第10話『Believe your love. Believe your live』

PART 1

ガタンガタンと揺れる新幹線の中、車窓から外を眺める花帆。
スマホを見やる花帆。
そこにはセラスから送られてきたメールがあった。
花帆
……せっちゃん。
花帆
誘ってもらったのは嬉しかったし、ライブは楽しみだけど……。
花帆
……なんかこれ、偵察みたい。
吟子
みたいじゃなくて、偵察なんですよ。
花帆
あっ、吟子ちゃん。
吟子
皆さんも言っていたじゃないですか。
こんなのどう見ても挑戦状に決まってる~、って。
花帆
うう、やっぱりそうかなあ。
吟子
ともあれ、相手がどうであれ、私たちは負けるわけにはいきませんからね。
花帆
うん……それは、そう!
花帆
一緒に来てくれて、ありがとうね、吟子ちゃん。
吟子
それは、まあ……。 花帆先輩だけ行かせて、
感想が『楽しかった!』の一言じゃ、意味ありませんし。
吟子
それに、私もこの目で見たかったですから。
同年代、ナンバーワンスクールアイドルと評判の、桂城 泉の実力。
吟子
べ、別に、花帆先輩が心配だったとか、
そういうわけじゃ、ありませんからね。
花帆
うん、そうだよね。
やっぱりせっちゃんの学校のライブ、楽しみだよね!
吟子
だからーー遊びに行くんじゃないって、言ってるでしょ!
花帆と吟子がやってくると、セラスが迎えに来てくれる。
セラス
ようこそ、花ちゃん!
花帆
せっちゃん!
セラス
駅から遠かったでしょ?
花帆
それはお互い様!
セラス
確かに。 蓮ノ空も駅から12時間ぐらいかかるもんね。
花帆
それじゃ、スクールバスが夜行バスになっちゃうよ!
花帆&セラス
あはは/ふふふ。
花帆
あ、そうだ、紹介するね。
この子は、あたしの後輩。
吟子
百生吟子です。 よろしくお願いします。
セラス
あんみつ作ってた人だ。
吟子
あ、その節は、どうも……。
セラス
瑞河に来てくれてありがとうね。
わたしはセラス。中学三年生だよ。
吟子
中学三年生、ってことは……セラスさんは、
スクールアイドル部の方じゃないんですか?
一緒にステージに立つことはできないけれど、
彼女もれっきとしたスクールアイドル部の一員だよ。
竜胆祭で言い争った記憶も新しい。吟子は、うわぁ、という顔をする。
対する泉は、そんな吟子に微笑む。
吟子
うわ、出た……。
久しぶり、吟子さん。
どうやら私のアドバイス通り、弱点を克服できたみたいだね。
よかったよかった。 私のアドバイス通り、ね。
吟子
おのれ……! その節は、どうもありがとうございました!
セラス
こら、泉。 お客様を煽らないの。
いや、ごめんごめん。
セラス
あと、わたしはまだ正式な部員じゃないからね。
とはいえ、なにも知らなかった私に
スクールアイドルのことを教えてくれたのは、セラスだろう。
トレーニングにも付き合ってくれている。
ステージの活動以外は、ほとんどセラスに頼っているんだ。
花帆
そうなの!?
セラス
まあ……好きだから、スクールアイドル。
日野下花帆さん。
ようこそ、瑞河へ。
同じラブライブ!決勝大会で競い合うあなたたちが
遊びに来てくれて、嬉しいよ。
花帆
うん、負けないよ、あたしたちも!
セラス
ふふふ。
セラス
ね、ライブまではまだ時間があるんだ。
花ちゃんに、校内を案内してあげたい。
花帆
え、いいの!?
セラス
うん。
吟子
では、泉さん。
せっかくですから、ライブの準備をお手伝いしますよ。
おや、いいのかな?
吟子
ええ、私は花帆先輩についてきただけですから、
それぐらいはしないと。
義理堅い人だね。
それじゃあ、またね。
セラス
じゃあ、いこ、花ちゃん。
花帆
……うんっ。
セラスが花帆を案内する。
その途中で、いろんな生徒に声を掛けられるセラス。
瑞河生徒A
お、スクールアイドル部、がんばってねー!
