第9話『みらくる・ざ・ゆにばーす!』
PART 4
吟子と、アシスタントに姫芽が座っている。 | |
吟子は(気合を入れるために)和服。姫芽と慈は制服。 | |
やってきた慈が、ちょこんと正座している。 | |
慈 | じゃあ、きょうはよろしくね。豚コマ100グラム78円。 |
吟子 | はい。 よろしくお願いします。 ……え? なんですか? |
慈 | ううん、気にしないで。 鶏むね肉一枚108円。 |
気にするなと言われましても……の顔の吟子。 | |
吟子 | はあ。 |
吟子の真面目な態度とは裏腹に、めぐちゃんせんぱいの力になれる機会が来たという意味で、やる気満々の姫芽。 | |
姫芽 | というわけで、言葉遣いやマナーの先生に、吟子ちゃんをお呼びしました~! アタシはアシスタントです~! |
しかし、慈は首を傾げる。吟子は花帆相手にもタメ口で喋っている後輩なので、大丈夫かな?と。 | |
慈 | でも、大丈夫なの? 吟子ちゃんって、敬語ニガテって言ってなかったっけ? |
慈先輩のご心配もごもっともです、とばかりにうなずく吟子。 | |
吟子 | それはまあ、そうなんですけど。 |
吟子 | 慈先輩が生活力の特訓をしてる間、私も一度実家に戻って、 祖母にしごかれてきましたので。 |
しれっと言う吟子に、驚く姫芽。 | |
姫芽 | そこまでしてたの~!? |
吟子 | 他ならぬ、配信のお師匠様……慈先輩の頼みです。 |
吟子 | またすぐ敬語が抜けてしまうかもしれませんが…… 特訓の間は保てるように、がんばります。 |
慈 | ありがとね……。 私、みんなに愛されて、幸せだよ……。 牛乳1パック203円……。 |
吟子 | なんか気が抜けるんだけど! |
姫芽 | 保ててないな~。 |
吟子 | あっ、うっ……! がんばります……! |
姫芽 | そ~いえば、めぐちゃんせんぱい~。 最近るりちゃんせんぱい見ないんですけど、どうしたんですか~? |
慈 | るりちゃんは、別ルートでママの弱点を探ってもらってるよ。 具体的に言うと、るりママなんだけど。 |
吟子 | 弱点……? |
姫芽が目を輝かせる。 | |
姫芽 | るりママとめぐママも、幼馴染なんですか~!? やば~! 尊い~! |
慈 | いや、幼馴染ではないけどね。 確か、大学の同級生? でも仲良いのは間違いないから、なんか知ってんじゃないかなー、って。 |
吟子 | 真面目にがんばってるかと思えば、そんな手まで……。 |
慈 | 目的はママに認められることじゃなくて、 私が自分の人生を手に入れることだからね! |
慈 | 勝てばなんでもいいんだよ! |
慈 | 私は、私の夢を奪わせたりしなーい! |
姫芽 | さっすがめぐちゃんせんぱい~! めぐちゃんせんぱいしか勝たん~! 生きざまがスクールアイドル! |
吟子 | そうかなあ……? |
吟子 | まあいいや。 では、慈先輩。 とりあえず、目上の方との話し方を勉強していきましょうか。 |
吟子 | 私を祖母だと思って、話してください。 |
吟子 | ちなみに、梢先輩から『容赦せずに』とのお言葉をいただいておりますので、 厳しくやらせてもらいますから。 |
姫芽 | アタシも、厳しく判定しますからね! FPSで鍛えた観察眼が火を噴きますよ~! |
慈 | 承知いたしました。 どうぞよろしくお願い申し上げます。 |
吟子&姫芽 | !? |
吟子 | えっと……。 本日は良い天気でございますね? |
慈 | そうですね。 大変心地のいい青空が広がっておりました。 |
姫芽 | えっ……なんですぐできるんですか~!? |
慈 | 適切な言葉遣いは、 スクールアイドルにおきましては重要な武器でございますので。 |
慈 | 自ずと学習いたしましたことは言うまでもございません。 |
姫芽 | か、かっこいい~~~……♡ |
吟子 | え、すご……。 |
慈 | ま・ね。 |
吟子 | すごいところは素直にすごいんですね、慈先輩……。 |
慈 | その態度、スリーズブーケの先輩どもがうつってないか? いや、いいけどね? |
吟子 | あっ、すみません。 じゃ、じゃあ、次はマナーの方も見させてもらえれば、と。 |
慈 | よっしゃ、どんとこい! |
そして梢、花帆と一緒にお勉強会。 | |
全員制服。 | |
これに関しては、さすがに慈も気が進まない模様。 | |
慈 | ついにお勉強のお時間ですのね~……。 |
梢 | なに、その喋り方。 |
慈 | いえいえ、どうぞご心配なさらず……。 じゃなくて! なんでもない! |
梢 | ……あなたががんばっていることは、 さやかさんや吟子さんから、聞いているわ。 |
梢 | もし疲れているなら、後日に回してもいいのだけれど。 |
