第5話『不完全で、未完成』

PART 5

小鈴
梢せんぱーい!
こら、家の中は走らない。
小鈴
あ、はぁ! すみません!
あまりに広くて家だということを忘れて。
靴を脱いでいるのだから家よ。
小鈴
そういうものなのか……。
それで、どうしたの?
小鈴
あ、いえ。 スケジュールどんな感じかなと思いまして。
そうね。 少し押したけど、まだ全然大丈夫よ。
もともと、ある程度遅れることは前提で組んでいるし。
小鈴
はー……本当にありがとうございます。
梢先輩にお願い出来て良かったです……。
ふふ。 私も、ちゃんと頼ってもらえて嬉しかったわ。
私に向いていることだから、余計にね。
小鈴
そ、そう言っていただけると。
やっぱりちょっと、大先輩方にお願いするのは気が引けたので。
小鈴
あ、いえ、慈大先輩にはもう頼ってしまったんですけども!
三年生は大先輩なのね。
私には大先輩は居なかったから、新鮮だわ。
……いえ、だからこそかしらね。
私に大先輩が出来ているか心配でもあったからこそ、
頼って貰えて嬉しかったのかも。
小鈴
いえいえ。 ちゃんと考えると、
こういうことは梢大先輩にお任せするのが絶対一番なので!
小鈴
部長で、落ち着いてて、
細かな仕事もさらっとやれてしまうところとか。
ふふ、ありがと。
本当にあなたは、気持ちよく仕事をさせてくれるわね。
小鈴
褒め上手と言ったのよ。 さやかさんとも朝に話したのだけれど。
人の得意なところをよく知っている。 それはあなたの長所よ、小鈴さん。
小鈴
……よく、分からないです。
あ、いえ、褒めてくれてるのは、ありがとうございます!
ふふっ。
私も、もっと褒め上手になれるように、あなたを見習ってがんばるわね。
小鈴
はわわ! そんな! お上手です! 免許皆伝ですよ!?
瑠璃乃
やほやほ、おふたりさま。 ここに居たんだ。
あら、瑠璃乃さん。 どうしたの?
瑠璃乃
お夕飯がでけましたー。
みんな結構根詰めて頑張ってるからね、食事の時くらいはゆっくりしよ?
あら、もうそんな時間。
小鈴
ありがとうございます、瑠璃乃先輩!
瑠璃乃
おうよ!
小鈴
あの、あともいっこお聞きしたいことが。
瑠璃乃
うん、なんでもおききききするとよい。
小鈴
みんな大変そうですか? その、無理させちゃったりは。
瑠璃乃
ああ、だいじょぶそう!
みんなおなかぺこぺこーって感じだったけどさ。
瑠璃乃
良い疲れ方ってゆーか充電の使い方ってゆーか。
小鈴ちゃんが心配するようなことはなんにもなし!
小鈴
そですか、良かった。
瑠璃乃先輩にそう言って貰えると。
それは、どうして瑠璃乃さんなの?
小鈴
瑠璃乃先輩が、一番みんなのこと見てくれてますから!
ちょっとでもやばいと、瑠璃乃先輩がいつも気付いてくれて。
瑠璃乃
お、おう。 急になんでい。
よく見てるって言ったら、小鈴ちゃんの方じゃない?
瑠璃乃
めぐちゃんも花帆ちゃんも、みんなも、
あんなやる気なのは小鈴ちゃんのおかげだとルリ思う。
小鈴
ね?
小鈴
は、はい! 徒町、もっともっと頑張ります!!
その宣言に笑い合う梢と瑠璃乃で〆。
夕食を終えたあともまだまだ頑張るイメージ。
脚本作りが終わり、撮影を進めている。
まずこの場に居てシーンを見守るメンバーを映す。
さやか
よし、おっけーです。
小鈴
はぁ……ふぅ……がんばる、がんばる。
はいそれじゃー、あくしょん!
その瞬間、綴理のスイッチが入るようなイメージ。
ふわっと姿勢を正して、かっこよく海を見ながら語る。
綴理
ん。
綴理
今宵、キミは敗れた。
小鈴
くっ……。
綴理
でも、もしもキミに、それでもやりたいことがあるというのなら……
やってみせるといいさ。
綴理
私は、キミたちの活躍を楽しみにしている。
ラブライブ!の舞台で。
綴理
ただ……折れるというのならそれもキミのものだ。
何かを諦めるということは、間違いというわけでもない。
小鈴は諦めてなどいなかった。顔をあげないまま、ぽつりと零す。
小鈴
……満ち潮って知ってる?
