第11話『夢を咲かせる物語』
PART 1
セラス | ……雨。 |
泉 | 待っていても、きょうは止まないらしいよ。 |
セラス | そうなんだ。 |
泉 | 他校の生徒さんが、どうしてうちの学校に? 転校生かな? |
セラス | スクールアイドル部のスカウトに来たの。 ……長野から。 |
泉 | わざわざ東京まで、ご苦労様だ。 本当にあるんだね、そういうの。 |
セラス | 廃校になるかも、しれなくて。 うちの学校。 |
泉 | へえ? |
セラス | だから、実績が必要なの。 スクールアイドル部が全国優勝すれば、きっと学校を救える。 |
セラス | やらなきゃいけないの。 わたしが。 だから……。 |
泉 | だったら近くに、ダンス部の強い中学があったはずだよ。 場所はね、ええと。 |
セラス | そこは、もう行った。 |
泉 | ……もう? 今まで、何校ぐらい回ったの? |
セラス | 覚えてない。 300校ぐらい。 |
セラス | 来てくれた人はまだ、いない、けど……。 |
泉 | ……ずいぶん、無茶をしているね。 |
泉 | どうしてそこまでするんだい。 学校がなくなるなんて、いまどき珍しい話でもないだろう。 |
セラス | ……好きだから。 |
セラス | 大好きだから。 瑞河の、スクールアイドル部が。 |
泉 | ……ふぅん。 |
泉 | ねえ、入ってあげようか? あなたの学校に。 |
セラス | え? |
泉 | 私は桂城 泉。 歌もダンスも実績はないけれど、きっと戦力になるとは思うよ。 |
セラス | 桂城、泉。 あなたが、あの……? |
セラス | まさか、あなたが瑞河に来てくれるなんて……。 あ……でも、どうして? |
泉 | 好きなんだろう? 自分の学校が。 |
泉 | 私もね、好きなのさ。 あなたのように夢を追いかけるひとが。 |
セラス | えっと、わたし、セラスって言って。 あ、連絡先……。 |
泉 | ねえ、セラス。 |
泉 | あなたは、自分の夢になにを賭ける? |
セラス | え……? |
泉 | 私に、なにをくれる? |
セラス | ぜんぶ。 |
セラス | わたしのぜんぶを、あげるから! |
セラス | わたしたちの学校を、救って! |
セラス | そして、わたしをーーーー。 |
花帆 | それじゃあ、プレーオフに向けて、さっそく準備をしなきゃいけませんね! |
梢 | ええ、そうね。 金沢に帰って、そしてまたプレーオフで 関東に来ることになるんだから、みんな、体調管理をしっかりね。 |
小鈴 | はい! 徒町はきょうから夜の8時に寝ます! |
慈 | 決勝の曲『AURORA FLOWER』も、 パワーアップできそうなところは考えてみようよ。 |
さやか | 確かに、そうですね。 一度ステージで披露して、わかったこともいろいろありますし。 |
吟子 | 緊張は続きますが、あまり思いつめず、楽しむ心も忘れずに……と。 |
瑠璃乃 | おっ、楽しませてほしいんだったら、いつでもルリたちを呼んでいいからね! |
姫芽 | 確かに! アタシたち、その道のプロですから! |
吟子 | せ、切羽詰まったときは、どうぞよろしくお願いします。 |
綴理 | あの子たちも、燃えてたね。 |
花帆 | ですね! 『今度は負けないからね』って言ってました。 |
慈 | なんだったらあの子、決勝大会以上にワクワクしてなかった? |
姫芽 | きっと改めて認められたんですよ~。 好敵手と書いて、ライバル、と~……! |
さやか | だとしたら、光栄なことですね。 |
梢 | プレーオフには、向こうもさらに研鑽を積んでくるわ。 あともう少し。 力の限り、がんばりましょう。 |
さやか&綴理 | ちぇすとですね。/ちぇすと~! |
セラス | ……花ちゃん。 |
花帆 | あ、せっちゃん! |
泉 | やあ、みんな。 |
姫芽 | おお~! 泉ちゃん、すごかったね~! |
小鈴 | とてつもないものを見せてもらいました! とにかくすごくて……すごかったです! |
セラス | ……こちらこそ。 すごかったよ、花ちゃん。 泉が引き分けになる相手がいるなんて、想像もしてなかった。 |
セラス | ステージの蓮ノ空は、キラキラと輝いてて……。 ほんとに、眩しいぐらいだった。 |
花帆 | えへへっ。 |
セラス | ……ほんとに。 |
瑠璃乃 | えっと、どうかしたの? さっきとは、ちょっと様子が違うみたいだけど……。 |
セラス | ……。 |
セラス | どうせ、すぐにわかることだから。 |
セラス | あのね。 さっき、連絡があって、聞いたの。 |
セラス | 決まったんだ。 わたしたちの学校の、廃校が。 |
花帆 | え!? |
慈 | ……どういうこと? |
泉 | スクールアイドル部で、学校を救う。 そんな夢を見て、ラブライブ!に臨んでいたんだよ。 私たちは。 |
泉 | でも、それはかなわなかった。 |
泉 | ああ、あなたたちが気にすることはない。 もともと細い蜘蛛の糸だったんだ。 |
泉 | 仮に優勝できても、願いが叶うとは限らない。 |
泉 | だが、セラスはその夢にすべてを賭けていた。 |
花帆 | そう、だったんだ……。 |
