第3話『ゆえに、みらくらぱーく!あり』
PART 7
瑠璃乃 | ……。 |
慈 | 入るよ、るりちゃん。 |
瑠璃乃 | あ、めぐちゃん。 姫芽ちゃんは……? |
慈 | うん、追いかけてって、ちょっと話をしたよ。 |
瑠璃乃 | そ、そっか……。 ごめんね、ルリ、頭が真っ白になっちゃって……。 |
慈 | ……。 |
瑠璃乃 | ……ルリ、ゲーム大会が楽しみだったの、ほんとなんだ。 |
瑠璃乃 | 姫芽ちゃんがあんなに嬉しそうに毎日はしゃいでて、 力になってあげたいって思ったんだよ。 |
瑠璃乃 | だからって、ちょっとやりすぎちゃったのかな……。 あんなに気にするなんて……。 悪いことしちゃった……よね。 |
慈 | そこじゃないと思う。 |
瑠璃乃 | ……え? |
慈 | もとはと言えば、私が補習から逃げきれなかったから、 ふたりに負担かけちゃってたわけだし……。 |
慈 | 偉そうなことは言えないけど……。 でも、言わせてもらうね。 |
慈 | るりちゃんが姫芽ちゃんの夢を後押ししたいって思ったのは、 それ自体は悪いことじゃないよ。 先輩として、立派な行動だよ。 |
慈 | けどさ、自分のやりたいことをほったらかして手伝うのは、 違うんじゃない? |
慈 | 『やりたいことぜんぶやる』がみらくらぱーく!でしょ。 |
瑠璃乃 | あ……。 |
慈 | 自分を二の次にして、裏からあれこれ手を回したり、 姫芽ちゃんがうまくいくように根回ししてあげて……それって、 相手をトクベツ扱いしちゃってるってことだよね。 |
慈 | それで思ったんだ。 るりちゃんは、姫芽ちゃんをまだ仲間だと思えてないのかな、って。 |
慈 | みらくらぱーく!で隣に立つ仲間じゃなくて……。 手を差し伸べてあげなきゃいけない後輩。 |
慈 | そう思ってるのかな、って。 |
慈 | 私は、このメンバーでこれからもやっていきたい。 |
慈 | お互いに遠慮なく、言いたいことはなんでも言い合って、 いちばんのスクールアイドルを目指したい。 |
慈 | お互いの本気をぶつけ合ってこそ、 いいものができあがると信じてるから。 |
慈 | ……ただ、るりちゃんがどうしたいかは、 るりちゃんが考えることだと思うから。 |
慈 | とりあえずきょうは、お疲れさま。 ゆっくり休んでね。 |
瑠璃乃 | ルリ……。 |
瑠璃乃 | ルリは……ミジンコだ……。 |
瑠璃乃 | ……。 |
瑠璃乃 | まっくら。 |
瑠璃乃 | ふふっ……ルリにお似合い……。 |
瑠璃乃 | ……はぁ。 |
瑠璃乃 | 仲間だと思ってない……か。 |
瑠璃乃 | もう2か月も一緒にいたのに……。 ルリ……。 |
姫芽 | あの……るりちゃんせんぱい……。 |
瑠璃乃 | ……あ。 |
姫芽 | すみません、おやすみのところ。 |
瑠璃乃 | ……ううん。 |
姫芽 | ……めぐちゃんせんぱいから、さっきまた謝ってもらいました。 その上で、いろいろと、聞きました。 |
姫芽 | せんぱいは優しいから、 アタシのためにいろいろとがんばってくれたんですよね。 |
姫芽 | アタシが失敗しないように……。 |
瑠璃乃 | ……。 |
姫芽 | アタシがもっとめぐちゃんせんぱいみたいに、 なんでもできたら、せんぱいも言いたいこと言えたのかな、 って……えへへ……そんなこと、ムリですけど……。 |
姫芽 | ……撫子祭。 |
姫芽 | アタシだけやりたいことやるなんて 申し訳なさすぎるんですけど……。 |
姫芽 | でも、ここでやめちゃったら、 それこそるりちゃんせんぱいがしてくれたことの意味が、 なくなっちゃいますから。 |
姫芽 | ゲーム大会は開きます。 アタシの夢を手伝ってくれて、本当に、ありがとうございました。 |
瑠璃乃 | あっ……。 待って、姫芽ちゃんーー。 |
姫芽 | っーー。 ごめんなさい、失礼します! |
瑠璃乃 | う……。 |
瑠璃乃 | ……手伝ってくれて、か。 |
瑠璃乃 | ルリは、姫芽ちゃんと、どんな風に……なりたかったんだろ……。 |
瑠璃乃 | へーきへーき! あとはルリがやっとくから! 遊びに行ってきていいよ! |
慈 | ねえ、るりちゃん。 いいの? さっきの。 |
瑠璃乃 | え? うん、ぜんぜん。 だってルリは、みんなが楽しいって思ってくれたら、楽しいから。 |
