第8話『Not a marionette』
PART 4
綴理に加え、伝手を頼ってくれた吟子と、それから興味を持ってついてきた小鈴の3人。 | |
小鈴 | 聞きましたよ、綴理先輩! 大活躍だったって! |
綴理 | さやにも褒められたんだ。 ボクは、事務作業は全然まったくダメダメだったけど…… 市役所のみんなの力には、なれたみたい。 |
吟子 | それはよかったです。 小鈴が、先輩方のお力になりたいと、 今にも飛び出していきそうな顔をしてましたから。 |
小鈴 | で、でもちゃんとガマンしました! その分まで、頑張ります! 今回は! |
吟子 | ふふ、きょうはよろしくお願いします。 |
綴理 | ん、こちらこそ。 |
小鈴 | それはそうとして、ずっとやってみたかったんだ! 伝統工芸のお手伝い! 金沢って感じがするね! |
吟子 | 今日行く茜やさんは、染め物の工房です。 職人さんにはご迷惑をおかけしないように、気を付けようね。 |
小鈴 | 頑張るぞー、ちぇすとー! |
綴理 | ちぇすとー。 |
ふたりが吟子を見る。 | |
吟子 | えっ? あっ、はい。 ちぇすとー……。 |
茜やのイメージです。 | |
吟子 | こんにちは。 今日はよろしくお願いします。 こちらのわがままを聞き入れてくださり、ありがとうございました。 |
小鈴 | ありがとうございます! 精一杯やります! |
綴理 | なにをすればいいのかな? |
吟子 | ここは、百生の家と昔からお付き合いのある、伝統ある染物屋さんです。 そして今は、染め物の伝統をたくさんの方に知ってもらうべく 体験コーナーも開いていて。 |
小鈴 | わー、徒町もやってみたいです! |
吟子 | 今日はその体験コーナーで接客してくれる人が足りないということなので、 私たちでその役回りを埋めてほしいと。 |
小鈴 | はい、分かりました! |
吟子 | 綴理先輩も、どうですか。 |
綴理 | ん、分かった。 任せて。 |
吟子 | では、よろしくお願いします。 |
吟子 | 私が出来る限りサポートしますし…… 工房には職人さんたちもいらっしゃいますから、 |
吟子 | 困ったことや、分からないことがあれば、逐次連携を取っていきましょう。 |
小鈴 | わっかりました! 頑張るぞー! ちぇすとー! |
綴理 | ん……体験コーナーか。 |
小鈴 | 綴理先輩? |
綴理 | ボク、こういうの得意かもしれない。 |
小鈴&吟子 | ! |
茜やのイメージです。 | |
綴理 | うん、とても綺麗。 ボク、これ好き。 アドバイス? ううん、要らないよ。 次にキミがどんな色を足すのか、楽しみ。 |
綴理 | キミのも、筆が細やかで踊っているみたいだ。 ここらへん、もっと足してほしくてうずうずしてそう。 |
小鈴 | ほわー……綴理先輩、めちゃくちゃ人気……。 |
綴理 | すず。 |
小鈴 | はい! |
綴理 | ぎんに頼んで、もう1枚デザイン用の紙、出してもらって。 この子、もっと描きたいって。 |
小鈴 | はい! すぐに! |
だっと走っていく小鈴。 | |
入れ替わるように吟子がやってくる。 | |
吟子 | 綴理先輩、そちらはどうですか? |
綴理 | うん、良い感じだよ。 ね、みんな。 |
綴理 | ボクの描いたのも見たい? ……ぎん、いいかな? |
吟子 | え、あ、はい。 皆さんが望まれていることなのなら。 |
綴理 | じゃあ……そうだな、こうやって、こんな感じとかどうかな。 |
さらさらと筆を動かす綴理。 | |
吟子 | わあ……。 |
吟子 | 綴理先輩、ダンスだけじゃなくて、 芸術の分野においても本当に、才能のある方ですね……。 |
