あれ？ まだ、誰か居る……？

さやかちゃーん。 花帆ちゃん知らない？

花帆さんですか？ いえ……どうしました？

アルバムの写真、欲しいやつがなくて、
花帆ちゃんのとこ混じってるかなーって。

ほら、花帆ちゃん確かまだアルバム作ってたでしょ？

そうでしたね。 というか、ふたりともなんでまだ終わってないんですか！
蓮華祭ぎりぎりになっちゃいますよ！

あはは……あぁ、あれ花帆ちゃんじゃない！？

瑠璃乃さん！

花帆ちゃーん。
ルリの撮った写真、そっちに混じってない？

あと、もう部室は締める時間ですよー。

……。

あり、花帆ちゃん？

……あ、瑠璃乃ちゃん。 さやかちゃんも。

ど、どうしたんですか！？

ご、ごめんなんでもない！

その顔で何もないってことはないでしょ、大丈夫？

うん、ほんとに、ほんとにだいじょぶ。

あ、でも……ちょっとふたりに、聞いてもいいかな。

えっと……あのね。 アルバム、編集してたんだけどさ。
凄く……良いものになってきたとも、思うんだけどさ。

そうですね。 バランスも良く、この3年間を辿って……。

昨日までの楽しい思い出も、
最後に詰め込んだ、宝物のようにきらきらしていると思います。

うん。 すごいよ花帆ちゃん。
ルリ、もっと構成考え直そうかなー。

でもさ……ふたりは思わない？
こう……やっぱり全然足りないなー、なんて……。

足りない、ですか……。

うん。 ふたりもそう思うなら、
蓮華祭のぎりぎりまでまだまだ遊んで、さ？

それは……確かに、遊びたいは遊びたいですが。

じゃ、じゃあ、明日からもセンパイたちに頼んで、
もっとみんなで遊ぶ時間を増やしたりーー。

で、でも花帆ちゃん。

アルバム、あと1ページしかないよ？

それはっ……その……もう1冊、とか……さ。

……花帆さん。

……うん、分かってる。 分かってるよ、無茶だって。
もうどうしたって、時間はないんだって。

……花帆ちゃん、それで……泣いてたの？

いちページいちページ……大事に作ってたんだ。

楽しかったこと、大変だったこと、もうダメかもって思ったことも……
みんなの力で乗り越えられたこと。 たくさん、思い出あったよ。

でもね、そうやってアルバムが完成に近づくんだ。

本の終わりと、同じ。
読んでないページがどんどん減って、終わりに近づく。

……花帆ちゃん。

あと1ページになって……胸がきゅっと締め付けられた。

どうにか隙間を埋めて、空白のページを増やせないかって、
頭から読み返していったら……余計に心が痛くなっちゃってさ。

たくさん、思い出あったよ。 あの時は、全然足りないなんて言ったけど……
ほんとはそんなことなかったんだ。

やっぱり、みんなでもっと思い出作ろうっていうのも、わがままだったんだ。
あたしがただ、寂しかっただけ。

……離れたくなかった、だけなんだって。
離れるしかないのに、あたしは……。

……ね、花帆さん。

そんなに自分を責めないでください。
たとえあなたのわがままであったとしても……。

そのおかげで、
わたしは本当に大切な思い出を増やすことができましたよ。

うん。 それに、さ。
絶対悪いことじゃないよ！

離れたくない、寂しいってことは……それだけ、
先輩のことが好きだってことだもん。

今は、凄くつらいかもしれないけど……。

ありがとう……ごめんね、そんな顔させて。
寂しいのは、あたしだけじゃないのに……。

わたしは……いえ、わたしも、
寂しい気持ちがないと言えば、ウソになりますか……そうですね。

きょうはさ、ゆっくり休も？
今完成させる必要はないんだし！

そう、だね。
うん。 ありがと。

それこそさ！ 行っておいでよ！

え、どこに？

めぐちゃんたち、ラウンジで楽しそうに話してっから！
混ざっておいで！

あ……。

はい。 いってらっしゃい。 鍵はこちらでやっておきますから。
少しでも、寂しさを埋めちゃいましょう。

……うん、そうする。

……センパイ。

花帆？ どうしたの、そんな顔して。

あの……寂しくなっちゃって！

あはは、すーなおー。
まあでも、それだけ思われてるみたいだぞ？ 羨ましいことで。

ええ、そうね。
ほら、花帆にもお茶を出してあげましょう。

こいつ、さらっと……。

るりも呼んでこようか？

私が寂しいみたいじゃん！

それで、かほはどうしたら寂しくない？

ちょっと……言い出しにくいというか……その。
えっと！ センパイがたは、なんの話をしてたんですか？

ふうん？

ちょうど、沙知先輩から卒業おめでとうってメッセージが届いてね。

わ、沙知センパイ！ 元気してました！？

ええ。 さっそく設計についていろいろ勉強して、いくつか実践して、
なんて話を聞いたから。