綴理が改めて振り返ると、小鈴は俯いたまま語る。
綴理
うん?
小鈴
今は潮が引いて、何度打ち寄せてもあなたの足元にも届いてない。
でも、潮が満ちれば、今あなたの立っているところに届く。
綴理
キミは、何度も打ち寄せる波になると?
小鈴
あたしは、何度だって諦めない!
必ず、いつかあなたに勝つ!
小鈴
教えてもらったんだ、挑戦することは何よりも尊いこてゅおだって!!
一瞬の間が生まれて、小鈴の顔が赤くなる。
小鈴
っ! ご、ごめんなさい! また台詞噛んじゃった。
綴理
……ぎりそのまま行けた気もする。
ふっと綴理がいつも通りに。
ダメダメ! 台詞噛んだことは、意外とみんな気付くんだから!
特にこういう台詞で魅せるシーンはね!
小鈴
でも、もう結構撮り直しちゃって、綴理先輩も何度も同じ台詞を。
綴理
大丈夫、暗記はそこそこ得意。
スケジュールに関しては、今は考えなくて良いわ。
焦りに繋がってもよくないし。
花帆
それに、前回よりずっとよくなってるのは確かだよ、表情も良かったし!
リテイクしたところは直ってるんだから、地道にやっていこうよ!
小鈴
あ、ありがとうございます!
姫芽
にしても、つづりせんぱいは映えますね~。
これはラスボスの風格~。
綴理
いえい。 でも……うん、良い話だからだよ。
綴理
ボクも、自分の役割の子がどういう気持ちなのか分かるし……
何より、すずの役を応援したくなる話だ。
花帆&姫芽
いや~。
さやか
小鈴さん。
小鈴
はい!
さやか
リテイクがかさんで焦る気持ちも分かりますが、
良いものにする方が大事です。
さやか
小鈴さんのご友人に贈るものだから、というのもそうですが……
もう、みんなの夢が乗っているのですから。
小鈴
みんなの、夢?
花帆
実はその、誰にも言ったことがなかったんだけど……あたしね、
子どもの頃は、お話作る人になりたいなーって思ってたりもしてたんだ。
花帆
だから、なんだろう。
今ね、すごく楽しいんだよ。
姫芽
アタシも、かほせんぱいに、こんなにアタシの好きなゲームの話を、
楽しく聞いて貰えたの初めてで。
姫芽
こういうお話を通してなら、もっと誰かの“好き”に届くんじゃないかって、
すっごく勉強させてもらってるよ~。
この夏に、みんなでひとつの映画を撮った……私にとっても、
別荘に残すとてもいい思い出になりそうで嬉しく思っているわ。
ま、めぐちゃんは小鈴ちゃんに頼られてしまったからには、
これまでの経験を活かして支えてあげるよ。
小鈴ちゃんの幼馴染ちゃんのためにもね。
さやか
この場にいない瑠璃乃さんと吟子さんもです。
さやか
瑠璃乃さんはロケ地をひとりで探すのがとても楽しいと、
幾つも写真を送ってきてくれていますし。
花帆
吟子ちゃん、もうなかなか着る機会がない衣装がたくさんあったからって、
楽しそうに一生懸命修繕してくれてるよ。
さやか
だからこそ、良いものにしましょう。
そのためのリテイクは決して、無駄ではありません。
さやか
頑張ることは、無駄ではありませんよ。
小鈴
……はい!
綴理
ありがとね、すず。
小鈴
へ?
綴理
最初は、よく分かってなかった。 でもやってみて分かったんだ。
これは……みんなで作る芸術だって。
さやか
スクールアイドルと同じ、ですね。
綴理の大好きなやつだ。
綴理
だからボクも……すごく楽しいし、こんなこと思いつきもしなかった。
素敵な夏になりそうだ。
小鈴
大先輩……! ありがとうございます!
徒町、全力を尽くします! よーし、綴理先輩、もう100回お願いします!!
綴理
おー!
それはそれとして、次で終わらせるつもりでやらんかーい!
小鈴
す、すみませんすみません!!
花帆
あはははは!
花帆が楽しそうに笑って、〆。
ここから時間経過の描写。
別荘を映し、朝が来て、日が暮れて、夜になり、もう一度朝が来て、昼が来て、夕方。最終日に時間が進む。