第4話『太陽を目指した背中』
PART 8
小鈴 | ど、どうしたんですかさやか先輩、姫芽ちゃん。 徒町に話があるって……。 |
さやか | 吟子さんから、話を聞きました。 |
小鈴 | あ……。 |
姫芽 | それで、アタシもさやか先輩と一緒に、ね。 アタシは、ちょっと小鈴ちゃんに言おうかどうか迷ってたことがあって。 |
姫芽 | 一応、アタシが友達から小耳に挟んだことは、伝えておこうかな~って。 広実ちゃんのこと。 |
小鈴 | ! |
姫芽 | 本当はあの子、中学の時の友達と一緒に、 スクールアイドルやるつもりだったんだって~。 |
姫芽 | その友達は今も活動中。 これ。 |
小鈴 | あ……。 |
小鈴 | ……じゃあ、どうして。 |
姫芽 | 広実ちゃんね~。 ……表向きには、 学校でのケンカで相手を怪我させて退学、ってことになってる。 |
姫芽 | まあまあ怪我させたっていうのも 半分事故みたいなものだったらしいんだけど……。 |
小鈴 | 怪我……!? |
姫芽 | でも実際には……そういうことになっちゃった仲間を庇ったんだってさ。 自分がやったことにして……。 |
姫芽 | ほんとはね。 学校やめたあと、もう一度一緒にやろうよって、 その時の仲間が声をかけてくれはしたみたい。 |
姫芽 | でも……その時に、 その子たちまでよくない目で見られそうになって。 |
姫芽 | だから……あの子はスクールアイドルへの道を諦めた、ってさ。 |
姫芽 | アタシが色々聞いた友達も、広実ちゃんにはけっこう同情的だったよ。 良い子なんだね。 |
小鈴 | うん……徒町も、そう思う。 そっか……だから最初から、 スクールアイドルの練習も、誰にも言うなって……言ってたのかな……。 |
さやか | さて、小鈴さん。 広実さんが今どうなっているのかについては、知っています。 |
小鈴 | はい……。 |
さやか | なので、今日の練習は置いておいて。 やれることをしましょう。 なにか力になれることがあれば、協力しますから。 |
小鈴 | ……きょう、りょく。 |
小鈴 | ……さやか先輩。 |
小鈴 | もし……もし、さやか先輩だったら…… 広実さんを、スクールアイドルにしてあげられますか? |
さやか | ……もちろん、やるとなったら全霊は尽くしますが。 なんでそんなことを聞くんですか? |
小鈴 | 徒町だったから……徒町だったから、ダメだったのかな、って。 |
小鈴 | さやか先輩にお願いして、広実さんがスクールアイドルになれるなら…… その方が、本当は……。 |
さやか | なるほど。 自分だから失敗したと、納得するために聞いてるんですか? |
小鈴 | っ……。 |
さやか | あなたは誰かを導く存在になったはず。 その理由はどうあれ、その人を背負った。 |
さやか | それを途中で投げ出すことの罪の重さを……わたしはよく知っています。 |
さやか | わたしが誰かの特訓を引き受けた時はただ……わたしの教え子が強かったから、 誰にも負けない心の持ち主だったから、どうにかなった。 |
さやか | わたしが救ってもらった。 |
小鈴 | ち、違います……徒町は、強くなんか……。 あれはただ、徒町は伝えたいことがあって、それで、なんとか……。 |
さやか | 今は何もないんですか? 本当に? |
小鈴 | でもっ……徒町じゃ、またできないかもしれない……。 失敗するかも、しれない……。 広実さんを、また傷つけるかもしれない……。 |
さやか | ……そう、ですか。 |
さやか | でも、小鈴さん。 誰かのために何かをするって、 結局全部そういうことじゃないですか? |
さやか | 自分が失敗すれば相手を巻き込む。 それはなんだってそうです。 だからあなたは迷ったし、その上で師匠になると決めた。 |
小鈴 | ……でも徒町は、広実さんの嘘にも気づけなくて! |
小鈴 | そんなダメな徒町が、さやか先輩みたいに誰かに教えるなんて、 土台無理だったんです! |
さやか | 嘘……ですか。 |
さやか | 嘘というなら、それは今のあなたがついているものになりますね。 |
小鈴 | えっ……。 |
さやか | 嘘というには語弊がありますが。 いつまで、なにもできない徒町だという嘘をつき続けるつもりですか? |
小鈴 | ……なにを。 徒町は、嘘なんて。 |
