第5話『眠れる海のお姫様!』
PART 4
セラス | 泉が、手ごわい……! |
セラス | でも! これでギブアップさせてあげるからね! 泉! 徹底的にぶちのめしてやる! |
泉 | ものすごく誤解されそうなセリフだってわかっているかなそれ。 |
泉 | それで……きょうは、どうしたのかな? こんな夜更けに、こんなにたくさん。 |
セラス | それはね! |
瑠璃乃 | ばぁ~! |
小鈴 | うらめしやです! |
セラス | おわっ!? |
セラス | る、瑠璃乃先輩、小鈴先輩! |
瑠璃乃 | あはは、びっくりした? |
小鈴 | 肝試しだよ、肝試し! |
泉 | 肝試し……。 |
セラス | そう! きょうはね、スクールアイドルのみなさんと一緒に、 オリエンテーションで肝試し大会をやるんだよ。 |
セラス | 恐怖を前にして、普段の自分でいられるかな!? きょうこそ、泉の余裕をべりべりはぎ取ってやるんだからね! |
瑠璃乃 | よっしゃ。 それじゃ小鈴ちゃん、配置につくよ! |
小鈴 | 徒町お化けですよー! ちぇすと、ちぇすとー! |
泉 | ……。 |
セラス | 泉はわたしと一緒に回るからね! わたしたちもいこ! |
セラス | 泉? |
泉 | いや、なんでもない。 |
泉 | ……お化けなんて、非科学的な話だ。 |
セラス | うっ……。 セミの声がすごくする……! |
セラス | これじゃ肝試しじゃなくて、セミ試しだよ……! |
セラス | くっそう……。 ぶつかってきませんように、ぶつかってきませんように……! |
セラス | ひっ!? |
泉 | ……っ! |
セラス | あれ? 泉もセミだめだった? |
泉 | ……いや? そんなことはないよ。 |
泉 | あなたの驚く声に、つい驚いてしまっただけさ。 |
セラス | ……。 |
小鈴 | うらめしやですよー! ちぇーすとー! |
スクールアイドル部員A | きゃー!! |
泉 | っ! |
セラス | 泉、もしかして……。 |
泉 | もしかして、なにかな。 |
泉 | もしかして私がお化けを怖がっているって? なにを言っているんだ、セラス。 |
泉 | 私は桂城 泉だよ。 今まであらゆる夢を叶え、 たくさんのお姫様を救ってきた私が、そんな。 |
瑠璃乃 | ビビれー!! |
スクールアイドル部員B&スクールアイドル部員C | きゃーー!!! |
泉 | くっ! |
セラス | じー……。 |
泉 | そうだよ! 苦手なんだ! |
セラス | しらなかった……! |
セラス | え、なにゆえ? |
泉 | 別に……理由なんてないよ。 ただ単に、いやなんだ。 わけのわからない感じが、苦手なんだよ。 |
泉 | ……いや、理由はあった、か。 |
泉 | ……昔、実家にいた頃にね。 怖い絵本を、読んだんだ。 |
セラス | ……。 |
泉 | ……それで。 |
セラス | それだけ!? |
泉 | セラスは知らないだろうけれど! 怖い絵本は本当に怖いんだよ! あんなの子供向けじゃない! ただのトラウマ製造機だ! |
セラス | そこまで……? |
泉 | そこまでだ。 ……少なくとも、私にとっては。 |
セラス | そっか……。 ほんとに苦手なんだ。 |
泉 | ……まさかこんな形であなたに知られてしまうとは……一生の不覚だ。 |
セラス | 泉……。 |
泉 | ……。 |
セラス | ……帰る? |
泉 | え? |
セラス | いや、なんか……。 しんどそうだから。 |
泉 | ……私を追い込んで『ギャフン』だの、 『ギブアップ』だのを言わせるのが、あなたの目的だろう。 |
泉 | 事実、私は今、かなりの余裕を失っている。 あともう一歩だ。 それなのに、自分から手を差し伸べて、どうするんだ。 |
セラス | それはそうなんだけど……。 |
泉 | それとも、私のことが可哀想になってきたのかな。 |
セラス | じゃなくて……。 なんだろうね、こう。 苦手なこと、怖いことは、“楽しくない”から。 |
セラス | これまでの特訓は、泉も楽しかったでしょ。 |
泉 | ……まあ。 ハチャメチャではあったけど……賑やかで、悪くはなかったよ。 |
セラス | スクールアイドルのためでも、嫌なことはしてほしくないよ。 それで泉がスクールアイドルまで嫌いになったら、意味ないと思う。 |
セラス | 帰ろ、泉。 |
泉 | ……。 |
セラス | 泉、そっちは。 |
泉 | 私があなたの手を取ったのは、そもそも、 夢中になれるものを見つけたかったからだ。 |
