第8話『Not a marionette』
PART 2
綴理が屋上庭園に向かおうと歩いている。 | |
綴理 | ボクの……やりたいこと……。 |
と、そこで慈を見つける。 | |
綴理 | あれ? |
慈が補習室から出てきて、憤懣やるかたないとばかりに肩を怒らせながら歩いている。 | |
慈 | ええい、何度も何度も何度も何度も言わなくたって、わかってるっての。 |
慈 | こんな生活とも、あと数か月でおさらばだよ! めぐちゃんは、ちゃーんと卒業してやるんだから……! |
綴理 | めぐ。 |
慈 | あれ、綴理。 練習は? |
綴理 | 終わったとこ。 |
慈 | なにー? じゃあ私が急いだ意味は……。 はあー、ちょっと自主練でもしてくかな……。 |
そう言う慈の服の裾を掴むような感じで、弱弱しく綴理が慈を引き留める。 | |
慈 | 綴理? |
綴理 | ……めぐ、ちょっと聞いてほしい。 |
慈 | ん……どした? |
綴理と慈がふたり並んでぼんやりと校庭を眺めている。 | |
慈 | なるほどねー。 卒業したあとのこと、か。 隣の部屋が空いたの、ショックだったわけだ。 |
慈 | 綴理は相変わらず、感性が強いなー。 |
綴理 | ……うん。 |
綴理 | めぐは……早く、卒業したい? |
ちらっと隣の慈に目をやる綴理。慈は振り向かないまま、こともなげに告げる。 | |
慈 | 別に、綴理より先に卒業する気はないけど。 留年するつもりもないかな。 |
綴理が振り返れば、地区予選突破に沸いていた庭園が視界に入る。 | |
綴理 | ボクは……ずっと、あの景色を見ていたいんだ。 |
慈 | ああ……昨日の、ね。 みんなで喜んで、楽しくて。 ……それは、分かるよ。 |
慈 | でもさ、綴理。 んー……今の綴理にとっては、気休めかもしれないけどさ。 |
慈 | たぶんこれから先も、綴理なら大丈夫だって、私は思うんだよね。 |
綴理 | どうして? |
慈 | 私が3年間見てきた夕霧 綴理は、 やりたいことを慣れないながら頑張ってたから、かな? |
慈 | 最初は「ス」だったんでしょ? 今はスクールアイドルになれたじゃん。 それと一緒。 |
慈 | たとえばさ……綴理のやりたいこと、何かないの? |
綴理 | スクールアイドル以外に、ってことだよね? |
慈 | うん。 職業体験って言っても色々あるじゃん。 ダンスパートナーとか、綴理は向いてそうだと思うけど。 |
慈 | ほかにも、市場の看板娘とかさ。 |
慈 | 綴理がやってたものは、全部好きになれるもの……。 やりたいことになってくれるかもじゃない? |
綴理 | そっか……そういうもの、なんだね。 じゃあそうしようかな。 |
相変わらず流され気味な綴理に何かを言うべきか迷う。 | |
慈 | ……。 |
綴理 | めぐ? |
ただ、職業体験を通じて綴理が何かを手に入れられるならその方がいいと思い直す。 | |
慈 | ううん、なんでもないよ。 てゆか私も人の心配してる場合じゃないしねー。 |
慈 | そういやあったな、進路調査票なんてものも。 |
綴理 | めぐ、仲間? |
慈 | 提出してない仲間、みたいなくくりなら、まあ、そう! るりちゃんが悲しい顔する前に、さっさと出そ。 |
綴理 | ううっ……。 |
慈 | ん、どうしたの? |
綴理 | ボクも、さやがあれからずっと 『どうなりました?』って聞いてくるから……。 |
綴理 | このままだと、さやとしたい他の話もできない……。 |
慈 | わー、うちより苦労してるー。 そういうとこメチャクチャちゃんとしてるもんね、村野先輩。 |
綴理 | それに逃げ続けてたら、お弁当抜きにされちゃうかもしれない……! |
慈 | そんなの、綴理、生きていけないじゃん。 |
綴理 | やらなきゃ……! |
慈 | ま、まあ綴理なりにで良いからね。 なんかあったらフォローするからさ。 |
綴理 | ありがと、めぐ。 |