さやか | 確かにあなたは、入学当初色んないたらない点がありました。 |
さやか | でも……それを乗り越えてきたからこそ今のあなたがあるはずです。 あなたの鞄についた証は、決して飾りなどではない。 |
小鈴 | あ……。 |
さやか | そのバッジは、あなたがこの一年に胸を張れるよう、みんなが背中を押した、 “あなたが立派なスクールアイドルである”という誇りです。 |
さやか | 小鈴さん。 あなたはわたしと一年頑張ってきた徒町小鈴です。 もう、なにもできない徒町ではありません。 |
さやか | 本当に、わたしが解決できるのなら、わたしがやった方が良いと、 心から思っているんですか? |
小鈴 | 徒町は……徒町はもう……徒町ごときじゃなにもできないって…… 言っちゃダメなんですね。 |
さやか | それは本当に大変なことかもしれません。 でも、そうです。 それはただの、やりたいことをやらない言い訳です。 |
小鈴 | 徒町は……! 徒町は、自分でやりたいです!! |
小鈴 | 徒町が何者かになるために……徒町が、 広実さんを、スクールアイドルにしたいです!! |
さやか | はい。 それがあなたの本当です。 |
小鈴 | っ……はい! 徒町、徒町行ってきます! |
さやか | ええ。 いってらっしゃい。 |
姫芽 | さやか先輩は厳しいなあ。 |
さやか | 小鈴さんはいつもわがままなんですよ。 |
姫芽 | わがまま? |
さやか | あの花帆さんでさえ、誰かが笑顔になれるなら、 それを為すのは自分でなくとも良いと言う。 |
さやか | 自分が誰かのためになりたいというのは……びっくりするくらいわがままで、 大変なことなんです。 |
さやか | だから、厳しくしないとダメなんですよ。 わがままに、中途半端は許されませんから。 |
姫芽 | なるほどお……。 |
姫芽 | じゃあちょっと、その厳しい方針に反しちゃうかもなんですが、 ひとつだけお願いが。 |
さやか | ? |
小鈴 | 徒町は――全然まだ、理想には程遠いけど――!! |
小鈴 | でもやるんだ! 徒町が、広実さんをスクールアイドルにしたいから――! |
小鈴 | えっ……? |
小鈴 | あはは……ありがとう、ございます。 |
小鈴 | 広実さん!! |
広実 | ししょっ……小鈴サン。 もう関わるなっつったろ……! |
小鈴 | そんなこと、約束した覚えはありません!! したとしても破ります!! |
広実 | なっ……!? |
小鈴 | 徒町はっ……徒町は、広実さんと一緒に、ステージに立ちたい!! |
小鈴 | スクールアイドルになりたいと思ってる人と一緒に、 スクールアイドルがしたいんだ!! |
広実 | だからっ……! そんなこと、アタシは望んじゃいねえって!! |
小鈴 | 嘘だ!! |
広実 | 嘘じゃねえ!! |
小鈴 | 嘘じゃないと言うなら……! バイトをやめる必要なんてなかった! |
小鈴 | 昨日だって、のこのこ結果を聞きにきた徒町に、 バカなスクールアイドルが引っかかったぜーくらい言ったらどうなんですか!! |
広実 | はあっ!? んなこと言えるわけ……! |
小鈴 | 徒町の練習にもなるから、師匠をさせてくれた。 徒町が傷つくから、バイトごとやめて会わないようにした。 |
小鈴 | そんな人に、かかわるなって言われても……嫌です! 徒町はあなたが好きなので! |
広実 | 全部小鈴サンの勝手な想像だろ! アタシはそんな大層なもんじゃ……! |
小鈴 | 徒町だって分かります!! 嘘をつき続けるのは、つらいってことくらい! |
広実 | ……っ、べつにあんたに心配させたくないから嘘ついたんじゃねえよ!! |
広実 | アタシはっ……アタシはただ、アタシなんかが……。 |
小鈴 | ……。 |
小鈴 | 徒町は……もう、徒町なんかがって、言わないよ。 ダメって言われたことだって、やっちゃうんだから。 |
小鈴 | ……広実さん。 |
広実 | な……なんだよ。 |
小鈴 | スクールアイドル部……広実さんの仲間のみんなは…… 広実さんと一緒にステージに出られるなら、 それ以上の幸せはない……ってさ!! |
広実 | なっ……!? |
広実 | 小鈴サン、何を勝手にあいつらに!!! |
小鈴 | はい! 勝手に連絡しました!! |