瑞河生徒B
きょうのライブも、見に行くからね!
セラス
うん、ありがと。
花帆に向き直って。
セラス
冬休みなのにみんな、ライブのために集まってきてくれたんだ。
花帆
人気者だね、スクールアイドル部。
いぇい、とピースサインを作るセラス。
セラス
全国大会進出だから、泉。
花帆
すごいんだねえ。
セラス
すごいよ泉は。
花帆
ううん、せっちゃんも。
セラス
わたし?
花帆
さっき、泉さんが言ってたけど、
スクールアイドル部の活動を手伝ってるんでしょ?
セラス
まあ一応。
セラス
もともと、音楽がやりたかったんだ。
こう見えても習ってたんだよ、ヴァイオリン。
ヴァイオリンを引くジェスチャーをするセラス。
花帆
ええー!? 知らなかった!
セラス
言わなかったから。
セラス
子どもの頃はね、ずっと、体が弱くて。
レッスンも、あんまり通えなくって。
セラス
入院した後は、もう、音楽もできなくなっちゃって。
花帆
あ……それで。
セラス
でも、かわいそうな子だって思われるのは、
なんかいやだったから、わざと明るく振る舞ってたんだ。
花帆
……その気持ち、あたしもわかるよ。
セラス
ふふっ。 それでもね、花ちゃんがいた頃は、楽しかったよ。
セラス
年の近い友達がいて、一緒に本を読んだり、お歌を歌ったり。
セラス
病院の中であんなに楽しかったの、初めてだった。
セラス
だけど……だから、かな。 花ちゃんが退院した後は……
ますますひとりになっちゃったような、気がして。
花帆
せっちゃん……。
セラス
そんなわたしを救ってくれたのが、この、
スクールアイドル部なのです。
セラスが手のひらを差すと、そこには瑞河女子スクールアイドル部の部室があった。
セラス
花ちゃんが退院した後しばらくしてから、病院訪問でね、
スクールアイドルのお姉さんたちが来たの。
花帆
へええ!
セラス
明るくて、優しくて、どこか抜けてるお姉さんたち。
みんなの前でね、ちょっとしたライブを開いてくれたんだ。
花帆
じゃあもしかして、それで!?
セラス
……うん。
セラス
わたしはちょっと生意気で、最初は、ツンツンしてたんだけど……
でも、お姉さんたちは、毎週顔を見せてくれて……。
セラス
夢を諦めるなとか、夢は大事って言いますけど。
でもわたし、今からがんばっても、
同世代の子にヴァイオリンで追いつくことはもう、できません。
セラス
夢を見ようとしても見れない人もいます。
だから、好きじゃないです、お姉さんたちの歌……。
セラス
……今、思うと、高校生のお姉さん方に、
ひどいこと言ってたような気がする。
花帆
あはは、その気持ちもわかるなあ……。
セラス
でもね、言ってくれたの。
『だったら、一緒にスクールアイドルやろうよ!』って。
セラス
スクールアイドルは、誰だって夢を見れる。
始めようと思えば、いつだって始められる。
セラス
お姉さんたちは、みんなの夢を叶えたいって言ってた。
それが、瑞河女子スクールアイドル部の、モットーなんだって。
セラス
そして今の……わたしの、新しい目標。
花帆
うん……すごい、素敵な話だったよ!
セラス
……花ちゃんに聞いてほしくて、喋りすぎちゃった。
セラス
ごめんね、三日間も話し続けて。
花帆
30分も経ってないよ!?
セラス
ふふっ。
花ちゃんにツッコミ入れてもらうの、好き。
花帆
だってせっちゃんって、構ってほしくて、
わざと大げさに言ってるんだもんねー。
セラス
む……。
花帆
わかるよ、せっちゃんのこと。 寂しかったんだよね、ずっと。
そのうちそれが癖になっちゃったりして。
セラス
……さすが、花ちゃん。
花帆
院友、ですから。
セラス
でもね、今はもう、大丈夫だから。
セラス
……わたしもね、来年こそぜったいに、スクールアイドルになるんだ。
瑞河の、みんなの夢を叶える、スクールアイドルに。
花帆
応援してるよ、せっちゃんのこと!
