第9話『みらくる・ざ・ゆにばーす!』
PART 2
ばん!と慈がホワイトボードを叩く。最初から慈アップ➝全体はテンポが悪くなるなら見せなくても | |
慈 | まずいことになったよ!! |
吟子 | えっと……すみません、どういうことですか? |
慈 | ……忘れてたの……。 |
小鈴 | わすれてた? |
梢 | なにがなんだかわからないわ、慈。 最初から説明してちょうだい。 |
慈 | ……あのね。 |
慈 | 私、もともとママに言われて、蓮ノ空に入れられたんだけど……。 そのときに、ひとつ約束させられたの。 |
慈 | それは、蓮ノ空卒業までにしっかり勉強して、 “立派な常識人”になること。 |
さやか | 立派な常識人……。 梢先輩のような方、でしょうか。 |
花帆 | あはは。 さやかちゃん、それはムリだよ。 |
慈 | (ギロッ) |
花帆 | ひえっ。 |
スマホを開く慈。 | |
慈 | それで昨日、こんなメールが来て。 |
慈 | 『慈ちゃん、もうすぐ卒業だね。 3年間、よくがんばりました。 冬休み帰ってきたら、お誕生日会を開きましょうね。 ママ楽しみ♡ |
慈 | P.S,約束覚えてるよね? ママ、本当に楽しみ♡』 |
小鈴 | なんだか、かわいい感じのメールですね! |
さやか | でも文面に、妙な圧があるような……? |
慈は、これは自分のミスだ、と反省しつつ、うなだれている。 | |
慈 | 私、約束のこと、3年間ずっと忘れてたんだ……。 毎日が、あまりにも楽しくて……。 |
吟子 | とはいえ、慈先輩も長期休みには、実家に帰ってますよね? 親と顔を合わせる機会は、あったのでは……? |
ぼそっとつぶやく慈。 | |
慈 | ……ごまかしてた。 |
吟子 | え? |
慈 | そのたびに、ごまかしてた。 |
慈 | 藤島家の人間はね、ごまかすのが得意なんだよ。 |
瑠璃乃 | ドヤ顔で言うことじゃないよ! |
慈 | もうおしまいだよ! 私のミライはお先真っ暗! 予想外すぎる! |
綴理 | 平気だよ、めぐ。 めぐは立派な常識人。 赤信号だって止まれるし、機械を使うのも得意。 ボクが保証する。 |
傷ついた心に、綴理の優しさが染み渡る。綴理の膝に泣きつく慈(妹)。よしよしする綴理(姉)。 | |
慈 | うえ~ん! つづたん~! 私もう夕霧 慈になる~! |
小鈴 | あ、あの慈大先輩が、こんなになっちゃうなんて……! |
幼馴染なら知っているだろうと、瑠璃乃に尋ねる姫芽。 | |
姫芽 | え、えっと……。 めぐちゃんせんぱいママって、そんなに怖い人なんですか~? |
瑠璃乃 | ん~~……。 基本的には優しい人だけど、 でも、約束を破ったりするとメッチャ怖いかも……。 |
瑠璃乃 | 昔、めぐちゃんが、めぐママの宝石のネックレスを勝手に持ち出して、 チェーン壊しちゃったときがあったんだけど……。 |
瑠璃乃 | そのとき『私じゃないしー』って嘘ついてごまかしたのが、後からバレて…… 壊したことよりもむしろそっちの方でスーパー雷雲が発生……。 |
さやか | バレてるじゃないですか! |
今も綴理にすがりついたまま、半眼でうめく慈。 | |
慈 | あのときはまだ子どもだったの! |
瑠璃乃 | 子どもめぐちゃん、お説教をなんと四分の一日も食らってた。 めぐママは、そんな人デス。 |
小鈴 | ろ、六時間も……! |
慈 | ……大人になった今、今回はもうそれどころじゃ済まないよ。 |
慈 | 今度は、蓮ノ空卒業後、家に閉じ込められて…… 永遠に勉強させられるんだよ……。 |
慈 | 窓もない、Wi-Fiも電波もない、暗くて冷たい地下室で……。 |
花帆 | 慈センパイのおうち、地下室があるんですか? |
瑠璃乃 | ないよ。 |
慈 | 帰ったら作られてるんだよ! あのママなら、それぐらいのことはやるよ! |
瑠璃乃 | めぐちゃんのママ、普通の会社員さんじゃん! |
慈 | 計画性がえぐいんだよ! ジュエリーデザイナーだもん! |
瑠璃乃 | 関係あるかなあ……!? |
初めて慈ママの職業を聞いたさやかが、目を輝かせる。 | |
さやか | わ、素敵なお仕事ですね。 |
姫芽 | あ、もしかしてめぐちゃんせんぱいが、 アクセサリー作りが趣味なのって~? |
慈 | まあ……ママの影響も、ちょっとはあるかもだけど……。 |
吟子 | わかります。 身近に物作りをお仕事にしてる方がいると、影響されますよね。 |
小鈴 | 慈大先輩、絵もお上手ですもんね! |
慈 | いいんだよ! そんな和やかな話は、今はどうでも! |
慈 | いい!? みんなめぐちゃんのこと、大好きでしょ!? 愛してるでしょ!? |
