第9話『みらくる・ざ・ゆにばーす!』
PART 8
慈 | 私が……ママの夢を、奪ったんだ。 |
慈 | 私がタレントを始めたいって言ったから、ママは、私のために……。 私の夢を、叶えるために……。 |
慈 | 自分を、犠牲にして……。 |
慈 | 私の、せいで……。 |
慈 | ……なんなの。 |
慈 | 誰かのために、自分の夢を諦めるなんて…… そんなの、意味わかんないよ! |
慈 | 私が大人になったら、いちばんきれいなアクセサリー作ってくれるって……。 だから、自分は、世界一のデザイナーになるんだ、って言って……! |
慈 | だったら私だって……世界中を夢中にするときには、 ママのアクセサリーも一緒に連れていってあげる、って……そう言ったのに。 |
慈 | ばか! ばかばかばかばか! ママのばか! |
慈 | こんなの、ぜんぜん! 嬉しくない! |
慈 | 私だったら絶対……ぜったいに、諦めないのに……。 |
瑠璃乃 | せーのっ! |
瑠璃乃&慈 | みらくらぱーく! |
慈 | なのに……。 |
慈 | 勝手にやめないでよ……。 |
慈 | ママの、ばか……。 |
慈 | ……ばか。 |
慈 | ……ん、あれ……? |
梢 | なにしているの? あなた。 |
慈 | ……梢こそ。 |
梢 | 私は天体観測だけれど。 |
慈 | ……あっそ。 |
梢 | ……なんなの。 |
慈 | ……ねえ。 |
梢 | なに? |
慈 | 梢って、大学行くんだよね。 |
梢 | ええ。 推薦入学が、もう決まっているから。 |
慈 | そっか……。 私も行こうかな、大学。 |
梢 | えっ? いや、その、入ろうと思って、急に入れるような場所では……。 |
梢 | ……なにか、あったの? |
慈 | ……うん。 |
梢 | ……話を聞くぐらいは、できるけれど。 |
慈 | 頭の中、ぐしゃぐしゃで……うまく、まとまってないけど。 |
梢 | そう。 いいわよ、時間がかかっても。 星を見ているから。 |
慈 | ……私、ママに大変なことをしちゃってたんだ。 |
慈 | 私のせいで、ママは、自分の夢を諦めなきゃいけなくって。 |
慈 | そのことに、私は気づかなくて……。 ずっと、自分勝手だった。 |
梢 | ……あなたが自分勝手なのは、今に始まったことじゃないでしょう。 |
慈 | ……ごめん。 |
梢 | どうしちゃったのよ、本当に……。 |
慈 | 今さら、どうすればいいんだろ……。 ごめんって謝っても、時間は戻らないのに……。 |
梢 | だから今度は、母親のためにあなたが夢を諦めて、 大学に入るって言うの? |
慈 | ……それもありなのかな、って。 |
慈 | ママが私を、梢みたいな“立派な常識人”にしたいんだったら…… 今度は私がその夢を、叶えてあげるべきなんじゃないかな……とか。 |
梢 | ……母親の娘としてなら、そういう選択肢もあるでしょうね。 |
慈 | うん……。 |
梢 | でも、スクールアイドルとしては、どうかしら。 |
梢 | 配信であなたを応援してくれる人たちは、 みんな、あなたの幸せを願っているわ。 |
梢 | その人たちに胸を張って、自分の選択を報告できる? |
慈 | それは……。 |
梢 | ……ねえ、慈。 私たちもうすぐで、知り合ってから3年になるわね。 |
梢 | 沙知先輩には、3人でずいぶんと迷惑をかけてしまったわ。 |
慈 | ……なに、急に。 |
梢 | この3年間で、私がいちばん憤ったことがなんだか、わかる? |
慈 | ……沙知先輩が、勝手に辞めたこと? |
梢 | いいえ。 |
慈 | じゃあ、私が怪我して部を辞めたこと。 |
梢 | それも、いいえ。 |
梢 | 怪我をしたあなたが、私と綴理に謝ったことよ。 |
