第8話『Not a marionette』

PART 1

さて……みんな。
全員の顔が映る。緊張感に満ちた表情。
改めて、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ……
ラブライブ!地区予選突破しました!
瑠璃乃&姫芽
よっしゃー!!
隣にいた吟子の手を取る小鈴と、
小鈴
やった、やったね!
確かな達成感に頷く吟子。
10月シナリオより。ホッと胸をなでおろす吟子。
吟子
うん、やった……!
先輩方の目にくるいがなくて、よかった……。
さやか
ふふ。 良かったです。
改めてもう一度、地方大会に歩みを進められた……。
花帆とさやかが頷き合い、その光景を満足気に眺めている綴理が映る。
花帆
ここからだね、さやかちゃん!
さやか
はい、もちろんそうです!
その光景を満足気に眺めている綴理が映る。
つーづりーん。 なにエモい顔してんの?
綴理
してた?
ふふ。 去年も地区大会の結果を話す時はこうしていたわね。
綴理は、この景色が好きなのよね。
え、なに?
ふたりの世界に入ろうとしてる? 今。
慈が、喜びを分かち合う一、二年生へと目をやる。
そうじゃないわ。
ま、去年より人数も増えたし、
綴理は賑やかな輪の中にいるのが、なにより幸せそうだからね。
改めて噛み締めるように綴理が言う。
綴理
そうだね。 去年と違って悩みもないし……
うん。 良い景色。
すると、慈が優しく笑って告げる。
でも、去年と今年じゃまた違うんだよ綴理。 ふふっ、ほら。
小鈴
綴理せんぱーい!
徒町、徒町なんとか足を引っ張らずに済みましたー!
姫芽
小鈴ちゃん、あっち三年生だけで何やら会議中っぽいよ~?
突っ込んじゃう?
吟子
だったら邪魔しちゃダメでしょ……!
綴理
……ふふ。
綴理、微笑んでみんなの輪に近づく。
綴理
うん、みんなすごくいいパフォーマンスだったと思うよ。
花帆
綴理センパーイ! あたしは、あたしはどうでしたかー?
綴理
明るさはそのまま……去年よりもっと良かった。
花帆
やったー!
お、褒められたがりか~?
花帆
えへへー。 あとで慈センパイも褒めてくれていいんですよー?
花帆
じゃなくて!
花帆
あたしは綴理センパイの正直な評価を聞きたかったんですー!
今後を見据えて!
吟子
確かに……。
綴理先輩って、なんというか、物事をちゃんと見てくれている気がします。
吟子
私も、聞きたいです。
綴理
ぎんもひめも……すずも。 3人の色が混ざり合って調和して……。
綴理
ボクは、なんだか感動してた。
これが今の蓮ノ空なんだなって思ったよ。
一年生三人が顔を見合わせ、はにかむ。
綴理
ボク、ちゃんと見てるんだ?
あら、自覚がなかったの? みんなそう思っているんじゃないかしら。
綴理
それは、嬉しい。
綴理は、私たちが大好きちゃんだからね。
一年の頃より、雲とかアリとか眺めてる時間、減ったでしょ?
綴理
なんでわかるの?
その分の時間、いちばん大好きなもの……
スクールアイドルのことを、眺めるようになったってことだよ!
綴理
それは、そうだね。 うん。
ボクも……スクールアイドルのみんなが大好き。
綴理
ありがと、めぐ。
綴理
去年、見てるだけでも幸せだった。 でも今は。
周囲を見渡し、自分も同じ輪の中にいる状態に気付く。
綴理らしからぬくらい穏やかで優しい笑みを見せて〆。
綴理
ああ、うん。 今が、一番楽しい。
綴理が部屋に戻ろうとするところで、隣の部屋から出てきた寮母と遭遇する。
寮母は空になった部屋の掃除を終えて出てきたイメージ。改めてがらんとした部屋を振りかえっている。
寮母
ふう……慣れたとはいえ、毎度寂しいものね。
寮母
あら、夕霧さん。 こんにちは。
綴理
こんにちは。 お掃除?
寮母
そうですよ。 あなたのお隣さんのね。
綴理
そうだったんだ。 頼めばボクの部屋もやってくれたのか……。
寮母
寮母の仕事はお手伝いさんではありませんよ。
部屋が空いたから、その掃除をしていたんです。
綴理
空いた?
綴理がそこで寮母に並び、目を見開く。
綴理
……えっ?
綴理の驚きの描写後、がらんとした部屋が映る。
寮母
この子は、早期卒業したんですよ。
蓮ノ空では、珍しいことでもないですが。
綴理
……。
寮母
少し、寂しくはありますね。
その寮母の言葉に綴理の返事はなく、シーンを〆る。
慈と梢以外のメンバーがこの場に揃っている。
さやかがデスクについて書類仕事中。
やけっぱちで叫ぶ、困り笑いのさやか。
さやか
提出物が! 多すぎます!
隣で花帆と小鈴が、さやかのお手伝いをしている。
小鈴
徒町たちも、お力になりますよ!
徒町は右から、花帆先輩は左から読み上げてください!
花帆
それだ!
左右から音読することで、さやかちゃんの書類処理速度を、3倍に……!
吟子
ふたりとも、それはさすがに邪魔だよ……。
……えっ、できませんよね?
吟子
もしかして、さやか先輩なら、できるんですか……?
さやか
そうですね! さすがにできませんね……!
お気持ちは嬉しいので、1枚ずつ、頑張ります。
さやか
あ、あはは……いえ、お気持ちは嬉しいですよ。 頑張ります。
姫芽
分かりますよ~。 応援は力になりますよね~。
ツッコミをする気力もなく、何もかも諦めて笑うしかないさやか。
さやか
そう、ですね!