泉 | 別にスクールアイドルがやりたかったわけじゃない。 私は……私の人生を、変えたいんだ。 |
泉 | なにをしてもうまくいく、つまらない毎日。 自分だけは情熱を味わえない。 誰かに寄生する日々。 |
泉 | そんな自分を、変えたくて、私はあなたの手を取った。 わかるかい? |
泉 | 私は、楽しいことだけを求めてはいない。 |
泉 | 苦しくても、つらくても、いいんだ。 私がそれでも前に進みたいと、そう思えることなら。 |
セラス | 泉……。 |
泉 | こんな肝試しに意味はないのかもしれない。 それでも。 |
泉 | どんなに失敗しても、的外れでも、 あなたが私のために考えてくれたことはすべて、 私が変われるかもしれないきっかけなんだ。 |
泉 | これまで、ひとりじゃどうしようもなかったことも、 もしかしたらあなたとならと……ほんの少しでも、 そう、思わせてくれたんだよ。 セラス。 |
泉 | それなら私は、なんでもやってみたい。 たとえこの先が、なにもない闇でも。 |
泉 | 立ち止まることが、私はいちばん“嫌”だから。 |
セラス | ……。 |
セラス | 泉。 ちょっぴり手、震えてるよ。 |
泉 | ……仕方ないだろう。 こればかりは……。 |
セラス | でも、わかった。 |
セラス | わたしも、あちこちからセミの鳴き声が聞こえてきて、 正直すごい帰りたいけど……でも、がんばるよ! |
泉 | ……まさかあなたが自分から帰ろうと提案したのは。 |
セラス | 違うから! 一応、泉のためだから! |
泉 | ふふ。 |
セラス | よし、行こう、泉! わたしたちふたり一緒なら、無敵だから! |
セラス | うわっ!? セミ! やだ! やだやだやだー! |
泉 | ……ふっ。ははは。 あなたはほんとに。 |
さやか | ゴールしてきた方々も、少しずつ増えてきましたね。 |
花帆 | うーん。 |
さやか | どうしました? 花帆さん。 |
さやか | ふふ、まだ怖いですか? 手、繋ぎますか? |
花帆 | そ、そうじゃなくて! |
花帆 | せっちゃん、セミが苦手って言ってたから、大丈夫かなあ、って。 |
さやか | えっ? そうだったんですか? だとしたら……かなり、過酷な道になりますね。 |
花帆 | 泉ちゃんがついてるから、大丈夫だと思うんだけど。 |
セラス | わあああああああ! ぎゃふん! |
花帆 | せ、せっちゃん! |
さやか | セラスさん!? |
セラス | はぁ、はぁ……。 ここは……? セミの絶滅した楽園……? |
さやか | いや、まだいるとは思いますが……。 |
花帆 | そうだよ、せっちゃん! ゴールしたんだよ! おめでとう! |
セラス | ああ、よかった……。 人類は、勝っ、た……。 |
泉 | 本当に、よかった。 長い道のりだったね。 |
さやか | 泉さんも、ゴールおつかれさまでした。 ゴールした方には、クーラーボックスにアイスを用意してありますよ。 |
セラス | わ~い~……。 |
花帆 | でもやっぱり、さすが泉ちゃんだね。 ぜんぜん余裕そう。 |
泉 | 実はそうでもないんだ。 私は、お化けが大の苦手でね。 |
花帆&さやか | えっ!? |
セラス | そうなんだよ。 何度も叫んでたよね。 |
泉 | 面目ない。 |
花帆 | これ……冗談だと思う……? |
さやか | さあ、どうでしょう……。 |
セラス | わたしがいたから! 泉はここまでこれたんだよね。 |
泉 | まあ、そうだね。 とはいえあなたも、セミが怖くて途中、何度も叫んでいたけれど。 |
セラス | わ、わたしは、泉がひとりで叫ぶのは恥ずかしいだろうなーって思って! わざと大げさにリアクションをしてあげたの! |
泉 | セラス。 なにかを怖がることは、恥ずかしいことじゃないよ。 |
セラス | 自分はずっと隠してたくせに! |
泉 | 素の私を引き出そうとがんばっていたのは、あなただろう? おかげで余裕のないところも、さんざん見られてしまったよ。 |
セラス | なんかその発言がそもそもいつもの泉っぽいもん! 開き直ってないで、もっと恥ずかしがってよ! |
泉 | やれやれだ。 |
さやか | ……冗談かどうかはよくわかりませんけど。 |
さやか | おふたりはどうやら、今までより仲良くなったような、 そんな気がしますね。 |
花帆 | ……それは、そうかも! |
花帆 | 次のFes×LIVEは、いい曲が聞けそうだね! |
さやか | はい。 |