第9話『みらくる・ざ・ゆにばーす!』

PART 8

私が……ママの夢を、奪ったんだ。
私がタレントを始めたいって言ったから、ママは、私のために……。
私の夢を、叶えるために……。
自分を、犠牲にして……。
私の、せいで……。
……なんなの。
誰かのために、自分の夢を諦めるなんて……
そんなの、意味わかんないよ!
私が大人になったら、いちばんきれいなアクセサリー作ってくれるって……。
だから、自分は、世界一のデザイナーになるんだ、って言って……!
だったら私だって……世界中を夢中にするときには、
ママのアクセサリーも一緒に連れていってあげる、って……そう言ったのに。
ばか! ばかばかばかばか! ママのばか!
こんなの、ぜんぜん! 嬉しくない!
私だったら絶対……ぜったいに、諦めないのに……。
瑠璃乃
せーのっ!
瑠璃乃&慈
みらくらぱーく!
なのに……。
勝手にやめないでよ……。
ママの、ばか……。
……ばか。
……ん、あれ……?
なにしているの? あなた。
……梢こそ。
私は天体観測だけれど。
……あっそ。
……なんなの。
……ねえ。
なに?
梢って、大学行くんだよね。
ええ。 推薦入学が、もう決まっているから。
そっか……。
私も行こうかな、大学。
えっ?
いや、その、入ろうと思って、急に入れるような場所では……。
……なにか、あったの?
……うん。
……話を聞くぐらいは、できるけれど。
頭の中、ぐしゃぐしゃで……うまく、まとまってないけど。
そう。
いいわよ、時間がかかっても。 星を見ているから。
……私、ママに大変なことをしちゃってたんだ。
私のせいで、ママは、自分の夢を諦めなきゃいけなくって。
そのことに、私は気づかなくて……。
ずっと、自分勝手だった。
……あなたが自分勝手なのは、今に始まったことじゃないでしょう。
……ごめん。
どうしちゃったのよ、本当に……。
今さら、どうすればいいんだろ……。
ごめんって謝っても、時間は戻らないのに……。
だから今度は、母親のためにあなたが夢を諦めて、
大学に入るって言うの?
……それもありなのかな、って。
ママが私を、梢みたいな“立派な常識人”にしたいんだったら……
今度は私がその夢を、叶えてあげるべきなんじゃないかな……とか。
……母親の娘としてなら、そういう選択肢もあるでしょうね。
うん……。
でも、スクールアイドルとしては、どうかしら。
配信であなたを応援してくれる人たちは、
みんな、あなたの幸せを願っているわ。
その人たちに胸を張って、自分の選択を報告できる?
それは……。
……ねえ、慈。
私たちもうすぐで、知り合ってから3年になるわね。
沙知先輩には、3人でずいぶんと迷惑をかけてしまったわ。
……なに、急に。
この3年間で、私がいちばん憤ったことがなんだか、わかる?
……沙知先輩が、勝手に辞めたこと?
いいえ。
じゃあ、私が怪我して部を辞めたこと。
それも、いいえ。
怪我をしたあなたが、私と綴理に謝ったことよ。
リハビリに付き合うなんて、ぜんぜん平気だった。
私と綴理はあなたの手を掴んでいたのに。
あなたは、自らその手を振り払ったの。
自分の夢を、諦めたのよ。
あのとき以上に悔しくて、悲しくて。
あなたの身勝手さと、自分の無力感に憤ったことはなかったわ。
……そんなこと、言われても。
あんたには、ラブライブ!優勝っていう夢があったでしょ。
それに……その話は、もう終わったじゃん。
あなたはきっと正しいことをした。
でも私は、死ぬまで根にもつわ。
なんなの?
私になにを言わせたいの!?
私は。
もし新入部員が誰も入ってこなかったとしても、
今でも綴理と不干渉を貫いていたとしても、
ぜったいにスクールアイドルクラブを辞めなかったわ。
どんなにみっともなくて、無様でもね。
あなたが私に謝ったんだから。
私のために、あなたが夢を諦めたんだから。
そんなの……。
そんなの、私のせいでしょ!
私が踊れなくなったのは、ぜんぶ私のせいなんだから!
人の責任まで引き取らないでよ! この、戒めバカ!
じゃあどうしてあなたは、今そんなに苦しんでいるの!?
同じことでしょう!
ーーえ?
お母様は、あなたのために勝手に夢を諦めたのに。
どうしてあなたが、そんな顔をしているのよ!
だって……。
……知っちゃったんだから、しょうがないじゃん!
私が、ママの夢を奪ったんだ、って……。
それは、
私の夢を守るためにあなたが部を辞めたことと、どう違うっていうの?
ーーっ。
たったの半年間だったかもしれないけれど……。
あなたが本気だったから、私も、
その夢を背負ってスクールアイドルを続けることを選んだのよ。
……ごまかすのが下手だわ。
あなたは、いつも。
人のこと、なんでもわかってるような顔をして!
