
綴理 | 進路調査票どこいったっけ。 さや、持ってる? |
さやか | 持ってませんね! ええと……綴理先輩の部屋にありましたっけ……? |
梢 | 失くしたのであれば、もう一度貰ってくると良いわ。 余りが1枚もないなんてこともないでしょう。 |
梢 | ただ、最後の進路調査票だから、保護者の印鑑が必要なのよね。 |
慈 | あー……。 そっか。 親のハンコが必要なんだっけ。 |
姫芽 | お姉ちゃんでもセーフですよ~。 |
綴理 | しまった、ボク、お姉ちゃんがいない。 さや。 |
さやか | わたしじゃ通りませんよ! |
片目でマイシスター梢に視線を送る瑠璃乃。 | |
梢はその視線から逃れるように目を閉じて首を振る。 | |
瑠璃乃 | ちらっ。 |
梢 | はぁ…………成人している保護者に限るのよ。 |
その間にスマホを弄っていた綴理が顔を上げる。 | |
綴理 | 今日、一度帰るよ。 |
小鈴 | え、今日!? |
綴理 | 早い方がいいと思うんだ。 みんなから貰った気持ちが、冷めないうちに。 |
綴理がひとりで部屋にいる。しんと静まり返った中で、ぴろんとスマホに通知が届く。 | |
綴理がスマホを見て気づく。 | |
綴理 | 『明日の朝帰るので、その時に』……そっか。 |
綴理、窓の外を眺めてぽつりと呟く。 | |
綴理 | ……朝まで、独りか。 |
綴理 | もう、こずの匂いも、めぐの匂いも、残ってない。 ついこないだのことなのに……。 |
9.5月のシナリオを思い出しながら、部屋を見渡す綴理。 | |
綴理 | なんだか、寒いや。 |
シーン経過の演出。 | |
ひとり隅っこに体育座りしている綴理。 | |
綴理 | ……? |
ぴろんとスマホに着信。メッセージが来ているイメージ。 | |
綴理がスマホを開く。 | |
以下、メッセージ。 | |
小鈴 | 『家族の人とは会えましたかー?』 |
綴理 | ぁ、すず……。 『まだだけど、朝には間に合うよ』……と。 |
梢 | 『きちんと印鑑貰ってくるのよ。 忘れずに。』 |
慈 | 『ハンコだけ先にもらっちゃえば、中身は好きに書けるからね!』 |
瑠璃乃 | 『別に抜け道探す必要なくない!?』 |
さやか | 『ちゃんとお弁当用意して、お帰りをお待ちしてますからね。』 |
綴理 | ……あったかい。 |
綴理 | 『ありがと、みんな。 みんなのおかげで、夜を越えられそうです。』……と。 |
綴理 | そっか、みんなのおかげ。 |
一連のメッセージを受け取った綴理は、胸の内に灯った温かさを素直に口にする。 | |
綴理 | 入学から、いっぱい写真も撮ったんだ……見返していよう。 眠くなるまで。 |
す、す、と指で画像を見ていくイメージ。 | |
綴理 | こず、めぐ、さち。 ふふ、この時のさち、大変そうな顔してる。 ……ボクはぼーっとしてる。 何も考えてないな、きっと。 |
綴理 | この辺りから、さやが居る。 ということは、かほも居る。 ……ほら居た。 こずが笑ってる。 ボクも、笑ってる……のかなぁ。 |
綴理 | ふふ、めぐが張り切ってる。 るりが居るからだね。 みんなで買い物に行ったりもしたなあ。 |
綴理 | さち……。 |
綴理 | すずだ。 さやが去年より、もっと楽しそう。 ぎんと、ひめも来た。 9人……なんだか部室が狭いな。 去年のうちに片づけるべきだった。 |
そこで顔を上げて、綴理が隣に話しかける。 | |
綴理 | ねえさや、部室の片づけって。 |
そこで一瞬笑顔のまま固まる。 | |
綴理 | ……そっか、ボク、今はひとりだった。 |
綴理 | 静かだ……空っぽの部屋みたいに……。 |
翌朝のイメージ。綴理を含め全員登場。既に帰ってきている。 | |
部室の大掃除をしている。綴理だけは物憂げな表情で俯いている。 | |
梢 | まさか、綴理の言葉で思い出すとはね。 |
瑠璃乃 | ぱたぱたぱたぱた。 ぱたぱたぱたぱた。 |
綴理 | お片付け? |
梢 | そう、部室の大掃除。 去年はできなかったもの。 |
花帆 | 梢センパーイ、これどこに持って行けばいいですかー? |
梢 | いったん隅にまとめておいてちょうだい。 持って帰るもの、捨てるもの、残すもの、あとで仕分けないと。 |
姫芽 | なんでこの時期に大掃除なんですか~? |
慈 | ラブライブ!もあるし。 全国大会に行くのなら、 こういう雑務をやる暇はなくなるじゃん。 去年もそうだったから、11月のうちにやっとこうと思って。 |
梢 | なんだかんだ、去年も一昨年も、しっかり掃除をする機会もなかったわね。 私たちが一年生の時も、この時期は色々あったから。 |
慈 | あれからもう2年! はやいもんだ! |
梢 | そうね。 もう三年生。 気付けば卒業間近。 |
梢 | ……綴理も進路調査票を持ってきたことだし、 3人揃って卒業することができそうで良かったわ。 |
花帆 | むー……。 |
吟子 | どういう感情。 |
花帆 | や、なんだか『卒業』って言葉を聞くたびに、 あたしの心のウサギさんがなにか言いたげな目を……! |
吟子 | なんなんそれ。 |
花帆 | うーん……わかんない! |