セラス
……うん。
セラス
あ……。 そろそろ、時間。
セラス
花ちゃんに、見てほしい。
セラス
今のわたしたちの、実力。
瑞河の、スクールアイドル部を。
花帆
うん!
ステージは簡素なもの。経営危機に陥っていて、部費も削られているため。
生徒たちは皆、スクールアイドル部の大ファン。廃校阻止するための最後の希望だから。
ステージ付近にいた泉と吟子。
そこに花帆とセラスが戻ってくる。
やあ、おかえり。
花帆
あ、泉さん。
これからライブ、がんばってね!
うん、ありがとう。
吟子
……。
吟子
あの……。
あなたは、どうしてスクールアイドルを目指したんですか。
どうして?
花帆
吟子ちゃん?
吟子
ステージの設営、お手伝いしましたけど……皆さん、
熱意がっていうより、まるで鬼気迫るような雰囲気を感じました。
吟子
すごく、本気なんだな、って。
だから、聞いてみたくなって……。
吟子
夢、とか。
私はね、勝つためにやっているんだ。
吟子
……えっ?
もっと言えば、ラブライブ!で優勝するために、
スクールアイドルを始めたんだよ。 セラスにスカウトされてね。
とはいえ、私はスクールアイドルについては素人だ。
短期間で実力を付けるために、実戦で力を磨くことにしたんだよ。
吟子
実戦……?
セラス
コンテスト形式のフェスとか。 そういうスクールアイドルの大会。
ラブライブ!以外にも、各地で行われてるから。
セラスは厳しくてね。 この9ヶ月で20もコンテストに挑まされたよ。
いや、骨が折れた。
セラス
そんなこと言って。
涼しい顔でぜんぶ勝ってきたくせに。
花帆
ぜんぶ!?
とんでもない。 毎回、必死で掴んだ勝利だったさ。
ただーー。
私は優勝請負人。 負けはひとつも許されない。
練習であったとしても。
そういう覚悟を、胸に秘めていたかな。
花帆&吟子
…………。
セラス
泉。 花ちゃんたちを脅かさないで。
これは失礼。
泉、優雅に頭を下げる。
ライブ前の楽しい気持ちを少し削いじゃったかな、とセラスが花帆と吟子に謝る。
セラス
ごめんね。 でも、泉が話したのは本当のこと。
わたしと泉は『戦って勝つこと』を追い求め、走り続けてきた。
セラス
どうしても、ラブライブ!で優勝したいから。
だからね、吟子さん。
私に夢はないんだ。
あるのは『勝つ』という使命だけ。
それが、セラスとの約束だからね。
吟子
そんなスクールアイドルの形が……。
それじゃあ、見ていってくれ。
幾多の勝ちを積み上げて、練り上げてきた、
私のパフォーマンスが、どんなものであるかを。
シーン内時間経過。
花帆、ステージに目を向ける。
わあああああ! という歓声が響く。
花帆
わ……。
きょうは、私たちのライブに来てくれて、ありがとう。
ラブライブ!全国大会も、必ず優勝する。
そのためにみんな、応援よろしく。
それじゃあーー行くよ!
『Edelied』!
花帆
ーーーー!!
ステージが終わって、花帆と吟子を見送りに来た泉とセラス。
セラス
きょうは、来てくれてありがと。
いっぱいお喋りできて、嬉しかった。
花帆
うん……あたしも。
花帆
こんなライブ見たの、初めてだった……。
花帆
始まった途端に『呑まれた』みたいな感じがして……。
花帆
泉さんの目とか、動きに惹きつけられて、
いつの間にかあたし、動けなくなってた……。
花帆
それくらい、迫力があったよ。
これが勝つためのスクールアイドル……なんだね……!
光栄なことだね。
セラス
ねえ、花ちゃん。
次に会うときは、ラブライブ!全国大会の舞台だね。
花帆
え? あ……そ、そうだね!
セラス
泉は負けないから。 ラブライブ!優勝。
わたしの……わたしたちみんなの夢をかけて。
正々堂々、戦おうね。
花帆
う、うん。
セラスにも気圧されながら、握手する花帆。
手のひらを見下ろす花帆。
そんな花帆をどこか心配そうに見つめる吟子。
花帆
……。