第6話『未来への花』
PART 1
実家に帰っている吟子、祖母の部屋で、祖母と団らん中。 | |
吟子は自分や蓮ノ空の近況を熱っぽく話し、祖母が穏やかに聞いている。 | |
吟子 | ーーBloom Garden Party。 |
吟子、ほほ笑んで、 | |
吟子 | それが、花帆先輩と私たちで作ろうとしとるステージの名前やよ。 |
吟子祖母 | 花咲く園の、お祭り……。 |
吟子祖母 | 華やかで、いい名前やじ。 |
吟子祖母 | ほんなら、今はそれに向けて、準備すすめとるん? |
吟子 | うん、一歩一歩、前に進んどるよ。 |
吟子 | そのために輪を広げようってイベントも、 今までよりたくさんやっとるし……。 |
そのとき、吟子の表情に、少し焦りが過る。 | |
吟子 | 花帆先輩が卒業するまでには、絶対、形に……。 |
吟子祖母 | ああ、そうそう。 |
吟子祖母 | ちょっとお願いしたいことあるげん。 |
吟子 | え? |
吟子祖母 | サイン頼みたくて。 |
吟子 | サイン!? おばあちゃんに!? |
吟子祖母 | ああ、違うえ。 吟子がこっちに戻ってきたらって、お願いされとって。 |
吟子祖母 | 町内会や、商工会の人たちや。あと、私のお茶飲み友達からも。 |
吟子 | そんな大勢に……!? |
吟子 | え、ほんとに? おばあちゃんがムリヤリ押し付けてるんじゃないの? |
吟子祖母 | なに言うとるげんて。 |
吟子 | 尾びれ背びれつけて話を広めてたり……。 |
吟子祖母 | 自慢の孫娘の話するのに、胸びれも腹びれもあるかいね。 |
吟子祖母 | 実績や成果がすべてやとは思わんけど、 ラブライブ!ゆう大きな大会で優勝したんは、 やっぱり地元の人間としては嬉しかったみたいで。 |
吟子祖母 | みんな、“金沢の星”っていうとるわ。 |
吟子 | ま、まぁ、みんなが喜んでくれてるなら、私も嬉しいけど……。 |
吟子祖母 | ほんだけやないよ。 吟子たち、金沢を盛り上げようと、いろいろとイベントも開いとるやろ? |
吟子 | あ、うん。 |
吟子祖母 | そういう地道な積み重ねあっての、今やからね。 この子たちほんとに金沢のこと思ってくれとるんやなあって、評判やよ。 |
吟子 | うっ……それは、かなり、嬉しい……! |
吟子 | そっか……、私たちのこと、みんな知ってくれとるんや……。 |
吟子祖母 | 日ごろの行いやねえ。 |
吟子祖母 | ほやけど、みんな応援したい気持ちはあっても、 スクールアイドルとは縁遠い人ばっかりやろ。 |
吟子祖母 | なにをすればいいんかよくわからんとも、言うとったね。 |
吟子 | ああまぁ、それはそうだよね……。 |
吟子 | なにをすればいいか、か……。 |
吟子 | でも……。 せっかく、そう言ってもらえてるのなら……。 |
翌日、吟子、皆に祖母から聞いたことを話している。 | |
花帆 | へええええええ! 町内会や、商工会の人たちが……! |
そんな人たちにも知ってもらえていたことがうれしくて、表情を輝かせている花帆。他のみんなもうれしそうな表情になっている。 | |
瑠璃乃 | いやー、嬉しいことだねぇ。 |
セラスも誇らしげな笑み。 | |
セラス | さすが吟子先輩……。 老若男女を夢中にさせてしまうとは……。 |
吟子 | すごいのは私じゃなくて蓮ノ空でしょ……! |
泉 | こないだの夏合宿以来ますます仲がいいね、あなたたち。 |
セラス | 泉もちゃんと敬った方がいいよ、吟子先輩のこと。 実に敬いがいがあるお方だ。 |
芝居がかった口調で、しみじみとうなずくセラス。 | |
吟子 | なんかまだほんのりからかわれてる気がするけど……。 |
