第2話『踊り続けよう、きみが見てる』
PART 2
二年生が話をしているところ。 | |
花帆 | うー、激しく不安だー! 梢センパイたちがいないなんてー! |
瑠璃乃 | いや、まあ、しょーじき気持ちは分からんでもないケド。 |
さやか | 花帆さん。 そんな風に言っては、一年生の皆さんがもっと不安がりますよ。 |
と、そこにやってくる吟子と姫芽。ふたりに気付いて花帆がうっとなる。 | |
花帆 | あっ。 |
花帆 | や、やっほーふたりとも! |
花帆 | だいじょーぶ! あたしたち二年生が居ればめちゃくちゃ安心のイベントになるからね! |
103期の談話室にやってきたふたりを優しく歓迎しようとする瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | すげー、こっから持ち直そうとしてる……。 えーと、姫芽ちゃん、吟子ちゃん。 どしたの? |
瑠璃乃 | 遊びにきたの? カードゲームでもやる? |
姫芽と吟子は顔を見合わせ、頷く。 | |
※吟子は自分から進んで不安を打ち明けることができない性格なので、姫芽がそれとなく気づいて、吟子に声をかけて来てくれたイメージ。 | |
姫芽 | あ、いえ、実は~。 |
吟子 | 敦賀ライブフェスタには、北陸代表として呼ばれてるんですよね? |
吟子 | なのに三年生がいなくて、まだスクールアイドルを始めたばかりの 私たちを連れて……で、本当に大丈夫なんでしょうか。 |
さやか | なるほど……心配させてしまっていたんですね。 |
姫芽 | 心配というか、えっと。 まあ心配、ですね~、あはは。 |
姫芽 | 主にアタシたちが……。 |
瑠璃乃 | 大丈夫だよ! |
瑠璃乃 | もう姫芽ちゃんたちのことも知ってる人だってたくさんいるし、 きっと楽しいイベントになるって! ね、吟子ちゃんも! |
吟子 | 瑠璃乃先輩に、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど……。 |
花帆 | ほんとに大丈夫だよー。 ふたりとも、始めたての頃のあたしよりずっと練習も頑張れてるもん! |
花帆 | むしろあたしの先輩としての威厳が……! |
さやかは少し考えてから、手を打つ。 | |
さやか | うーん……。 |
さやか | 今回は敦賀まで、一年生と二年生の6人で新幹線で向かうことになります。 ですから、そうですね。 |
さやか | 旅行という風に考えてみませんか? |
吟子 | えっ? |
花帆はさやかの言葉で、これが楽しいイベントであることに気付く。 | |
花帆 | あ、そうだよね! 旅行だよ旅行! みんなで! 言われて見たら、新幹線の駅に気になるとこ色々あったんだ! |
スマホをばっと見せると、瑠璃乃吟子姫芽が覗き込む。 | |
瑠璃乃 | お、小松駅。 飛行機で帰ってきたのがもはや懐かしいなあ。 |
姫芽 | 福井駅……そっか、敦賀って福井県か~。 |
さやか | 加賀温泉は、ゆのくに天祥さんがあるところですね。 |
花帆 | うわー懐かし。 |
吟子 | 芦原温泉……温泉がついた駅がふたつもあるんですね。 |
花帆は笑って、さやかと頷き合う。 | |
花帆 | うん、やっぱり楽しまなきゃ! 敦賀に行くまでのところでも、寄り道とか考えてみようよ! |
さやか | はい。 ずっと緊張していても仕方がありませんから。 みんなで楽しみましょう。 ね? |
瑠璃乃 | うおー、さやかちゃん頼りになるー! |
しみじみ頷く花帆と、照れるさやか。 | |
花帆 | 梢センパイに託されただけあるね、うん。 |
さやか | なんですかその流れ、やめてくださいよ! |
頭を下げる吟子。 | |
吟子 | ……ありがとうございます、先輩方。 |
