第2話『Dream Match!』

PART 4

姫芽の部屋にて、瑠璃乃とふたりで修行中。
ここが、姫芽がいちばんがんばるパート。
姫芽
それではるりちゃんせんぱい、対戦よろしくお願いしま~す!
瑠璃乃
うん、よろしく!
姫芽
ですが、きょうは対戦はしません~!
妙なテンションに振り回されつつある瑠璃乃。
瑠璃乃
あ、そうなんだ。
姫芽
今回、るりちゃんせんぱいには、ステージでのエキシビジョンマッチに
出場してもらう、という大役をお任せしたわけですが~。
姫芽
アタシ、るりちゃんせんぱいなら、ぜったいできるって信じてますから!
なんたってこのアタシから1本取った腕前の持ち主!
そんなそんな、と瑠璃乃は謙遜する。
瑠璃乃
去年のことじゃん!
あれだって、奇跡みたいなもので。
しかし、姫芽は瑠璃乃を信じている。
姫芽
つまり、奇跡を起こす力があるってことです~!
姫芽と瑠璃乃、顔を見合わせて笑う。
瑠璃乃
あはは。 ありがとね、ひめっち。
瑠璃乃
確かに、あの学生チャンピオンのツマヨウ寺氏に勝ったと思えば、
けっこう自信がわいてきたかも。
姫芽
うぅ、あくまでも1敗だけですけどね~!?
瑠璃乃
わかってるって! もう、負けず嫌いだなあ!
姫芽
あはは~。 というわけで、きょうからは徹底的に
るりちゃんせんぱいをコーチングさせてもらいますね~。
瑠璃乃
具体的にどうするの?
ゲームはしないって言ってたけど。
姫芽
まずは、リプレイ見ながら動きをおさらいしていきましょう。
姫芽
アタシ、るりちゃんせんぱいがやってた直近50戦のリプレイをぜんぶ見て、
気になるところを抜粋してきたんですよ~。
瑠璃乃
50戦!? そんなに!?
何時間かかったの!?
姫芽は他のキャラを一通り理解しているが、メインキャラほどではないので、そこを補ってきた。
姫芽
さらに~。 今、るりちゃんせんぱいが使ってるキャラで、
ひとまず100戦ランクマ回してきて、より理解度を深めてきました~!
思わず目を回す瑠璃乃。
瑠璃乃
100戦!?!?
姫芽
いや~、久々に昔のチームの子と連絡とりまして~。
姫芽
『強くしたいひとがいるから、とりまアタシを強くして~!』
ってお願いして、コーチングのコーチングをしてもらいましたよ~。
姫芽
他人を鍛えるなら、まず自分から!
……いい格言ですね~。
ツッコミを入れた後、姫芽に心配げなまなざしを向ける瑠璃乃。
瑠璃乃
聞いたことないけど、正しい気はする!
瑠璃乃、むしろドン引き。
瑠璃乃
ひめっち、ちゃんと寝てる……?
姫芽
もちろんです~!
抱き枕のおかげで、ぐっすりと~……。
姫芽
というわけで、るりちゃんせんぱい~。
1個1個、改善点を見つけて、1個1個、潰していきましょ~。
瑠璃乃
うん! よろしくお願いします、ツマヨウ寺軍曹!
いえ……ツマヨウ寺曹長!
姫芽
あはっ、階級上がっちゃった~。
吟子、小鈴がふたり並んでランニングしている。朝練を想定。
吟子が先に到着、小鈴が二番目に到着。それから少し遅れて姫芽が到着する。
吟子
ふぅ……。
ゴールして足を止める吟子。そこに滑り込んでくる小鈴。
小鈴
ランニング……おーわりっ、と。
ふたりが振り返ると、息を切らしながら走っている姫芽の姿。
吟子
姫芽~! 大丈夫~!?
オフで姫芽の声が画面外から聞こえてくる。
姫芽
ぜ、ぜんぜん、よゆ~だよ~。
ちょっと心配そうな小鈴。
小鈴
姫芽ちゃん、珍しいね。
長距離走、苦手じゃないのに。
吟子
さすがに……毎日、忙しそうにしてるから。
吟子、もう一度声を張る。
吟子
ちょっとぐらい練習休んでも~! いいんじゃない~!?
オフで外から姫芽の声。
姫芽
やぁ~だぁ~!
まったく、と息をつく吟子。
吟子
もう……。
心配そうに笑う小鈴。
小鈴
あはは……。
そんな姫芽を意味深に見つめているトレーニングウェア姿の泉が映る。
……。
瑠璃乃の部屋を訪ねる姫芽。しかし、部屋には誰もいない。
姫芽
るりちゃんせんぱ~い、失礼しま~……。
テーブルに目をやって。
姫芽
ありゃ、誰もいない。
姫芽
PCはつけっぱ。
なにか用事かな~……?
スマホを取り出す姫芽。
姫芽
よし、それじゃあ待ってる間。
アタシも、少しでも実況動画見て、お勉強を……。
あくびをかみ殺す姫芽。スマホを見ているつもりが、無意識に瑠璃乃のベッドによりかかって、その瞼がとろーんと落ちてくる。
姫芽
お勉強~……ふぁ。
シーン内時間経過。画面真っ暗に。
ゲームの音と瑠璃乃の声で目を覚ます姫芽。
瑠璃乃
わっ、あと少しだったのになー……。
はっとして目を覚ます姫芽。
姫芽
ふぇ……?
るりちゃんせんぱい~……?