吟子
そういうのってパフォーマンスに限った話じゃ……。
吟子が首を傾げながら、ふと扉の向こうの人影に気付く。
梢が入ってくる。
みんな、書類の方はどうかしら。
花帆&瑠璃乃
今、がんばってます!
吟子
花帆先輩は、邪魔してたでしょ……。
さやか
年末までにやっておかないといけないことは、多いですね……!
ありがとう。 未提出書類のリストは貰ってきたから、
優先度順に潰していきましょう。 ……と。
梢が、部室の隅で窓の外を見ている綴理に振り返る。
提出物といえば、綴理。
あなた、進路調査票が未提出だと聞いたのだけれど。
書類から勢いよく顔をあげるさやか。
さやか
え!? 綴理先輩!?
ぼーっとしている綴理は、窓の外を眺めたまま聞こえていない。
綴理
……。
さやかが立ち上がり、綴理のもとへ。回り込むように綴理の顔を覗き込む。
さやか
……綴理せんぱーい?
そこでようやく気付いて綴理がさやかを見る。
綴理
あ、うん。 なに?
なにではなくて。 あなた、進路調査票は?
綴理
なにそれ。
さやか
卒業後の進路を学校側に知らせる提出物です。
もう11月ですし……11月!?
さやか
なんでまだ出してないんですか!?
わたしが代わりに書きましょうか!?
びっくりした顔で瑠璃乃がさやかを見る。
瑠璃乃
そ、それはまかり通らないっしょ。
綴理
卒業後の……進路。
綴理はがらんとした寮の空き部屋を思い出して、眉をひそめる。
綴理
卒業……しなきゃダメ?
さやか
えっ……?
綴理、あなた……。
綴理
今日、隣の部屋が空いたんだ。 早期卒業、だって。
ボクはここから、離れたくないな……。
綴理
……ごめん、なんでもないや。
あまりにも寂しそうに綴理がそう言うので、一瞬静まる部室内。
小鈴
徒町は……徒町は、卒業してほしくないです!!
急に無茶なことを言う小鈴に驚く吟子。
吟子
こ、小鈴!?
花帆
してほしいか、してほしくないかって話だったら、
そりゃ、綴理センパイにも、ずっといてほしいに、決まってますけど……。
ちらと梢を見やる花帆。
困り笑いで応える梢。
ええっと……?
姫芽は天井を見上げて上の空で呟く。
姫芽
卒業がなければ……るりちゃんとめぐちゃんもずっと一緒……?
姫芽の視界を遮るようにぶんぶん手を振る瑠璃乃。
瑠璃乃
おーい、ひめっち帰ってこーい。
姫芽
え、絶対嫌ですけど、めぐちゃんとるりちゃんが離れ離れなんて!
瑠璃乃
そんなこと言われても……!
綴理
えっ、いける……?
寂し気ながら、努めて明るく首を振る梢。
いけません……。
卒業……しなくていいとは言えないわ。
でも、あなたの気持ちは、私も分かるはず。 同じ三年生だもの。
綴理
……こずも、寂しい?
あまりにも当たり前すぎて、
口に出すのは少し恥ずかしいのだけれど……。
綴理
……。
綴理の視線を浴びて、恥ずかしそうに口を開く梢。
そうね、スクールアイドルでいられる時間が、
あと半年もないというのは、とても寂しいわね。
綴理
でも、卒業はするんだね。
……それは、そういうものだもの。 区切りがあるからこそ、がんばれる。
3年という月日を、たったの1日だって無駄にはしないように。
私はそう思って、過ごしてきたつもりだわ。
綴理
……そっか。
綴理
……。
そんな落ち込む綴理を、言葉で支えるようにさやかが声をかける。
さやか
綴理先輩。 たとえばなんですけど。
去年、オープンキャンパス頑張ったじゃないですか。
綴理
え、うん。 頑張った。
さやか
はい。
だからたとえば、中学三年生が、高校に希望を持ってくるように……。
さやか
きっと、高校を卒業したあとも、
綴理先輩もこの先で楽しいこと、たくさんありますよ。
小鈴
綴理先輩!
小鈴
徒町、良いこと思いつきました!
いや、徒町なので的外れかもしれませんが!
綴理
? ううん、聞きたい。
小鈴
はい! 綴理先輩も、オープンキャンパスをやればいいんです!
綴理
やったよ? 頑張った。
さやか
ああ、そういうことですか。
綴理先輩、蓮ノ空のオープンキャンパスではなく……。
さやか
綴理先輩自身が、
将来やってみたいことを探してみればいいのではないかと。
姫芽
それは良い考えかもです~!
そう言って姫芽は瑠璃乃に抱き着く。
姫芽
アタシの場合は偶然でしたけど……。
姫芽
やることなくなって燃え尽きてる時に、
みらくらぱーく!に出会えたおかげで、この先が楽しみになったんです~!
瑠璃乃
……面白いかもですよ、つづパイセン。
やっぱ、新しいことって、自分から探してみないと見つからないもんですし。
瑠璃乃
ルリも、スクールアイドルクラブが楽しそうだと思ったから、
ここに入ったんです。
綴理
新しい……やりたいこと……。
小鈴
梢先輩は、どう思いますか!?
梢は一瞬悩んで、綴理の方を見る。綴理が新しい何かを見つけてくれればいいな、という気持ちで、うなずく。
えっと……そうね。 いいんじゃないかしら。
卒業した後の、やりたいこと探し。 どうかしら、綴理。
みんなに背中を押されて、半ば流され自分の気持ちを押し殺しきれず、曖昧に頷く。
綴理
……そっか。 その方が、いいんだね。
綴理
ちょっと、考えてみたい。
小鈴
そしたら、やること探すチャレンジです!
徒町も色々、探してみますね!
綴理
ん……ありがと、すず。