姫芽、吟子に笑いかける。 | |
姫芽 | おかげで、楽しめばいいんだ~、という気持ちになれました~。 やっぱり、話しに来てよかったね~。 |
吟子 | うん。 姫芽さんも……一緒に来てくれて、ありがとう。 |
姫芽 | そりゃあアタシたち、チーム違っても、仲間だしね~。 |
仲の良い一年生同士を見て、嬉しくなる花帆。 | |
花帆 | 吟子ちゃん……。 いい友達ができて、よかったね……。 |
吟子 | 花帆先輩、なに目線なのそれ……。 |
花帆 | よーし、じゃあリストアップしていこー! |
花帆&さやか&瑠璃乃&吟子&姫芽 | おー! |
わいわいと賑わい始める、さやか以外の4人。さやかはそんなメンバーを微笑みながら眺めていて、ふと問う。 | |
さやか | ふふ。 |
さやか | そういえば、小鈴さんは一緒ではないのですか? |
吟子 | あ、小鈴さんでしたらーー。 |
綴理と小鈴が一緒に居る。ふたりで話をしている最中。 | |
綴理 | ん。 さやなら大丈夫。 言ってみたら、きっとほしいものが手に入るよ。 |
小鈴 | そう、でしょうか。 分かりました、勇気を出します! |
と、そこにさやかが登場。 | |
さやか | おふたりとも、こんな時間にお外で何を? |
小鈴 | さやか先輩! |
綴理 | さや。 いいところに。 |
柔らかく微笑むさやか。 | |
さやか | いいところでしたら、なによりです。 で、どうしたんですか? 小鈴さん。 |
小鈴は何やら深呼吸するべく胸に手を当てていた。がペースがはやくて全然深呼吸じゃない。 | |
小鈴 | すーはーすーはー。 |
綴理 | 浅呼吸だ。 |
さやか | 深呼吸にしては確かにペースが速いですね……。 |
小鈴 | さ、さやか先輩! |
さやか | はい、さやか先輩です。 |
小鈴 | 徒町を……徒町を、特訓してください!! |
一緒に頭を下げる綴理。 | |
綴理 | 特訓してください。 |
さやか | まってまってまってまって。 |
小鈴 | そんな! 綴理先輩! |
綴理 | ばかな……さやに断られるなんて。 |
さやか | 断ってるわけじゃないんですけど! |
さやか | えっと、どうしてそうなったんですか? 特訓なんて、けっこうものものしいものだと思いますが。 |
綴理 | ものものもの。 |
暗転して時間経過のイメージ。 | |
小鈴 | あ、えっと、実はーー。 |
事情を聞いて納得したさやかが映る。 | |
さやか | なるほど。 小鈴さんのご実家は敦賀にあるんですね。 |
小鈴 | はい! それで家族みんなで見に来てくれるって言ってて。 それ自体はもちろん嫌なんかじゃ全然ないんですけど! |
小鈴は持っていたノートを、さやかに見せる。 | |
小鈴 | それで、その。 |
さやか | 『家族に立派な姿を見せる』 ……これは、今回の小鈴さんのみっしょんなんですね。 |
小鈴 | はい! 家族みんな、小鈴がスクールアイドルをやってるって言っても、 無理してない? とか、周りの人に迷惑かけてない? とか、 小学校の時からなんにも変わってない子供扱いで! |
小鈴 | だから今回のスクールアイドルフェスタで、 ちゃんとステージで頑張ってるってことを見せたいんです! |
そう力強く宣言する小鈴を見て、綴理とさやかは一度目を見張る。それから、綴理は嬉しそうに微笑む。きらめきを感じている。 | |
綴理 | いいよね、小鈴。 |
綴理とさやか、優しく微笑んで頷き合う。 | |
さやか | そうですね。 ……それで、特訓ってことになったんですね。 |
小鈴 | はい。 しょせん徒町なので、ステージで完璧に成功できるとは ぜんぜんまったくみじんのかけらも思っていないんですけども。 |
