第5話『不完全で、未完成』
PART 4
梢がさやかのもとへやってくる。ふたり。 | |
梢 | さやかさん、少しいいかしら。 |
さやか | はい、なんでしょう。 |
梢 | 少し心配なことがあるのだけれど、どうしようかと思って。 ひとまずはさやかさんと話すのが良いかと。 |
さやか | 心配なことですか。 穏やかじゃないですね……。 |
梢 | ……小鈴さんにメインで頑張ってもらいたいでしょう? でも、うまくまとまるかしら。 |
さやか | というと……。 |
ふたりが視線を同じ方向に向ける。その先に、小鈴と慈と花帆。 | |
花帆 | それじゃあ、小鈴リーダー! イメージをどうぞ! |
小鈴 | えっと、そうですね! どうしましょう! |
慈 | 必要なのは最高の絵作り。 被写体と言えば当然めぐちゃんだよね♪ |
さやかと梢の視点に戻ってきて。 | |
花帆 | そんなことよりお話ですよ! 素敵なストーリーを作らないと! |
慈 | そんなことだとー!? |
梢 | という。 |
さやか | な、なるほど……。 ……わたしたちで、小鈴さんのフォローに回りますか? |
梢 | それが一番かもしれないわね……あら? |
と、そこで小鈴の声がふたりのところに聞こえてくる。 | |
小鈴 | そうですよね! |
なんだ、と思ってさやかと梢の視線の先。また視点が小鈴慈花帆に移る。 | |
小鈴 | いつも慈先輩の写真映りはすっごく可愛く盛れてますし! お話はやっぱり、いっぱい本読んでる花帆先輩の方が! |
花帆 | い、いっぱいってほどじゃないんだけどな。 |
慈 | なんだ、小鈴ちゃんはちゃんと分かってるね。 |
慈 | 映像はひとつひとつの絵の集合体なんだよ。 だからこそ、そのひとつひとつっていうのがとても大事になってくるわけ。 |
小鈴 | ほわー……慈大先輩、どうすれば良いですか!? |
慈 | ん? そうだねぇ。 |
慈 | とりあえずカメラをちゃんと安定して置ける場所を確保して、 そこからの景色を見て、想像するのはそれからだよ。 |
慈 | こういうアングルだと可愛い、こういう雰囲気ならこう。 もちろん色々バリエーションはあるから、ひとつの場所でもいっぱい作れる。 |
慈 | お話に合わせて選んでもいいかもね。 |
小鈴 | そ。 |
慈&花帆 | そ? |
小鈴 | そんなこと考えもしませんでした! |
小鈴 | 流石は慈大先輩、姫芽ちゃんからもたくさん聞いてたけど、 徒町は完成した慈先輩の写真しか見てなくて。 |
小鈴 | 実際に裏側では、そんなにたくさん積み重ねと考えがあったんですね! |
腕を組み、自信満々に頷く慈と、目を輝かせる小鈴。 | |
慈 | ま、まーね! |
慈 | めぐちゃんにかかれば? 撮影のことはばっちりだし? なんだったら編集でどうすれば良くなるかも分かってるし? |
慈 | どーんとこのめぐちゃんに任せておきなさい! |
小鈴 | はい! めちゃめちゃ頼りにしてます! |
花帆 | わぁ……慈センパイの鼻があり得ないくらい伸びてる……。 |
小鈴 | 花帆先輩も! |
ぐるんと小鈴に急に向き直られて驚く花帆。 | |
花帆 | は、はい! |
小鈴 | 花帆先輩がWith×MEETSで作品の感想とか話しているのを見て、 アーカイブで色々見返したんです。 |
花帆 | わざわざアーカイブまで? |
小鈴 | そしたら、徒町じゃ全然気づかないところも気付いてて……。 |
小鈴 | 雪佳ちゃんも映画好きってだけあってそういうところもうるさいけど、 徒町じゃ分からないから……。 |
小鈴 | お話については花帆先輩が頼りだなって思ってて! |
花帆 | えー、そっかー、照れちゃうなー。 でも、そういうことなら分かったよ。 あたしも頑張って考えてみる! |
小鈴 | はい! |
慈 | ほーん、鼻が伸びてるってこういうことか。 |
花帆 | はっ……慈センパイと同じになっちゃった……!? |
慈 | ま、とりあえず花帆ちゃんに任せるところは任せるとしてだ。 |
慈 | まずは今回の中心である小鈴ちゃんに、 絵作りのいろはを叩きこんであげよう。 さあ、ついてきなさい! |
小鈴 | はい、先生! |
ロケーション探しのためか、砂浜を走っていく慈と、それを追いかける小鈴。 | |
花帆 | よし、あたしも考えまとめよう! |
花帆は別荘の方に(小鈴たちとは反対方向に)走っていく。 | |
一部始終を見ていた梢とさやかに視点が戻る。 | |
梢 | なんだか……。 |
さやか | 杞憂だったかもしれませんね。 |
さやか | 思えば小鈴さんは、人の長所をいつも羨ましがっていて……。 |
さやか | それは裏を返せば、人の長所によく気付くということなのかもしれませんね。 |