自分の席に座ってPCゲームをしていた瑠璃乃が、ヘッドフォンを外しながら振り返ってくる。
瑠璃乃
あ、ゴメン、起こしちゃった?
瑠璃乃のベッドにもたれるようにして眠っていた姫芽は、ハッと覚醒する。
姫芽
ひゃっ!? アタシ寝ちゃってました!?
すみませんるりちゃんせんぱいの部屋で~!
瑠璃乃
あははっ。 いいよいいよ。
なんだったらベッド使っても。
優しい瑠璃乃に、断然ノーを突き付ける姫芽。
姫芽
だめですよぉ!
るりちゃんせんぱいのベッドは、るりめぐ専用なんですからぁ~!
あははと呆れながら突っ込む瑠璃乃。
瑠璃乃
めぐちゃんはいいんだ……。
机にふたつ置いてあったマグカップのうちのひとつを、姫芽に渡してくれる瑠璃乃。
瑠璃乃
はい、ココア。
そろそろひめっち来る頃かなーって思って、淹れてきたんだ。
瑠璃乃
あま~いやつだよ。
マグカップを受け取って頭を下げる姫芽。
姫芽
あ、それで部屋に……。
うう、ご厚意痛み入ります……。
瑠璃乃
寝る間も削ってがんばってるんでしょ?
遅くまで、ゲームの勉強もしてるみたいじゃん。
姫芽
それは、まぁ~。
姫芽
実況役がいちばん、ゲームの知識が必要ですからね~……。
だからこれは、さすがにアタシの役目です。
瑠璃乃
たいへんだねえ。 イベントの運営さんとのやり取りも、基本ひめっちだし。
その上、みんなの様子も見て、スクールアイドルの練習だってしててさ。
姫芽
ぜんぜんですよぉ~。
アタシ、これがやりたくてやってるわけですから~。
瑠璃乃
ねぇ、ひめっち。
ちょっと気になることが頭に浮かび、優しげな笑みを浮かべて、
瑠璃乃
なんでそこまで頑張るの?
姫芽
え?
瑠璃乃
そりゃ、大好きなゲームのイベントだし、気合い入るのは分かるけどさ。
瑠璃乃、聞いていいかな?と優しく問いかけるような笑みを浮かべて、
瑠璃乃
でも、本当にそれだけ?
姫芽、意外なことを聞かれた、という感じで少し驚き、どう答えるべきか迷う顔になる。
姫芽
…………。
しかし決意して、瑠璃乃に真剣な顔を向ける。
姫芽
あの~……るりちゃんせんぱい。
姫芽
もし、もしもほんの少しでも『こいつ失礼だな~』って思ったら、
怒ってくれていいんですけど~……。
姫芽
るりちゃんせんぱいって、一瞬でも
『自分ってめぐちゃんせんぱいの夢に、ただ乗りしてるのかな』って……。
姫芽
……そう思ったこと、ありませんか……?
瑠璃乃は普段、世間話をするようなテンションで聞き返す。
瑠璃乃
『世界中を夢中に!』の話?
姫芽
はいぃ……。
姫芽
あれって最初は、めぐちゃんせんぱいが言い出して、
るりちゃんせんぱいがのっかったんですよね? だから……。
言っている途中に、やっぱりこれ失礼だなあ!と思って頭を抱える姫芽。
姫芽
あ、ううぅ。
やっぱりなんでもないです~! 忘れてくださいぃ~!
くすっと笑いながら語る瑠璃乃。
瑠璃乃
ふふっ。 その頃、ルリはまだ夢がなかったから。
瑠璃乃
めぐちゃんの語った未来地図が、ルリの夢そのものになったんだよね。
瑠璃乃
もちろん、それをどういうものにするかっていうのは、
何度もぶつかって、お互いで決めていったんだけど。
真剣に聞いている姫芽。
姫芽
お互いで、決めて……。
瑠璃乃
だから、ひめっちのケースとはちょっと違うかなぁ。
参考にならなくて、ごめんね。
頭を下げかけて、ハッとする姫芽。
姫芽
あ、いえいえ~……。
大変、ありがたいご意見で……。
姫芽
……っていうか! アタシのケースって!?
いたずらっぽく笑う瑠璃乃。
瑠璃乃
さて、なんだろね~?
見抜かれているのか~!? と恥ずかしくなる姫芽。
姫芽
うぅ~。
瑠璃乃が姫芽の頭を撫でる。大型犬のように鳴き声をあげる姫芽。
瑠璃乃
よしよし。
がんばるのはいいけど、がんばりすぎはほどほどにね?
姫芽
わぅ~……。
姫芽
でもアタシ、やれること全部やってるつもりなんですけど~。
姫芽
これでほんとに全力出せてる?
って考えちゃうんですよね~。
姫芽
何か、ずっと足りてない気がしちゃうっていうか~……。
瑠璃乃、思案気。
瑠璃乃
なるほどねえ……。
姫芽は切り替えて立ち上がる。
姫芽
それじゃあ、アタシ、部屋に戻って実況の修行しますね~。
なにかあったらなんでも呼んでくださいね~。
瑠璃乃
うん、わかった。 丁寧なコーチング、毎日ありがとうね。
逃げるように去ってゆく姫芽。
姫芽
はい! 諸々片付けてから~!
では失礼します~!
その背を見送って、ふぅ、と息をつく瑠璃乃。
瑠璃乃
ひめっち、ほんとに忙しそうだなあ。
そこで名案を閃いたとばかりに。
瑠璃乃
……! そうだ!