慈 | ううん、やる。 私の人生がかかってるんだもん。 |
慈 | めぐちゃんが不幸になったら、 全国5000万人のめぐ党さんだって、悲しんじゃうからね。 |
梢 | そうね。 がんばりましょう。 |
花帆 | あたしも、なんだかんだ慈センパイにお世話になったり、 一緒にやったシャッフルユニットだって、すっごく楽しかったので……。 |
花帆 | 慈センパイにも、花咲いてほしいです! |
慈 | 花帆ちゃん……! ううん、さすが私の花帆! |
花帆 | あ、“私の”ではないですけど。 |
梢 | それじゃあ、花帆。 |
花帆 | はい! なので、今回は常識力を図るテストということで、 いろんな企業で使ってる一般常識問題集を取り寄せてもらいました! |
花帆 | これが解ければ、社会人として必要な常識はもっている…… という風に、判断してもらえること間違いなしです! |
慈 | 企業の問題集って……え、めちゃくちゃ難しいんじゃ……!? |
梢 | そんなことはないのよ。 時事問題、社会情勢を除けば、 ほとんどは中学校までのカリキュラムで解ける問題だわ。 |
花帆 | あたしも高校受験だけはがんばったので、お手伝いできるかと思います! |
慈 | ぐっ…………。 |
慈 | 私はついに……花帆ちゃんにまで、勉強を、教わるのか……っ。 |
花帆 | それどういう意味ですか!? |
慈 | 私たち仲間じゃん! |
花帆 | 違いますー! あたし今はこっち側ですー! |
花帆 | でも慈センパイ、留年は回避できたんですもんね! いけます、いけます! |
慈 | そうだね。 課題いっぱい出したからね。 ひたすら教科書の書き取りをしたり、梢のノートを丸々写させてもらったり。 |
花帆 | ……あれ? 赤点を脱した、とかではなく? |
梢 | とにかく誠意を尽くすことで、卒業を許してもらったのよ。 |
花帆 | あっ……。 |
慈 | つまり、いよいよ私の本当の実力を見せるときが来た、ってわけだ。 |
梢 | ……そうね。 それじゃあ、始めましょう。 |
慈 | どんとこいだよー! |
梢 | 虎穴に入らずんば〇〇を得ず。 〇〇に入る正しい言葉を選びなさい。 |
慈 | 勝利! |
梢 | 江戸時代の前は、何時代? |
慈 | 石器時代! |
梢 | サイコロを3回振ったらすべて6が出た。 4回目に6が出る確率は? |
慈 | 出るか出ないか、二分の一でしょ! |
慈 | はぁ、はぁ……な、なかなかやるじゃん……。 |
梢 | どうすればいいのよ、こんなの……。 |
花帆 | 常識テスト、100点満点中、12点……。 逆に、この6問だけよくわかりましたね……。 |
慈 | ま・ね。 |
梢 | 私はどうすればあなたを今の8倍賢くすることができるのかしら……。 |
慈 | おいおいそんなに賢くなったら、めぐちゃん神になっちゃうよ? |
梢 | ……はぁ。 |
『あ、これ本気でやばいんだな』というテンションになり、慈は穏やかに微笑む。もう笑うしかない。 | |
慈 | ためいきやめて。 きずつく。 |
梢 | 今から、お母様への謝罪文の書き方を勉強しましょうか……? |
慈 | もうちょっとだけがんばるから……! |
花帆 | うーん。 ……あ。 |
花帆 | もしかして……。 あの、慈センパイ。 この漢字なんて読むか、わかります? |
慈 | ん? “群青”でしょ。 さやかちゃんの。 |
花帆 | あ、じゃあじゃあ、えと……! 淡路島があるのはどこの県ですか? |
慈 | 兵庫県。 みんなでライブ行ったとき、パンフかなんか見た気がする。 |
花帆 | これですよ! |
慈 | え? |
花帆 | あたしも、勉強いやだなーって思ったとき、 ムリヤリこじつけたりして覚えることがあるから、わかるんです! |
花帆 | 慈センパイは、スクールアイドルに関連することなら、覚えてるんです! だったら、なんでもかんでもスクールアイドルに関係させちゃえば! |
梢 | ええ…………? |
慈 | そ、そうだったのか……! ナイスアイディアだよ! 花帆ちゃん! |
花帆 | はい! もうこれしかありません! |
慈 | やっぱリ私を救ってくれるのは、スクールアイドルってことかー! |
梢 | あなたは結局、蓮ノ空に来た3年間で、 スクールアイドルしかしてこなかったってことなのね……。 |
慈 | それでいいじゃん。 スクールアイドルには、 生きる上で大切なことのすべてが詰まってるんだから! |
梢 | そうかしら……?? |
慈 | よっしゃ、梢! どんどんいこ! |
梢 | まったく…………ああもう、わかったわ! |
梢 | たとえテストの点を取るための勉強だとしても、 あなたの未来がかかっているんですものね! |
梢 | あなたのために、頭をひねってあげるわよ! |