……なんだか、相変わらずとんでもないことをしているみたいよ。

へー……卒業後も、頑張ってるんですね。
ていうか、そっか。 センパイたちは、ちゃんと連絡取ってるんですね！

そこまで頻繁じゃないけれどね。

あの人も夢に向かって頑張ってる最中だからねー。

そ、っか。

……えっと、そうだ！
沙知センパイ、蓮華祭に来られたりはしないんですか！？

来るのは無理だけど、ちゃんとスクコネで見るよって。
かほたちにもよろしくって、言ってた。

そ、っかあ。
……ちょっと残念だけど、見ててくれるなら、嬉しいです！

よっぽど忙しいんだろうね。
ま、私は安心したけど。 今度は好きなことやれてるみたいで。

そうだね。 やりたくてもできないことが多かった分……
今はその翼をめいっぱい広げていてほしい。

私たちは今もやりたいことやって、
そのうえで天使の翼をはためかせて飛び立つけどねー。 世界へ！

……あなたが本当に外国で生活を送れるかどうか、
蓮ノ空女学院一同、不安しかないけれど。

主語大きいな！ できるに決まってるじゃん。
ジョーシキありまくりだよ？ 私。

英語の勉強、進んでいる？

喋る方は、割と。

おお～。

……やるときはやるものね、あなたは。

でしょ？ 梢ってば、私のことわかってるじゃん！

それに、心配するなら、綴理の方じゃない？
先生は大変だぞ～。

先生……？
えっ綴理先輩って、先生目指してるんですか！？

うん。 がんばる。

……大変なの？

そうよ。 補習すらも隙あらばサボろうとする生徒とか、
そのくせテスト前に配信する生徒とかいるんだから。

急に早口になるじゃん……。

あははっ。

それってめぐのことでしょ？
めぐだったら大丈夫だよ。

めぐは、いいところがいっぱいある。
勉強しなくても、ボクはめぐが大好きだから。

コイツ、生徒に好かれそうだな……。

そうね……。
綴理は、いつだって寄り添ってくれるものね……。

ほんとに。 スクールアイドル辞めなくてよかったねえ。

っ。 ま、まさかあなた、先月のこと、慈に話したの……？

～♪

言わない方が、よかったのかな？

いいんだよ。
もう卒業するのに、今さら隠し事したって、仕方ないでしょ。

……。

こずは、歌の勉強を続けるんだよね。

え、ええ……。

……そうね、また一から学び直すつもり。
本格的な声楽は初めてだから、もちろん不安はあるけれど。

でも、どこでだってがんばるって、決めたから。
吹っ切れたのかしらね。 今はワクワクしているの。

まるで、スクールアイドルに憧れていたあの頃、みたいに。

ああ、眩しいね。

……っ。 くすん。

か、花帆！？

……おっと。

……もしかして、寂しくなった？

……花帆。

だいじょうぶ、です。 ごめんなさい。

あたしは……もっともっと、センパイたちと一緒に居たいんです。

そう……。 花帆、でも。

分かってます。 センパイたちの夢の話を聞いちゃったら、
もう、あたしは何も言いたくないです……！

寂しくて、いいんだよ？

……ええ。 私だって、もちろん寂しいわ。
あなたと離れ離れになるのは。

でもっ……でもあたしは、あたしは本気で離れたくないんです！
センパイたちの寂しいとは、違う……！

……。

センパイたちの夢は、素敵なものです……！
なのにあたしは……あたしはっ。

ずっと一緒にライブがしたい！ 明日も、明後日も！ 来年も、再来年も！
学校で、ステージで、どこでだって！

ずっとスクールアイドルをしていたいんです！

そのためにやれることがあるなら、
なんだってしたいって思っちゃうくらいに！

……。

……ほんと、素直だね。花帆ちゃんは。

花帆。

その気持ちは、とっても嬉しいわ。

それだけ私たちの存在が、あなたの中で大きくなっていたことを……
誇りに思う。

ううっ……。

でも……それは、できないの。

っ。

私たちは、あと少しで卒業。
スクールアイドルでは、なくなってしまうから。

いつまでもあなたと、ライブをしていたかった。 その気持ちは、一緒よ。
あなたとの日々があったからこそ、私は新しい夢を見つけられたの。

ごめんなさい。
あなたを置いて、卒業してしまって。

う、ううう……うぁあ……。

……でも。

綴理、慈。
私、やりたいことがあるのだけれど。

いいよ。

ま、あそこにふたり、心配そうに覗いてるのもいるしね。

へ……？

……花帆さん。

さやかちゃん、瑠璃乃ちゃん……。

えっと、これは何がどうなって……？

ええ、あなたたちにも聞いていってほしい。

ちょうどできたところだしね。

うん。
もともと、蓮華祭できみたちに聞かせたかった曲だから。

私たちが遺す最後の曲。

新しい、Dream Believers。