綴理 | それはよく分からないけど……気持ちが伝わったなら、良かった。 |
吟子 | 気持ち、ですか? |
綴理 | うん。 みんなが良いって言ってくれたってことは、 ボクの気持ちが、伝わったってことなんだよ。 |
吟子 | これは、どういう気持ちで……? |
綴理 | このお店に感じる、懐かしくて暖かい雰囲気と…… ここに興味を持ってやってきたみんなの……風みたいなものをイメージして。 |
綴理 | 今日のこのお店を、描いてみたんだ。 |
吟子 | それは……。 |
目を見開く吟子が、改めて綴理のデザインを見る。 | |
吟子 | 自由な発想……心に溶けるモチーフ…… そっか、こんな風にしてもいいんだ……。 |
吟子 | 私が言うのもなんですけど、綴理先輩。 |
綴理 | ? |
吟子 | 来てくれて、ありがとうございました。 皆さん、良いものが見られたと思います。 その……私も。 |
綴理 | お礼を言うのは、ボクの方だよ。 こんな風に綺麗なものが描けたのは、ぎんと、みんなのおかげだから。 |
そこに小鈴が戻ってくる。 | |
小鈴 | 綴理先輩! 紙、たくさんもらってきました! |
綴理 | よし、じゃあみんな、もっともっと描こうか。 |
小鈴 | 綴理先輩、すっごくイキイキしてますね! |
綴理 | そうかな、そうかも。 ……そっか、これもまた、みんなで作る芸術なのかもしれない。 うん、イキイキしてるよ、ボク。 |
れいかさんと綴理のふたり。久々の市場お手伝いのイメージ。 | |
れいかさん | ……。 |
綴理 | はいおつり。 美味しい煮つけにしてね。 ありがとう、また来てねー。 |
れいかさん | ……綴理ちゃん。 |
綴理 | なあに? |
れいかさん | なんだかその……2年前と比べて、すっごく見違えたわね。 |
綴理 | そう? あんまり伸びてない気がする。 |
れいかさん | あはは、身長の話ではないのよ。 そういう緩いところは変わらないわね。 |
れいかさん | でも、……そうね。 |
れいかさん | もう立ってるだけの綴理ちゃんじゃないのね。 立派なスクールアイドルになったわ、綴理ちゃん。 |
れいかさんの言葉で、綴理はその言葉に込められた本質的なことに気が付く。 | |
綴理 | ぁ……。 |
綴理 | ボクね、今色んな職業体験してるんだ。 みんなに背中を押してもらって、色んなことをしたよ。 未来のボクが、卒業した先にやりたいことを見つけられれば、って。 |
綴理 | ボクがやりたいことってなんだろう…… そう思いながら、この数日頑張ってみたんだ。 |
綴理 | できないこともあったけど……できたことは、どれも楽しかった。 |
綴理 | 金沢市のみんな、金沢のことが好きな人たち……そして、 ボクの大好きな、市場の人たち。 |
綴理 | みんなとの時間が、ボクは好きで…… みんなのために、頑張るのは楽しいんだ。 |
れいかさん | こうやって、頑張ってくれたものね。 はあ、ちょっとお姉さん泣きそう。 |
綴理 | れいかさん? |
れいかさん | 大丈夫よ、綴理ちゃん。 あなたはどこでだって、素敵な人で居られるわ! 綴理ちゃんは本当に、成長したもの! |
綴理 | ! ……ありがと、れいかさん。 そういうれいかさんは、いつもれいかさんだね。 |
れいかさん | それは、褒めてくれているのかしら。 |
綴理 | うん。 いつもボクに向ける笑顔が変わらない…… いつも、ちゃんと見てくれてる。 |
れいかさん | ふふ、それはこれから先も変わらないんだからね! |
綴理 | うん……ありがと。 ボクは、成長……頑張る。 |
確かな手ごたえを感じる綴理で〆。 |