そのやり取りを見て、梢が苦笑いをする。 | |
梢 | 別に、今すぐいなくなるってわけじゃないんだから。 |
吟子 | ……梢先輩は、卒業後どうするかは決まってるんですか? |
梢 | そうね。 もちろん、目の前の目標を越えてからの話にはなるけれど、 私は進学予定よ。 |
梢 | 乙宗家の娘として、これからも音楽に携わっていくつもり。 現状はそのくらいかしらね。 |
姫芽 | めぐちゃんせんぱいは~? |
慈 | そりゃー私は、決まってるでしょ! 世界中を夢中にするよ☆ |
姫芽にウィンクのファンサをする慈。 | |
姫芽 | ! さっすがめぐちゃんせんぱい! とびきりキュートなミラクルスマイル! 一生ついていきます! |
瑠璃乃 | ……。 |
姫芽 | あれ、るりちゃんせんぱい? |
瑠璃乃 | いや……来年はルリも、 めぐちゃんみたいにバシっと言える目標にしないとなーって。 |
姫芽 | エ!? るりめぐは不滅なのでは!? |
瑠璃乃 | 気持ちは、同じ。 でも、ルリはどう表現しようかなって。 |
難しいな、と腕を組む瑠璃乃と、自分の居ない未来を見据えて優しく微笑む慈。 | |
瑠璃乃 | まだまだ考えることは多いけど、こずこずパイセンが言ったことを思うとね。 時間は止まっちゃくれないんだなーって。 |
慈 | なあに、るりちゃんならすぐ分かるよ。 |
小鈴 | さやか先輩は、将来どうしようみたいなのはあるんですか? |
さやか | わたしはどちらかというと、目の前のことに精一杯ですからね。 |
さやか | でも、わたしたち二年生も何度か進路相談はあったので、 それなりに考えてはいるつもりです。 |
花帆 | 『わたしたち二年生も』って言われた! 大丈夫だよ、小鈴ちゃん! あたしはまだなんにも考えてないから! |
徒町に笑顔を向ける花帆。心配になっちゃうさやか。 | |
さやか | それは大丈夫では、ありませんね……! |
小鈴 | さやか先輩の目指す先、知りたいです! |
さやか | そうですね……でもやっぱり、 これまで培った経験を活かせることがしたいですね。 |
さやか | 大学に進学するかどうかも含めて、しっかり吟味していきたいと思います。 |
小鈴 | ……。 |
さやか | 小鈴さん? |
小鈴 | やっぱり……聞かなきゃよかったです! |
さやか | ええ!? |
吟子 | どんな梯子の外し方してるの。 |
小鈴 | だって、さやか先輩もどのみち卒業しちゃうんだな、って、なんか、 変に意識しちゃって。 チャレンジ失敗です! |
姫芽 | うぅ……なんか、なんかすごい、寂しくなってきちゃったんですけど~! |
梢 | ふふ。 でも、仕方ないわ。 スクールアイドルクラブのメンバーは、 毎年自分たちにできることを積み上げて…… |
梢 | そうして次代に繋いできたから今があるのよ。 ね、吟子さん。 |
吟子 | そうですね。 |
梢 | さ、お話もいいけれど、てきぱきやりましょう。 掃除に時間を取られるのも、もったいないことだわ。 |
慈 | つーづりーん。 |
声をかけても綴理は上の空。 | |
綴理 | ……。 |
慈 | 綴理? |
綴理 | え、あ、うん。 なにかな。 |
ここで慈がぺきんだっくを抱えているのを見せる。 | |
慈 | こいつどうする? |
綴理 | こいつ? ……あ、ぺきんだっく。 |
綴理 | え、どうするって? |
慈 | 綴理が一番可愛がってたじゃん? 持って帰るかなって。 |
綴理が強い衝撃を受ける。ここからぺきんだっくも居なくなるのだという事実に殴られるイメージ。 | |
さやかはそんな綴理の心情を知らず、さらっと笑顔で言う。 | |
綴理 | 持って、帰る……? |
さやか | ああ、それはいいかもしれませんね。 この子も綴理先輩と一緒なら、嬉しいと思いますよ。 |
綴理 | ごめん、待って。 待ってほしい。 |
さやか&慈 | ? |
綴理 | ボクが持って帰るってことは、ここにはもう置かないってこと? |
慈 | べつに置いといてもいいんだけど。 綴理が凄い気に入ってたし、 だったら綴理が持って帰った方がいいかなってさ。 |
綴理 | どうして……。 |
慈 | え、どうして? |
綴理 | この子もボクもここにいたいのに。 |
綴理 | そっか……そういう、ことなんだね。 |
綴理はきゅっと口元を惹き結んでそう言って、それから口走ってしまった本音がみんなの想いを裏切っていることに気付く。 | |
綴理 | ……ごめん、みんな。 ボク、やっぱり……卒業、したくないっ……! |
だっと走っていってしまう綴理。ぺきんだっくを持ち去ってしまう。 | |
綴理 | っ……ごめんっ。 |
小鈴 | つ、綴理先輩! |
さやか | ……すみません、皆さん。 |
一礼して、さやかもその背中を追いかける。 | |
姫芽 | み、みんなで行きますか!? |
慈 | ……ここは、さやかちゃんたちに任せよっか。 |
瑠璃乃 | めぐちゃん? |
慈 | こういうのは感情だからね。 時間が止まってくれるわけじゃない。 今は……あのふたりがいいと思うよ。 |
慈 | ……綴理。 |