梢 | リハビリに付き合うなんて、ぜんぜん平気だった。 |
梢 | 私と綴理はあなたの手を掴んでいたのに。 あなたは、自らその手を振り払ったの。 |
梢 | 自分の夢を、諦めたのよ。 |
梢 | あのとき以上に悔しくて、悲しくて。 あなたの身勝手さと、自分の無力感に憤ったことはなかったわ。 |
慈 | ……そんなこと、言われても。 |
慈 | あんたには、ラブライブ!優勝っていう夢があったでしょ。 |
慈 | それに……その話は、もう終わったじゃん。 |
梢 | あなたはきっと正しいことをした。 でも私は、死ぬまで根にもつわ。 |
慈 | なんなの? 私になにを言わせたいの!? |
梢 | 私は。 |
梢 | もし新入部員が誰も入ってこなかったとしても、 今でも綴理と不干渉を貫いていたとしても、 ぜったいにスクールアイドルクラブを辞めなかったわ。 |
梢 | どんなにみっともなくて、無様でもね。 |
梢 | あなたが私に謝ったんだから。 私のために、あなたが夢を諦めたんだから。 |
慈 | そんなの……。 そんなの、私のせいでしょ! |
慈 | 私が踊れなくなったのは、ぜんぶ私のせいなんだから! 人の責任まで引き取らないでよ! この、戒めバカ! |
梢 | じゃあどうしてあなたは、今そんなに苦しんでいるの!? 同じことでしょう! |
慈 | ーーえ? |
梢 | お母様は、あなたのために勝手に夢を諦めたのに。 どうしてあなたが、そんな顔をしているのよ! |
慈 | だって……。 |
慈 | ……知っちゃったんだから、しょうがないじゃん! 私が、ママの夢を奪ったんだ、って……。 |
梢 | それは、 私の夢を守るためにあなたが部を辞めたことと、どう違うっていうの? |
慈 | ーーっ。 |
梢 | たったの半年間だったかもしれないけれど……。 |
梢 | あなたが本気だったから、私も、 その夢を背負ってスクールアイドルを続けることを選んだのよ。 |
梢 | ……ごまかすのが下手だわ。 あなたは、いつも。 |
慈 | 人のこと、なんでもわかってるような顔をして! |
慈 | 自分がそうしたんだから、 私にもこれまでと同じようにやれってこと!? 私の犠牲になった人がいても、それを知っても前を向け! |
慈 | 応援してくれる人に、これまでと同じ、 これまで以上の笑顔を振り撒け、って! |
慈 | 私が決めたことなんだから! 最後までやり通せ、ってさ! |
慈 | なにそれ!? ぜんぜん優しくない! 私のこと、梢みたいに人の心がない女だとでも、思ってんの!? |
慈 | あんたや綴理と違って、私がしがみつく理由なんて……。 そんなの……そんなの! |
慈&瑠璃乃 | 世界中を夢中にしよう!! |
姫芽 | お誘いいただけるなら、願ってもないことです。 どうか、よろしくお願いします! |
瑠璃乃 | よ~し、それじゃあ~。 |
瑠璃乃 | 練習だ~! |
慈 | そんなのーー! |
慈 | ーー山ほどあるに、決まってんじゃん!! |
慈 | 私は楽しいことが、大好き! どんなときでも、みんなと楽しく笑っていたいよ! |
慈 | たとえその途中で、沙知先輩や、綴理。 |
慈 | それにあんたや、ママを傷つけても…… それでも、私のやりたいことは、ずっと、ずっと変わらない……! |
慈 | 私は、るりちゃんと一緒に、姫芽ちゃんの手を引いて、 もう、走り出したんだ……! |
慈 | いいよ、わかったよ、やってやるっての! |
慈 | どんなことがあっても、目を背けずに! |
慈 | つらいことも悲しいことも、ぜんぶ背負って、 それでも世界中を夢中にしてやるんだから! |
慈 | 中途半端は、辞める! 私はどうせ自己中だよ! だったら、世界一カワイイ自己中になってやる! |