慈の問いかけに、真っ先に手を挙げる姫芽。 | |
姫芽 | 大好きです! 愛してます! |
慈 | だったら! めぐちゃんが幸せになれる方法をちゃんと考えて! めぐちゃんの幸せだけが、みんなの幸せでしょ!? |
姫芽 | その通りです!! わかりました!! |
梢 | 過言だわ。 |
綴理 | はい。 思いついた。 |
慈 | さすがつづたん! 早い! 天才! はいどうぞ! |
綴理 | こずがめぐのフリをすればいい。 変装とかして。 |
慈 | それだ! 天才! |
梢 | できるわけないでしょう! 実の親相手なのよ!? |
吟子 | これは……慈先輩も、ずいぶんやられとるね……。 |
さやか | というか、昔ごまかしてすごく怒られたんだったら、 またごまかそうとするのは悪手なのでは……。 |
慈 | さやかちゃんは正論しか言わない! 綴理からなにを教わったんだよぉ! |
さやか | スクールアイドルのすべてですけど!? |
慈 | つづたんは、さやかちゃんと私、どっちの味方なの!? |
綴理 | ? ボクはみんなの味方だよ? |
慈 | 私だけの味方になって! ほら! 今! |
綴理 | めぐだけの………………ごめん……。 |
さやか | 綴理先輩を困らせないでください! |
慈 | いちばん困ってるの私なんだけど! |
瑠璃乃 | ん~~……。 おばさんは、“立派な常識人”になるように言ってきたんだよね。 |
瑠璃乃 | じゃあ、それって具体的に、なにができる人なのかな? |
小鈴 | この中だとイメージに近いのは、 梢大先輩か、さやか先輩って感じですよね。 |
瑠璃乃 | さやかちゃんはたまにそのカテゴリーをはみ出すような気もするけど……。 立派すぎる鉄人とか、歌って踊れる鋼の調理人とかのほうが……。 |
さやか | わたし、そんなんですか!? |
瑠璃乃 | よっし。 ちょっと要素を書き出してみよ! |
瑠璃乃 | だいたいこんなもんかなーと! |
姫芽 | 生活力、言葉遣いなどのマナー、一般常識力……。 |
梢 | 一般常識力っていうのは……まあ、 ざっくり言えば学力のことでしょうから、今は置いといておくとして。 |
さやか | 生活力は、ひとり暮らしに関するあれやこれやですね。 |
吟子 | 言葉遣いとかマナーも、ちゃんとした人はできてる印象あるかな。 |
姫芽 | さ、めぐちゃんせんぱい! お好きなコースを選んでください~! めぐママさん相手に、しっかりと試合前の対策をしましょう~! |
綴理 | めぐ? |
慈 | ……ぜんぶ。 |
花帆 | ぜんぶ!? |
慈 | 決まってるでしょ! どれか一個だけなんて、ママに通用するわけないもん! ぜんぶだよ、ぜんぶ! ぜーんぶやって、私は立派な常識人になるの! |
さやか | ムリですよ、慈先輩! |
瑠璃乃 | そーだよ! べんきょーもしなきゃなんだよ!? |
花帆 | 死んじゃいますよ!? |
慈 | うるさいうるさいうるさい! 二年坊主ども! ぜんぶやるったらぜんぶやるのー! |
梢 | ……本気なのね? 慈。 |
慈 | 本気だよ。 ようやくここまできたんだから。 私の夢、ママに奪われてたまるか、だよ! |
梢 | ……わかりました。 あなたがそこまで言うなら、私も覚悟を決めるわ。 |
梢 | 勉強は私が、面倒を見ます。 仕方ないわね。 ……友達の、ピンチだもの。 |
慈 | …………こずたん。 |
梢 | それはやめて。 |
慈 | みんなも……冬休みに突入するまで、力を貸して! どうかお願いします! |
綴理 | ボクからも、お願い。 |
綴理 | ボクはわかったんだ。 未来は明るいから、踏み出していけるんだ、って。 |
綴理 | さちも、教えてくれた。 さやも、すずも……スクールアイドルクラブのみんなが教えてくれた。 |
綴理 | 未来は明るくなくちゃ、だめなんだ。 |
綴理 | もしめぐの行く先が暗くて寒いところなら……そのときは、めぐ。 夕霧 慈になってもいいよ。 |
慈 | 綴理お姉たん! |
さやか | そこまで言われては、仕方ないですね……。 慈先輩には、わたしたちもお世話になりましたし……。 |
花帆 | おいしいカフェいっぱい教えてもらったり……。 |
吟子 | 休みの日には、スクールアイドルとしてのアピール講習とかも……。 |
小鈴 | 配信のコツも、いろいろアドバイスくれました! |
慈 | たくさん恩を売っておいてよかったー! |
梢 | そういうことは言わない方がいいと思うのだけれど。 |
姫芽 | みなさん、やりましょう~! めぐちゃんせんぱいのために~! |
花帆&さやか&梢&綴理&慈&瑠璃乃&吟子&小鈴&姫芽 | おー! |