全員登場。綴理の決意表明と、これからやるべき職場体験の紹介。 | |
綴理 | みんな、ありがと。 ボク、頑張ってみる。 |
花帆&さやか&瑠璃乃&小鈴&姫芽 | おおー。 |
梢 | 分かったわ。 見つかると良いわね。 あなたのやりたいこと。 |
小鈴 | 綴理先輩! 徒町のツテは全部ダメでした! ごめんなさい! |
綴理 | ううん、大丈夫。 ボク、頑張った。 |
花帆 | さっそく! なにを頑張ったんですか? |
綴理 | 色々聞いて、やっていいよって言ってくれる人たち、見つけたよ。 |
梢 | 職業体験の場所を? |
慈 | ……そう、だね! 綴理は頑張ってたよ、うん。 なんてったって、寮母さんに仕事くださいって言ってたからね! |
花帆 | ええー!? じゃあ綴理センパイが一日寮母さんになるんですか!? |
姫芽 | あ、じゃあじゃあつづりせんぱ~い。 寮母権限でラウンジにでっかいテレビとか置いてほしいんですよ~。 |
綴理 | 寮母さんには、別のお仕事を貰ったよ。 ごめんね、ひめ。 |
姫芽が肩を落とす。だめかー!くらいのコミカルながっかり感。 | |
綴理 | あとは、れいかさんに頼んだら、一度ちゃんとお仕事してもいいって。 立ってるだけじゃなくて。 |
梢 | そう……本当に頑張るつもりなのね。 お仕事ふたつも。 |
姫芽 | あ~、でも。 そしたら吟子ちゃんのはどうする~? |
綴理 | ぎん? なにかしてくれたの? |
吟子 | あ、いえ……場所があればと思って、一応。 |
吟子 | 百生の家とお付き合いのあるお店が、ちょうど人手不足の日があるそうで。 是非にとは言われたんですが……。 |
小鈴 | わ、すごいちゃんとお仕事って感じですね! 徒町まで気になってきちゃった! |
吟子 | でも、2か所もあるなら十分ですよね……。 |
綴理 | ううん、ありがと。 せっかくぎんが助けてくれたんだ。 ボク、そこも行きたい。 |
吟子 | あ、はい! 本当に人手が足らないみたいなので、私だけでも行こうかと思ったくらいで。 |
吟子 | 綴理先輩さえ、よろしければ。 |
さやか | やる気十分、って感じですね、綴理先輩。 |
綴理 | さや。 |
慈 | そう! 綴理は頑張ってたよ、さやかちゃん! |
さやか | なんのフォローなんですか!? |
慈 | こんなに頑張ってたらお弁当抜きとかにはならないよね! |
さやか | ……確かに、そういう手もありますか。 |
綴理 | !! ちゃ、ちゃんと行くよ! |
慈 | そうそう、綴理の頑張りをちゃんと見てあげるんだよ、さやかちゃん! |
綴理 | でも……。 みんなありがとう。 ぎんもそうだし、ボクのために探してくれて。 いつも、嬉しい。 |
花帆 | そんなの、当たり前ですよー。 後輩として、綴理センパイにも、めいーっぱい、お世話になりましたし! |
瑠璃乃 | スクールアイドルとして必要なものをもらえた、 恩もありますからねー。 |
瑠璃乃 | なにかできることがあるなら、いつでも返したいです。 気持ちが暗くなっちゃってるなら、なおさら。 |
綴理、嬉しそうに微笑む。 | |
綴理 | ……うん。 |
慈 | るりちゃんにとっては、 スクールアイドルクラブで唯一ユニットを組んだ“先輩”なんじゃない? |
慈 | 私は先輩って感じじゃないし。 |
瑠璃乃 | あ、かもね! めぐちゃんはルリのめぐちゃんだし。 |
姫芽が後ろで腕組んで頷いている。 | |
さやか | こほん。 まあそういうわけですので、色々やってみましょう。 とりあえず、最初は寮母さんからご紹介いただいたお仕事、どうですか? |
綴理 | うん、頑張ってみる。 市役所の事務。 |
さやか | 市役所の……事務? |
梢 | ………………大丈夫? |
さやか | わ、わたしもついていきますから! |
梢 | そう……でもさやかさんがぜんぶやってあげちゃ、だめですからね……? |
さやか | わたしなんなんですか! |