自分がそうしたんだから、
私にもこれまでと同じようにやれってこと!?
私の犠牲になった人がいても、それを知っても前を向け!
応援してくれる人に、これまでと同じ、
これまで以上の笑顔を振り撒け、って!
私が決めたことなんだから! 最後までやり通せ、ってさ!
なにそれ!? ぜんぜん優しくない!
私のこと、梢みたいに人の心がない女だとでも、思ってんの!?
あんたや綴理と違って、私がしがみつく理由なんて……。
そんなの……そんなの!
慈&瑠璃乃
世界中を夢中にしよう!!
姫芽
お誘いいただけるなら、願ってもないことです。
どうか、よろしくお願いします!
瑠璃乃
よ~し、それじゃあ~。
瑠璃乃
練習だ~!
そんなのーー!
ーー山ほどあるに、決まってんじゃん!!
私は楽しいことが、大好き!
どんなときでも、みんなと楽しく笑っていたいよ!
たとえその途中で、沙知先輩や、綴理。
それにあんたや、ママを傷つけても……
それでも、私のやりたいことは、ずっと、ずっと変わらない……!
私は、るりちゃんと一緒に、姫芽ちゃんの手を引いて、
もう、走り出したんだ……!
いいよ、わかったよ、やってやるっての!
どんなことがあっても、目を背けずに!
つらいことも悲しいことも、ぜんぶ背負って、
それでも世界中を夢中にしてやるんだから!
中途半端は、辞める! 私はどうせ自己中だよ!
だったら、世界一カワイイ自己中になってやる!
あんたが卒業した翌日だって、笑顔で配信してやるからね!
あなたも卒業しているのよ、そのときは。
私をがっかりさせないでね、慈。
うっさいわ! 勝手に死ぬまで根にもってろ!
ばか! あほ! ぼけー!
口が悪いわね……。
がるるるるる。
姫芽
めぐちゃんせんぱい~!
がる?
瑠璃乃
めぐちゃん、野生化してる!?
あ、ふたりとも!
さっきは、ごめーー。
……。
ーーハッ。
よし! ふたりとも!
曲の新しいイメージ、バージョン2を思いついたから、すぐ帰るよ!
瑠璃乃
えっ、なになに!?
……自己中って、そういうことではないと思うのだけれど。
今度のテーマは、覚悟! 私は私の決めた道を行くんじゃい!
そう! たとえどんなことがあっても、自分の決めた道を!
姫芽
なんか、あんまり変わってなさそうですけど~!?
変わってるの! ニュアンスとか、私の心情が!
だから手伝って! るりちゃんと姫芽ちゃんが手伝ってくれないと、
私の最高の曲が完成しな~い~!
瑠璃乃
あれ……?
なんか、飛び出したときより、元気になってない……?
瑠璃乃
めぐちゃんが心配だから、充電振り絞って、ここまで走ってきたのに……!
ありがと、るりちゃん!
大好きだよ! ラブ!
瑠璃乃
あ、うん……ルリも大好きだけど~……?
姫芽
るりめぐ…………。
うふふ。
梢。
なに?
きょうは、話を聞いてくれて……ありがとう。
あら……。
お礼に、あんたのいちばんほしいもの、くれてやるから。
全国への切符。
北陸大会は、任せて。
私の曲で、圧勝してやるんだよ!
……ふふ。
それは、楽しみだわ。
べーだ。
瑠璃乃
梢先輩、めぐちゃんになにかしました?
いいえ?
私はただ、星を見ていただけよ。
ずっとね。
慈ママ
その件は進めていただいて。 はい、大丈夫です。
それでは、また後ほどお願いいたします。
慈ママ
あら 慈ちゃんから、メール……じゃなくて。
これはビデオレター?
やっほ、ママ。
慈ちゃんだよ。
ママ、聞いたよ。
私のために、ジュエリーデザイナー辞めたんだって?
そういうの黙ってるとこ……ほんと、私そっくり。
やっぱり、親子だね。
……あのね、私、やりたいことがあるんだ。
世界中を夢中にさせたいの。
これからも迷惑かけるかもしれなくて、それはごめんだけど!
でもその代わりに、ママの大好きな私が、世界中で元気に笑ってる姿を、
いつでも見せてあげるから。
どこにいても、今が幸せだよって歌うから。
蓮ノ空に入って、友達ができたんだ。
仲間ができて、先輩ができて、ライバルができて、後輩ができた。
いつだって私には、助けてくれる人がいるから。
もう、大丈夫だよ。
だから、今月のライブ、見てて。
北陸大会っていうすごく大切な日に、成長した私の姿と、
私の仲間をぞんぶんに見せてあげるから。
自慢の娘の晴れ舞台、ぜったい見ててよね。
それと……大好きだよ、ママ。
今まで、ほんとに、ありがとう!
慈ママ
……ふふっ。
まったく、慈ちゃんってば。
慈ママ
予定、空けておかなくっちゃね。