小鈴 | それでも、やれることをやりたいんです! |
綴理 | それで、さやに特訓をお願いしてもいいのかな、って。 今回のまとめ役もやってるから、迷惑かなって、すずは言ってた。 |
それで綴理に相談しに行っていたのかと納得するさやか。 | |
さやか | ああ、それで……。 |
さやか | わたしの負担については、気にしないでください。 |
さやか | 自分のキャパシティについては、 この1年でよく勉強させていただいているつもりですから。 ……ただ。 |
小鈴 | ただ? |
さやか | わたしでいいんですか? |
さやか | 競技者としてはそれなりに積み重ねてきたものはあるつもりですが、 誰かを指導したことはありません。 |
さやか | 指導というのは、失敗できないものだと思います。 小鈴さんの良さを、わたしには引き出せないかもしれませんよ。 |
小鈴 | それでも、さやか先輩がいいんです。 |
小鈴 | さやか先輩のかっこいいところとか、 パフォーマンス中も余裕があるのに力強いところとか……! |
小鈴 | そういうのを勉強したくて、だからお願いします! |
小鈴の真摯な瞳と向き合い、目を伏せるさやか。 | |
さやか | そう、ですか……。 |
さやか | 少し……いえ、一晩。 一晩ください。 |
さやか | 小鈴さんのお気持ちは分かりましたから、 本当にわたしでいいのか……しっかり考えます。 |
さやか | 生半可な気持ちで、引き受けるものではありませんから。 |
小鈴 | さやか先輩……。 |
小鈴 | わかりました! じゃあ、明日を心から待ってます! |
だっと小鈴が走って退場する。そして布団に飛び込んでぐっすり眠ることでしょう。 | |
困ったようにさやかが眉を下げる。 | |
さやか | はい。 |
さやか | 誰かの指導をするだなんて、考えたこともありませんでした。 本当にわたしで良いんでしょうか。 |
綴理 | すずは、どうしてもさやが良いってさ。 |
さやか | ですが……わたしに、小鈴さんの魅力を引き出すことができるのか、 やっぱり自信がありません。 |
綴理 | さやなら、できるよ。 |
さやか | 先輩……。 |
綴理は何かを考えるように空を見上げる。 | |
綴理 | ボクも、さやのことでなにかできることがあるなら力になりたい。 だから、そうだな……。 |
きらめきに満ちた空を見上げながら、綴理は続ける。 | |
綴理 | ……考えていたことがあるんだ。 |
綴理 | 次の曲に、すずの色を入れたいなって。 |
さやか | 小鈴さんの、色……ですか。 |
綴理はさやかに向き直る。 | |
綴理 | そう。 新しいDOLLCHESTRAの、きらめき。 |
綴理 | さや。 今回の“特訓”で、すずのことをよく見てあげて。 そして……さやが、作詞をするんだ。 |
綴理 | すずの色を入れた、新しいDOLLCHESTRAが始まる曲の。 |
さやか | ! |
綴理 | すずが“特訓”を頑張るなら、そのきらめきが目に映るはずだ。 |
綴理 | ボクがそこに居られないのは残念だけど…… さやがそれを知ってあげればきっと、いい歌詞になる。 |
さやか | ……わたしが、新しいDOLLCHESTRAの作詞を。 小鈴さんのきらめきも、言葉に……。 |
綴理 | 大丈夫。 さやはもう、すずのきらめきを分かってる。 だって、一緒の舞台に引き入れたんだから。 |
さやか | あ。 ……はい。 そうですね。 小鈴さんとならとーーそう思えた気持ちを、言葉に。 |
さやか | わかりました。 ありがとうございます、綴理先輩。 先輩の助言を踏まえて、答えを出します。 |
綴理 | ん。 |
穏やかに笑う綴理と、困ったような笑みのさやかで〆。 | |
さやか | ……。 |