第8話『あの日のこころ、明日のこころ』
PART 3
梢 | ふぅ……いいお湯だったわ。 |
梢 | ごめんなさい、先にお風呂いただいてしまって。 ……あら? |
綴理 | そちら蓮ノ空さん、ですか? あ、さんは要らないですか。 そうです、こちら夕霧綴理です。 |
綴理 | 雨すごいので家です。 こず……乙宗梢もいます。 |
梢 | もしかして……綴理がちゃんと学校に電話してる……? |
綴理 | はい。 わかりました。 明日の朝……朝何時ですか。 八時に、学校で。 はい。 |
綴理 | では……ばいばい。 |
梢 | ばいばい……!!! |
綴理 | あれ、こず。 もう出たの? |
梢 | ええ、ありがとう。 おかげで温まったわ。 でも、私があとで全然良かったのよ? |
綴理 | んーん。 ボクはやることがあったから。 |
梢 | 今の? |
綴理 | うん。 寮に電話しなきゃダメなんだ。 知ってた? |
梢 | もちろん知ってはいるけれど……私の分まで、綴理が。 |
綴理 | ボク、頑張るようになったよね。 |
梢 | そう、ね。 本当に。 |
綴理 | あの頃、こずに何も言えなかったから。 |
梢 | それは、どういうーー。 |
綴理 | ボクもね、“先輩”になったんだー。 |
梢 | そう。 そうね。 私たち、“センパイ”になったものね。 |
梢 | ほら、あなたに風邪を引かれたら寝覚めが悪いわ。 はやく入って。 |
綴理 | え……ボク、友だちと一緒に家のお風呂に入るのが夢だったんだけど。 |
梢 | だったら先に入らせないの! |
綴理 | 失敗したー。 |
梢 | まったく。 ……ふふっ。 |
梢 | ありがとう、花帆さん。 ……あなたの作戦は、本当に正しかったわ。 |
梢 | でも……。 |
梢 | また……こういうことが起きるなんてね。 |
さやか | 先輩たちは大丈夫でしょうか……。 |
花帆 | あ、連絡来た! |
さやか | 乙宗先輩はなんと!? |
花帆 | あ、うん待ってね。 待ってーー。 |
花帆 | 待って……待ってって! 心配なのは分かるけど! |
花帆 | 『綴理の家に泊まることになりました。』 |
さやか | ほっ……。 |
花帆 | とりあえず、良かったねえー。 |
さやか | この雨の中、無理矢理帰ってこようとするんじゃないかって思いました……。 |
花帆 | えー、こんな遠くまでー? ないない……ないよね? |
花帆 | あ、はは……でもほら、梢センパイもついてるからね! |
さやか | それは確かにそうですが……。 と、ごめんなさい。 |
花帆 | 別にいいよぉ。 妹たちもたまにやるしね。 |
さやか | い、いえ。 花帆さんに甘えてばかりでは居られませんから。 |
花帆 | え、ばかりなんてことあったかな。 むしろあたしの方が……。 |
さやか | 四人でやることも、先輩がたに一緒に行動してもらうことも、 花帆さんの提案ですから。 |
花帆 | そんなこといったら、 この出店のお手伝いはさやかちゃんが考えてくれたでしょ? |
さやか | それはれいかさんに偶然会えたからですし……それに。 |
さやか | うまく行ったんでしょうか。 この雨で……。 |
花帆 | あ、雨だからって失敗したとは限らないし! むしろ、綴理センパイの家にお泊りならもっと仲良くなれるはずだよ! ね! |
さやか | 分かりました。 わたしもそう信じます。 わたしたちは、わたしたちでやることがありますからね。 |
花帆 | うん、センパイたちのためにできることをしよう。 |
さやか | はい。 |
花帆 | 四人で頑張るんだ! 四人で! |
さやか | はい! |
花帆 | 今はセンパイたちのこと心配しなくてもへーきへーき! |
さやか | はい……はい? |
花帆 | 頑張るぞー、えいえい、おー……さやかちゃん? |
さやか | ……思えば、昨日も一昨日も起こしてません。 |
花帆 | さやかちゃん!? |
さやか | ご飯も作っていませんし、登下校をサポートしてもいません。 わたしが居なくても大丈夫なんてこと、あり得るんでしょうか。 |
さやか | あれ? 心配をしない、というのは正しいこと? それとも養育義務の放棄? たとえこの雨の中でも、 綴理先輩のもとへ向かうのがわたしのやるべきことなのでは??? |
花帆 | さやかちゃん!? ちょっと、落ち着いてさやかちゃん! |
花帆 | さやかちゃーん!! |
綴理 | ねた? |
梢 | ……確認してどうするの。 もう四度目よ。 |
綴理 | ねたかなって。 |
梢 | 寝たわ。 |
綴理 | ねている人はねていると言わない……! |
梢 | どうしろっていうの。 |
綴理 | 言いたいことが、あるんだけど。 |
梢 | ……。 |
綴理 | 口にしようとするとほっぺが誰かに引っ張られたみたいになる。 さっきから何度も。 |
綴理 | 今日は楽しかったね。 |
梢 | ……。 |
綴理 | あれ、ねた? |
梢 | あなたが言いたいことがあるって言っているのに、 寝られるはずないでしょう。 |
梢 | はあ。 そうね、楽しかったわ。 |
綴理 | ん。 えっと。 |
綴理 | ……ボクも頑張るから。 |
梢 | ……綴理? |
綴理 | ……これは、こずが頑張るのがよくないっていうんじゃなくて。 こずが嫌な気持ちになったら困るから、言わなかったけど、えっと。 |
綴理 | ボクも頑張るから。 こずにばっかり、任せないで。 |
梢 | ……なにか、私が無理をしているように見えた? |
綴理 | んーん。 だから、違うんだ。 ただボクがこずを支えてあげたい……支えてあげられるよ、って言いたかった。 |
梢 | ……そう。 |
綴理 | わっ……。 |
綴理 | ……こず、寝相悪いな。 |
梢 | 寝相なわけないでしょ。 |
綴理 | ……言えて良かった。 |
梢 | 今の、話? |
綴理 | ん。 ずっと言えなかったから。 だから、言えてよかった。 |
梢 | …………。 |
梢 | ……そう。 私も、聞けて良かったわ。 |
綴理 | ……ねえ、こず。 なにか、隠してることとかない? |
梢 | ……どうしてそんなことを聞くの? |
綴理 | こずは、あんまり自分が思ってることとか、言ってくれないから。 ボクから言ってあげないと。 |
梢 | ……。 |
綴理 | でも。 |
綴理 | ……最近、ラブライブ!の話とか、しなくなったから。 |
梢 | ……。 |
梢 | そうかしら。 ……そうかも。 |
綴理 | じゃあーー。 |
梢 | ほかにもやることが多かったから。 それを綴理が支えてくれるなら、嬉しいわ。 |
綴理 | ……そう? |
梢 | 頼りにしているわ、綴理。 |
綴理 | ん。 |
梢 | ……。 |