小鈴 | 広実さんは今でも、スクールアイドルをやりたいと思ってるから!! 徒町と一緒にやった理由が嘘だったとしても! 籠もった気持ちは本物だ!! |
小鈴 | 徒町も……自分なんかにできるわけがないって、自分に嘘ついてた。 広実さんにしてあげられることなんてない、何もできない自分がつらかった。 |
小鈴 | やっぱり、しょせん徒町でしかない。 師匠なんか、おこがましかったって。 |
広実 | やめろよ……。 アタシの問題を、あんたの力不足に挿げ替えるなよ……。 アタシにとっては、あんたは。 |
小鈴 | そうだよ。 広実さんは言ってくれたんだ。 だからもう……嘘はつかない。 |
広実 | なにを……。 |
小鈴 | 徒町は、ラブライブ!優勝に導いたスクールアイドル。 もう何もない徒町なんかじゃない。 あなたの、師匠。 |
小鈴 | だからやるよ! |
小鈴 | 七月末のステージは、“スクールアイドルになりたい人なら、 どんな人だってスクールアイドルになれるステージ”!! |
小鈴 | 蓮ノ小三角、徒町小鈴の最初の一歩…… 望めば誰だってスクールアイドルになれる場所!! |
広実 | っ……! |
広実 | ……誰だって、つったって……そんなの。 アタシはもう……望んでないんだって! |
小鈴 | 嘘だよ、広実さん。 |
広実 | だから、これは嘘なんかじゃっ……! |
小鈴 | みんなに迷惑をかけるかもしれないから? |
広実 | っ……! |
小鈴 | かけて良いんだよ。 かけて欲しい。 どんなに迷惑かけられたって、徒町は一緒に居るから! |
広実 | どうして、どうしてそこまで、アタシなんかのために!! |
小鈴 | 徒町が!! そうしてもらったから!! |
広実 | っ……! |
小鈴 | DOLLCHESTRAが、なんにもなかった徒町の居場所になってくれた。 だから広実さんが見てくれる、今の徒町小鈴がいるんだ。 |
小鈴 | 今度は徒町の番。 徒町は……広実さんの、 広実さんだけじゃないみんなの……居場所になりたいんだ。 |
広実 | 居場、所……。 |
小鈴 | そう。 広実さんが、スクールアイドルでいて良い広実さんになるための。 |
広実 | でも……。 |
小鈴 | ……大好きな先輩が言ってたんだ。 |
小鈴 | 誰かのために何かをするって、全部迷惑になるかもしれないって。 |
小鈴 | 失敗すれば相手を巻き込む。 成功すれば、相手と分かち合える。 |
小鈴 | 一緒に成功しよう。 徒町があなたの居場所になるから。 広実さんが、なりたい自分になってくれたら……徒町も、幸せだから。 |
小鈴 | ――一緒に来てください。 大道広実さん。 |
広実 | ぅ……ぁ……。 |
広実 | アタシは……。 |
広実 | アタシは……スクールアイドルに……なりたい。 |
小鈴 | うん、なれるよ。 徒町が、背中を押してあげる。 |
姫芽 | うん……良かったね、小鈴ちゃん~。 |
姫芽 | うまくいったみたいですよ~。 |
瑠璃乃 | あ、ほんと? 良かった良かった。 ……小鈴ちゃんもすぐメッセージ気づいてくれてほっとしたよ。 |
姫芽 | あ、さやかせんぱいの許可も取れましたよ~。 るりちゃんせんぱいが、華麗に小鈴ちゃんを手助けしま~す、って言って。 |
瑠璃乃 | いや言い方……単なる勝手なお節介なのに……。 |
瑠璃乃 | でもありがと。 一応言っておかないとね。 |
瑠璃乃 | 小鈴ちゃんはもちろんさやかちゃんのユニットの後輩だけど、 ルリにとっても可愛い後輩だから、って。 |
姫芽 | 一応言っておかないととは思うのに、 アタシには事後報告させるんですよこのせんぱい。 |
姫芽 | さやかせんぱいがムカ着火ファイヤーしてたらどうするんですか~。 |
瑠璃乃 | さやかちゃんがこれで怒るとは思わないけどね! でもありがとう、姫芽。 |
姫芽 | あはは、嘘ですよ嘘。 これも相棒の仕事ですから~。 |
瑠璃乃 | ん、頼りにしてる。 |
瑠璃乃 | あ、うん、みんな協力ありがとうね! 今度一緒にライブしようね! 広実ちゃんも含めてさ! |
瑠璃乃 | それじゃ、切るよ姫芽。 |
姫芽 | は~い。 かっこよかったですよ、ヒーロー。 |
瑠璃乃 | お節介、終了っと。 ラーメン食べてかえろー。 |