慈 | あんたが卒業した翌日だって、笑顔で配信してやるからね! |
梢 | あなたも卒業しているのよ、そのときは。 |
梢 | 私をがっかりさせないでね、慈。 |
慈 | うっさいわ! 勝手に死ぬまで根にもってろ! ばか! あほ! ぼけー! |
梢 | 口が悪いわね……。 |
慈 | がるるるるる。 |
姫芽 | めぐちゃんせんぱい~! |
慈 | がる? |
瑠璃乃 | めぐちゃん、野生化してる!? |
慈 | あ、ふたりとも! さっきは、ごめーー。 |
梢 | ……。 |
慈 | ーーハッ。 |
慈 | よし! ふたりとも! 曲の新しいイメージ、バージョン2を思いついたから、すぐ帰るよ! |
瑠璃乃 | えっ、なになに!? |
梢 | ……自己中って、そういうことではないと思うのだけれど。 |
慈 | 今度のテーマは、覚悟! 私は私の決めた道を行くんじゃい! そう! たとえどんなことがあっても、自分の決めた道を! |
姫芽 | なんか、あんまり変わってなさそうですけど~!? |
慈 | 変わってるの! ニュアンスとか、私の心情が! |
慈 | だから手伝って! るりちゃんと姫芽ちゃんが手伝ってくれないと、 私の最高の曲が完成しな~い~! |
瑠璃乃 | あれ……? なんか、飛び出したときより、元気になってない……? |
瑠璃乃 | めぐちゃんが心配だから、充電振り絞って、ここまで走ってきたのに……! |
慈 | ありがと、るりちゃん! 大好きだよ! ラブ! |
瑠璃乃 | あ、うん……ルリも大好きだけど~……? |
姫芽 | るりめぐ…………。 |
梢 | うふふ。 |
慈 | 梢。 |
梢 | なに? |
慈 | きょうは、話を聞いてくれて……ありがとう。 |
梢 | あら……。 |
慈 | お礼に、あんたのいちばんほしいもの、くれてやるから。 |
慈 | 全国への切符。 |
慈 | 北陸大会は、任せて。 私の曲で、圧勝してやるんだよ! |
梢 | ……ふふ。 それは、楽しみだわ。 |
慈 | べーだ。 |
瑠璃乃 | 梢先輩、めぐちゃんになにかしました? |
梢 | いいえ? |
梢 | 私はただ、星を見ていただけよ。 ずっとね。 |
慈ママ | その件は進めていただいて。 はい、大丈夫です。 それでは、また後ほどお願いいたします。 |
慈ママ | あら 慈ちゃんから、メール……じゃなくて。 これはビデオレター? |
慈 | やっほ、ママ。 慈ちゃんだよ。 |
慈 | ママ、聞いたよ。 |
慈 | 私のために、ジュエリーデザイナー辞めたんだって? |
慈 | そういうの黙ってるとこ……ほんと、私そっくり。 やっぱり、親子だね。 |
慈 | ……あのね、私、やりたいことがあるんだ。 |
慈 | 世界中を夢中にさせたいの。 |
慈 | これからも迷惑かけるかもしれなくて、それはごめんだけど! |
慈 | でもその代わりに、ママの大好きな私が、世界中で元気に笑ってる姿を、 いつでも見せてあげるから。 |
慈 | どこにいても、今が幸せだよって歌うから。 |
慈 | 蓮ノ空に入って、友達ができたんだ。 仲間ができて、先輩ができて、ライバルができて、後輩ができた。 |
慈 | いつだって私には、助けてくれる人がいるから。 |
慈 | もう、大丈夫だよ。 |
慈 | だから、今月のライブ、見てて。 |
慈 | 北陸大会っていうすごく大切な日に、成長した私の姿と、 私の仲間をぞんぶんに見せてあげるから。 |
慈 | 自慢の娘の晴れ舞台、ぜったい見ててよね。 |
慈 | それと……大好きだよ、ママ。 今まで、ほんとに、ありがとう! |
慈ママ | ……ふふっ。 まったく、慈ちゃんってば。 |
慈ママ | 予定、空けておかなくっちゃね。 |