吟子、うれしいことだがひとつ問題があるという感じで、少し困り顔に。 | |
吟子 | ただ、新しく知ってくれた人たちも、 今までスクールアイドルのことはよく知らずにいた人たちだから……。 |
姫芽が苦笑。 | |
姫芽 | まあ、配信に馴染みがない人も多いだろうし、 そうなると、ライブのことも伝わりにくいかもしれないしね~。 |
吟子、少し意気込んだ真面目な顔で、 | |
吟子 | そう。 だから、そういう人たちに応援してもらえるような、 こう、何かができないかなって思って。 |
さやかが思案顔に。 | |
さやか | 何か、ですか。 |
吟子 | う。 ぜんぜん具体的じゃなくて、すみません……。 |
さやか | いえいえ、そのために相談してくださったんですよね。 みんなで知恵を出し合いましょう。 |
微笑むさやか。 | |
小鈴も思案顔に。 | |
小鈴 | う~ん……。 配信でもライブでもないなら、 何をすればそういう人たちと繋がれるんだろう? |
そのとき、泉が落ち着いた表情で吟子に目を向ける。 | |
泉 | その人たちというのは、金沢でお店を出している人たちのことかな? |
吟子 | うん。 お店とか、施設だね。 金沢には、伝統の文化を紹介してる施設がいっぱいあるから。 |
吟子 | そういうところで活動する現役の職人さんとか、 私のおばあちゃんみたいにワークショップをやってるご年配の方とか。 |
吟子 | お店の人や、施設の職員さんにも、 スクールアイドルクラブの活動を応援してくれてる人がいるみたい。 |
小鈴がばっと手を挙げて、 | |
小鈴 | あっ、じゃあじゃあ! |
小鈴 | そういうところで、何かお手伝いさせてもらうとか? 市場のお手伝いみたいに! |
吟子、笑みを浮かべて、 | |
吟子 | それもいいね。 色んなところのお手伝いをーー。 |
と、吟子、はっと、何かを思いついた顔に。 | |
吟子 | 待って? |
吟子、真剣に思案する顔に。 | |
吟子 | ……これ、イベントにできないかな? |
小鈴 | えっ? イベント? |
吟子、思案する顔のまま、 | |
吟子 | そう。 蓮ノ小三角でイベントをやったとき、 私と姫芽がやりたかったことを小鈴がひとつにしてくれたよね? |
吟子 | あのときは、小鈴のアイディアのおかげで、 来てくれた人たちみんなを巻き込むことができた……。 |
吟子 | だったら、今度はもっとスケールを広げてさ、 金沢の街の人たちを巻き込む……とか。 |
小鈴がぎょっとした顔に。 | |
小鈴 | そ、それは! 職人さんとか施設の職員さんとか、 果てはおじいちゃんやおばあちゃんまでが衣装を着て皆々様でステージに!? |
吟子 | いや違うよ!? |
花帆が目を輝かせる。 | |
花帆 | でも、そういうのも、もしかしたらアリなのかも……!? |
吟子 | ちょっと!? 花帆先輩、前向きに検討しないで! |
花帆 | えっ!? 楽しそうじゃない!? |
慌てて花帆を止めた吟子、ふぅ、と息をついて、 | |
吟子 | 楽しそうかもだけど、そうじゃなくて……! 今回は、ライブや配信とはまた違ったことができるんじゃないかって。 |
吟子 | お店や、施設……。 |
吟子 | 何なら、町内会や商工会の協力もあれば、 何か、お祭りみたいな、大きなことがやれるかも……。 |
姫芽が、ああ、と合点がいった顔で、ポンと手のひらを拳で打つ。 | |
姫芽 | なるほど~! 蓮ノ空と金沢の街でコラボってことだ~! |
吟子、「コラボ」という言葉が、自分の言いたかったことを一言で言い表せる言葉なのかもしれないと感じて、はっとした顔になって姫芽を見る。 | |
吟子 | コラボ……。 |