梢 | それに褒め上手ね。 花帆と慈が揃っていて、両方あんなに自信満々にやる気を出すなんて。 |
さやか | ……小鈴さんに人を動かしているつもりはないのでしょうが…… 結果的に、凄く良い感じかもしれません。 |
梢 | ふふ。 心配ごとが杞憂だったなら、相談も大丈夫。 私たちは私たちのできることをしましょう。 |
さやか | それで小鈴さんに褒めてもらいましょうか。 |
梢&さやか | ふふっ。 |
花帆が机に向かっている。机にはノートが置いてあって、既に色々書いてある。 | |
花帆は気力十分な表情でペンを手に取っている。 | |
花帆 | 実は花帆は、お話を作ることにはもともと憧れていたのです。 ノートの隅に、自分だけの物語を書いたこともありました。 |
と、頭を抱える花帆。 | |
花帆 | でも……! 難しいなあ……! これでも歌詞はけっこう頑張れるようになってきたんだけどな……! |
花帆 | やりたいことははっきりしてるんだけど、どう繋げればいいんだろう……。 |
花帆 | 小鈴ちゃんがあんなに言ってくれたんだもん、頑張りたいけど! |
と、そこに小鈴が駆けてくる。 | |
小鈴 | 花帆せんぱーい! 進捗どうですか!? |
花帆 | ぎゃあ!? |
小鈴 | ぎゃ、ぎゃあ? |
花帆 | あ、あはは。 ごめんごめん。 |
花帆 | 進捗どうですかって、 作家の人とかがよく編集者さんに言われてるっていうけど……。 |
花帆 | 実際に言われるとドキっとするね! |
小鈴 | すみません、徒町もちょっと言ってみたくなっちゃって! |
笑いながら小鈴を肘で小突く花帆。小鈴も楽しそうにじゃれる。 | |
花帆 | このー。 |
花帆 | でもごめんね、まだ終わってないや。 せっかく頼ってくれたのに。 |
小鈴 | あ、いえ全然! スケジュールは梢先輩が、まだ大丈夫って言ってくれてて! |
花帆 | ほっ……。 |
小鈴 | それでなんですけど、花帆先輩。 |
と、そこで姫芽が小鈴の後ろから顔を出す。 | |
姫芽 | ども~。 |
花帆 | 姫芽ちゃん? |
姫芽 | お手伝いにきました~。 |
小鈴 | 姫芽ちゃん、いつもゲームの話をする時に、 ゲーム分かんない徒町にも分かるように面白く話してくれてて。 |
小鈴 | 盛り上がるところとか、 どうして勝たなきゃいけないのかとか、 |
小鈴 | そういう胸の奥からぐーって 熱いものがこみ上げるようなお話をしてくれるんです! |
姫芽 | あはは。 布教の一環ってだけなんだけど~。 かほせんぱいのお手伝いができればと~。 |
花帆 | ありがとー! え、大丈夫? 姫芽ちゃんメインでやった方がいいかも? |
姫芽 | いやいや、アタシ本はあんまし読まないし、映画もそこまでなんで~。 好きな人には勝てないですよ~。 |
小鈴 | それに、花帆先輩の言葉選びとか、作詞の雰囲気が徒町凄い好きなので! 花帆先輩の考えた台詞、すっごく楽しみなんです! |
花帆 | そ、そう? えへっ、ありがと。 じゃあお言葉に甘えてさっそく……こういう話を考えてるんだけど。 |
ノートを差し出す花帆と、それを覗き込む小鈴と姫芽。 | |
姫芽 | おおー、スクールアイドルが頑張って成長する話。 |
小鈴 | 拝見します! ……。 |
小鈴 | あ、登場人物の名前はみんなの名前そのままなんですね。 |
花帆 | 私的なものだし、色々変えても分かりにくいかなと思って。 でも全然別キャラだよ! せっかく演技するんだもん! |
小鈴 | ふむふむ……。 |
と言ってそのまま読み切るイメージ。 | |
小鈴 | わぁ……確かに、 普段のみんなと全然雰囲気違いますね! |
小鈴 | それに、こういうスクールアイドルのサクセスストーリー、 めちゃくちゃ楽しそうです! |
小鈴 | 徒町、この主人公が羨ましいです! |
花帆 | あ、あはは。 なんだけど、繋ぎがうまくいかなくて。 なんでこの子はここまで頑張るんだろうっていうのがさ。 |
姫芽 | あ、じゃあアタシの好きなeスポーツ選手にこんなエピソードがあって~。 |
花帆 | へー、じゃあその気持ちをこの子にも持たせれば、 絶対に頑張りたいって気持ちにできるね! |
姫芽 | お~、なるほど。 そうなるんですね~。 すごいすごい、お話ってこう作るんだ~。 |
花帆 | あ、あたしは、こうだったらいいなあ、を詰め込んだだけだけど。 どうかな、小鈴ちゃん。 |
小鈴 | は、はい! すごく良いと思います! |
小鈴 | ごめんなさい、徒町はあんまり意見は言えなくて。 あ、でもこれは凄く面白そうです! |
姫芽 | それが聞ければ十分だよ~。 |
花帆 | うん。 あたしはすっごく気持ちを込められたと思う! 小鈴ちゃんがこれで良いなら、これでいこう? |
小鈴 | はい! 花帆先輩と姫芽ちゃんが居てくれて、本当に良かったです! |