セラス | ……うん。 |
花帆 | じゃあ、次のプレーオフが、 瑞河にとって最後のライブになっちゃうの……? そんなの……! |
セラス | ほんとにね、いいステージだったよ。 わたしの見た中でも、いちばんの泉だった。 |
セラス | きっと蓮ノ空がいたから、あれだけのものが見せられた。 思い出を胸に、瑞河に帰るね。 ありがとう。 |
吟子 | ちょっと待って。 その言い方じゃ、まるで……。 |
泉 | 瑞河女子は、プレーオフには、出られない。 |
小鈴 | ええっ!? |
瑠璃乃 | なんで~!? |
泉 | 廃校が決まったことで、部活停止令が下ったんだ。 もう、スクールアイドル部を続けることはできない。 |
泉 | 最後までやれなかったのは、私も残念だよ。 |
泉 | おめでとう、蓮ノ空。 あなたたちの、勝ちだ。 |
花帆 | そんな…………。 |
綴理 | 廃校。 ……学校が、なくなっちゃうんだ……。 |
瑠璃乃 | だからあんなに、必死だったんだね……。 |
姫芽 | なんというか、やりきれませんねぇ~……。 |
花帆 | ……どうにか、できないかな。 |
さやか | というのは? |
花帆 | このまま終わっちゃうなんて、そんなの、悔しいよ……! |
花帆 | あたしは……せめて最後まで、スクールアイドルを続けてほしい。 |
花帆 | せっちゃんだって、泉さんだって、ぜったいそうしたいはずだよ! だって、舞台裏ではあんなにプレーオフのこと楽しみにしてたんだから! |
吟子 | ……でも、このまま待っていれば、蓮ノ空の優勝が決まるんですよね。 |
小鈴 | それは……。 |
花帆 | あっ……。 |
花帆 | 梢センパイは……このままが、いいですか……? |
梢 | 廃校が決定したのなら、それを覆すことは、難しいでしょうね。 |
梢 | けれど、それならなおさら。 最後まで一緒のステージに立ちたいわ。 |
花帆 | 梢センパイ……! |
慈 | それ、梢が言うの? |
慈 | 私たちは、このまま黙ってれば、夢が叶うところにいるんだよ。 夢だったんでしょ。 ラブライブ!優勝は。 |
慈 | あんたの気持ちは、そんなものだったの? |
綴理 | めぐ、それは……。 |
梢 | はっきり言うわね、慈は。 |
姫芽 | 対戦相手の棄権による不戦勝は、 ゲームのプロシーンでもたびたびありますよ~。 |
姫芽 | ……だからそうしたいってわけじゃなくて、その、一応~……。 |
梢 | ありがとう、姫芽さん。 |
梢 | もちろん、ラブライブ!が大会である以上、 そこに必ず勝ち負けができて、負けて涙する子たちがいるわ。 |
梢 | 去年の私たちのように。 |
梢 | 私たちはそんなスクールアイドルたちの悲しみを乗り越えて、 優勝に手が届くところまで、やってきた。 |
梢 | みんなが笑って大会を終えたいだなんて、それは、勝者の傲慢よ。 |
さやか | ……。 |
梢 | それでもね、ひとりのスクールアイドルとして、 目の前に困っている人がいるなら、なにかをしてあげたいの。 |
瑠璃乃 | ……! |
梢 | ただひたむきにラブライブ!の優勝だけを目指していた私も、ようやく、 少しずつ……周りのみんなの幸せを願えるようになれたと、思うから。 |
花帆 | そうですよね、梢センパイ! |
花帆 | あたしたち、すべての悲しみをなかったことには、 できないかもしれませんけど……! |
花帆 | でも、まだやれることはあると思うんです! |
花帆 | せっちゃんは、前にも一度、夢を諦めなくちゃいけなくって…… それで、新しくできた夢が、スクールアイドルなんです! |
花帆 | 夢の終わりが不戦敗になっちゃうなんて……そんなの、あんまりですよ! |
花帆 | いちばんの……廃校を救うっていう、本当の願いが叶わなかったとしても…… それでも、自分はがんばったんだ、やり切ったんだって思えるように……! |
花帆 | せっちゃんが、これからも胸を張っていられるように! |
花帆 | あたしは、最後までプレーオフを諦めたくないです! |
綴理 | ……うん、かほ。 |
吟子 | わ、私はいいと思います! その、どうにかしてみる方向で! |
小鈴 | 徒町もです! |
姫芽 | アタシもアタシもアタシも~! |
花帆 | わあ!? |
慈 | ええい! みんな一斉に飛びつくんじゃないよ! |
慈 | プレーオフがしたい人~! |
花帆 | みんな……。 |
慈 | よし、満場一致! これにて閉廷! |
さやか | いいんですか? 慈先輩も。 |
慈 | え、なんで? |
さやか | だってさっき、梢先輩に厳しいことを言ってましたから……。 |
慈 | 私は『そんなもん?』って聞いただけだよ。 で、そんなもんじゃなかったんだから、いいじゃん。 |
瑠璃乃 | めぐちゃんは、こずパイにだけ素直じゃないからなあ……。 |
花帆 | あ、でもね! その上でもちろん、優勝を譲るつもりはないからね!? |
瑠璃乃 | それはそう! |
慈 | ま、それじゃ、私たちの意見はまとまった、ということで。 |
さやか | では、瑞河の方々にも話を伺いにいきましょうか。 |
綴理 | そうしよ~。 |
全員 | おー! |