瑠璃乃 | それに。 |
瑠璃乃 | ルリには、トクベツなめぐちゃんがいるからーー。 |
瑠璃乃 | ……めぐ、ちゃん……? |
慈 | もう。 ダンボールの中で寝ないの。 ベッドまで運ぶの、大変なんだよ。 私は梢とは違うんだからね。 |
瑠璃乃 | ……どうして、ここに? |
慈 | まあ、そりゃ……。 るりちゃん、明らかにすごくショック受けてたし……。 |
瑠璃乃 | 気にしてくれたんだ。 ありがと。 |
慈 | るりちゃんのことなんて、24時間ずっと気にしてるっての。 |
慈 | ……。 あのね、るりちゃん。 |
慈 | いいよ、私は。 |
瑠璃乃 | え? |
慈 | るりちゃんが、そのままでも。 |
慈 | 私だけがるりちゃんの隣にいて、他の子をトクベツ扱いしてさ。 今までと、なんにも変わらなくても。 |
瑠璃乃 | ……でも。 |
慈 | いいんだよ。 だって『みらくらぱーく!』を始める前より、 私とるりちゃんは幼馴染だったんだから。 |
慈 | もしるりちゃんが、私だけがいいって言うなら。 私は、ずっと、ずぅっと、るりちゃんのそばにいるよ。 |
慈 | るりちゃんは、どう? |
慈 | ……るりちゃんは、どうしたい? |
瑠璃乃 | ルリは……。 |
瑠璃乃 | ……。 めぐちゃんがみらくらぱーく!に人を増やそうって言ったとき、 ルリは、ちょっとやだった。 |
慈 | うん。 |
瑠璃乃 | だって、ルリとめぐちゃんなら最強なのに、 他に人が加わったら、最強じゃなくなっちゃうから。 |
瑠璃乃 | 今までずっとふたりだったのに。 3人なんてムリだって、正直思ってた。 |
瑠璃乃 | 不安だったけど……言えなかった。 だって、ちゃんとスクールアイドルがんばるって決めたから。 |
瑠璃乃 | 前に進むめぐちゃんに、置いてかれたくなくて。 |
瑠璃乃 | でもね。 |
瑠璃乃 | 話してみたら姫芽ちゃんは、がんばり屋で、かわいくて、一生懸命で、 すぐ大好きになれた。 |
瑠璃乃 | 思い出したんだ。 自分がスクールアイドルクラブに憧れたときのこと。 |
瑠璃乃 | やってみたい、って思った。 最初から諦めてたら、ルリはたくさんの楽しさを知らないままだった。 |
瑠璃乃 | 前に進むって、こういうことだよね。 不安で、怖くて……でもきっと、もっと楽しいことが待ってるから。 |
瑠璃乃 | いろんなことを話して、もっと深いところまでお互いを知って、 そして、もっともっと遠くまで一緒に、夢の先まで、走っていきたい。 |
瑠璃乃 | だから……ごめん、めぐちゃん。 |
瑠璃乃 | これから先、めぐちゃんだけがルリのトクベツじゃ、 なくなっちゃうかもしれないけど……。 |
慈 | なぁに言ってんの。 |
慈 | 大好きな幼馴染が、勇気を出して前に進もうとしてるのを、 応援できない幼馴染がいますかっての。 |
瑠璃乃 | めぐちゃん……。 |
慈 | それにね。 |
慈 | トクベツは増えても、また別のトクベツ。 そうやって、大切がいっぱい生まれていくの。 |
慈 | るりちゃんにとってはもう、花帆ちゃんだって、 さやかちゃんだって、また別のトクベツでしょ? |
瑠璃乃 | うんっ。 めぐちゃんにとっての、梢先輩とか、綴理先輩みたいに! |
慈 | んっ! まあ、今あいつらの話はしてないけどね! |
瑠璃乃 | あははっ。 |
慈 | でも、それじゃあどうしよっか。 姫芽ちゃん、今回のことかなり引きずりそうだからなあ。 |
慈 | せっかくるりちゃんが勇気出して正直に話そうとしても、 恐れ多いって言って、逃げられちゃうんじゃないかなあ……。 |
瑠璃乃 | ……確かに、さっきも。 |
瑠璃乃 | 姫芽ちゃんと、正面からぶつかるためには……。 |
瑠璃乃 | ……あっ! |
慈 | え? |
瑠璃乃 | わかったよ、めぐちゃん! 姫芽ちゃんがぜったいに、逃げられないシチュエーション! |
慈 | ほんと? |
瑠璃乃 | うん! だからそのためには、めぐちゃんにも協力してほしくて。 |
慈 | いいよいいよ、なんでも言ってみ。 勉強以外なら、なんでもやっちゃるよ! |
瑠璃乃 | だったらーー。 |
瑠璃乃 | きょうからルリの猛特訓! 付き合って! |