姫芽 | そう、ゲームなんかでも、コラボカフェとかポップアップストアとか、 コラボイベントをよくやってるでしょ~? ああいうことじゃないの~? |
瑠璃乃 | ああ~、アニメなんかでもあるよねえ。 |
セラス | 聖地巡礼、みたいな? |
姫芽 | そうそう、その作品ゆかりの街で、スタンプラリーとかやったりするやつ~! |
吟子 | そっか、私たちの街と、コラボを……。 |
そのとき、一連の話を聞いていた花帆、だんだんと笑みを大きくして。 | |
花帆 | いい……。 すごくいい! |
吟子 | えっ? |
花帆 | それって、街のみんなと一緒にイベント作って、 遊びに来てくれた人たちにめいっぱい楽しんでもらおうってことだよね!? |
花帆 | だったら吟子ちゃんのやりたいことって、きっと、 あたしたちがやろうとしてるBloom Garden Partyとも、繋がってるよ! |
花帆 | 来てくれた人も、あたしたちも、街の人も、 みんなで一緒に笑顔を花咲かせられるんだもん! |
吟子 | ……ほんとだ。 |
さやか | 確かに、そうですね……。 わたしたちスクールアイドルクラブが目指している形と、よく似ています。 |
吟子 | このイベントを実現させることができれば、 その経験はきっとこれからにも活かせる、かな……? |
花帆 | うん! ぜったいそうだよ! |
姫芽 | Bloom Garden Partyをより多くの人に知ってもらえる機会にも、 なるかもしれませんね~。 |
吟子 | そうだね……。 まさか私の夢が、こんなところで繋がってくるなんて……。 だったら、なおさら。 |
そのとき、泉が手を挙げて、 | |
泉 | ちょっといいかな? |
泉 | 盛り上がりに水を差すつもりはないのだけれど、 聞いた限り協力者は百人を超すような、非常に大掛かりなイベントだ。 |
泉 | それこそ、金沢のどこでもこのイベントを見かける、というレベルの。 |
泉 | 私たちスクールアイドルクラブだけではなく、 蓮ノ空女学院全体でも、動くことになるだろう。 |
泉 | それだけの人間と、どう連携を取るのか。 来てくれた人をどう楽しませるのか。 金沢をどう盛り上げるのか。 |
泉 | その辺りの現実的なビジョンをしっかりと描いておかなければ、 望む結果は得られないんじゃないかな。 |
吟子 | あ……。 |
脅すつもりはないがハードルをあげてくる泉に対して、確かに大変そうだと思っている瑠璃乃が苦笑いしながら付け加えてくれる。 | |
瑠璃乃 | ん~。 似たようなケースだと瑞蓮祭かなって思うんだけど、 |
瑠璃乃 | あっちは在校生や卒業生の方々の熱烈な応援もあって、 やることが明確だったもんねえ。 |
泉、落ち着いた表情で。 | |
泉 | 当たり前の話だけれど、あらゆるイベントは誰かが然るべき段取りを踏まえ、 検討に検討を重ね、実現しているものだ。 |
泉 | 学生だからといって、そこを甘く見てもらうわけにはいかないだろう? |
泉 | なにせ、街を丸ごと巻き込もうというのだから。 |
確かにそうだ。いいアイディアなのは間違いないけど、これは簡単に形にできるものではないと考える吟子、考え込む顔に。 | |
吟子 | ……確かにそうだね。 うん……。 ありがとう、泉さん。 |
吟子 | やっぱり私、甘く見てたのかも……。 |
吟子、真剣な表情で皆を見て、 | |
吟子 | でも……。 |
瑠璃乃 | ま、まあまあ! 今すぐに決めなきゃいけないってわけじゃないし! |
花帆 | そうそう! アイディアは、面白そうなんだし! あたしはいいと思うな! |
吟子 | うん……。 ……ごめん、ちょっと、ひとりで考えてみます。 |