第6話『対よろ!!!』
PART 2
時間経過の演出。昼から夕方へ。 | |
慈がひとりで歩いている。手には梢から渡されたエントリーシート。 | |
慈 | わざわざそれぞれのユニットに、って……ふぅ、梢は真面目なんだから~。 |
と、そこで姫芽の後ろ姿を見つける慈。 | |
慈 | お! |
慈 | 姫芽ちゃーん! |
くるっと振り返る姫芽は、いつもより元気がない。これまでの流れを引きずっている。 | |
姫芽 | あ、めぐちゃんせんぱ~い。 |
慈 | やっほやっほ。 ちょうどよかった。 姫芽ちゃんに渡したいものがあってね。 |
姫芽 | 渡したいもの、ですか~? |
慈、持っていたエントリーシートを差し出す。 | |
受け取った姫芽が驚いたように目を瞠る。 | |
姫芽 | ! これ、って……! |
慈 | そ。 ラブライブ!のエントリーシート。 |
慈 | 梢がね、一年生にはちゃんと意思確認がしたいって言っててさ。 綴理も無理やり出るものではないからって頷いて。 |
慈 | いちおう、ユニットごとにひとりひとり聞こうってなって、 私が姫芽ちゃん担当。 |
姫芽 | ラブライブ!……アタシが。 今の、アタシが……。 |
慈 | ま、ほら。 まずは10月の地区予選に向けて頑張ろうよ! 色々サポートならしてあげるからさ! |
姫芽 | あ、の。 これ、いつまでに提出を? |
慈 | ん? 月末くらいじゃなかったかな。 |
ぎゅっとエントリーシートを握る姫芽に、慈は首を傾げる。 | |
姫芽 | 月末……! |
慈 | 姫芽ちゃん? |
姫芽 | ……めぐちゃんせんぱい。 |
姫芽が、勢いよく頭を下げる。 | |
姫芽 | 恥を忍んで言います。 助けてください!! |
慈 | へ? |
慈、瑠璃乃、姫芽が揃ったみらぱ!の午後練習時間。 | |
瑠璃乃はまだ話を聞いておらず、首を傾げる。 | |
瑠璃乃 | 助けて、って? |
姫芽 | はい……じつは自分でも分かってるんです、不調の原因。 |
慈 | え、ほんと? なんで言わなかったの? |
瑠璃乃 | 言いづらいことだった? |
そう問うふたりに、姫芽は俯く。どちらかを選ぶしかないのでは、あまり言いたくないことだったから。 | |
姫芽 | ……アタシ、ゲームもスクールアイドルも、大好きなんです。 |
瑠璃乃 | うんうん。 |
瑠璃乃 | ……ん? |
慈 | え、以上!? |
姫芽 | それで最近、ゲームをやっててもスクールアイドルのこと考えちゃったり、 その逆があったりで集中できなくて。 |
瑠璃乃はゲームの時の姫芽を思い出し、納得する。 | |
瑠璃乃 | あー……あれそういうことかー……。 |
いっぽう、自分だけ知らないことが気になり早く早くとせかす慈。 | |
慈 | なになに? なになになになに? |
姫芽 | この前あったのは……。 |
みらぱの3人のライブ中。笑顔で手を振る慈と瑠璃乃の間に立った姫芽が、ぼうっと観客席の右側を見る。 | |
姫芽 | あ、右のエリア空いてる。 今なら制圧できる。 |
慈 | いや客席制圧しちゃダメだよ!? |
瑠璃乃 | 客席をエリアって言うな! |
姫芽 | あとは……。 |
ゲーム中の姫芽が、ぼーっとしながらカチカチマウスを叩いて。 | |
かちかち、かちかち。 | |
姫芽 | あ、敵の数チェックしないと。 1、2、3……てれってってんてん! なんちゃって。 |
姫芽 | 360度、私が好きな私で、あ! ぎゃーー!! |
瑠璃乃 | そりゃゲームキャラが笑顔のオーディションしてたらやられちゃうよ……。 |
姫芽 | はいぃ……。 |
姫芽 | ほかにも、 鉄棒にぶら下がってる時にパフォーマンスしたくなったり、色々……。 |
慈 | 日常生活にまで支障が出てるじゃん! |
慈にごもっともなことを言われて、小さくなる姫芽。 | |
姫芽 | ゲームに関しては、いまに始まったことじゃないんです~。 |
姫芽 | 全部がゲームに関連して見えてて。 それはそれで楽しかったので、全然良いんですけど。 |
姫芽 | でも、今はスクールアイドルも同じくらい……。 |
瑠璃乃 | だからゲーム中にスクールアイドルが、スクールアイドル活動でもゲームが、 両方悪い方向に頭から離れないってことなんだね? |
その問いに姫芽は頷く。 | |
姫芽 | それで、おふたりには言いづらくて……。 今、悩んでて……アタシはどっちかを捨てるべきなのでは、ともーー。 |
思いつめた様子の姫芽が最後まで言うより先に、瑠璃乃のツッコミが入る。 | |
瑠璃乃 | ちょちょちょちょーい!! |
瑠璃乃の声量に驚く姫芽。 | |
姫芽に、瑠璃乃は畳みかける。 | |
瑠璃乃 | そんなの絶対ダメ! どっちか選ばなきゃいけないなんて、そんなのみらぱ!じゃないかんね! |
姫芽 | で、でも! アタシはこのままじゃっ……! |
慈 | 姫芽ちゃん。 |
姫芽 | はいぃ……。 |
慈 | 私は嬉しいよ。 ゲームと同じくらい、 スクールアイドルが大好きなものになったってことだよね。 |
優しい瑠璃乃の声に慈も賛同するように頷いている。 | |
瑠璃乃 | それにわざわざ選ばなくても、 ラブライブ!まではまだ時間あるし……じっくり直していこうよ。 |
ぶんぶんと首を振り、エントリーシートを取り出す姫芽。 | |
姫芽 | それじゃっ……それじゃダメなんです! |
姫芽 | アタシ……アタシ、去年のラブライブ!、見てました! |
慈&瑠璃乃 | ! |
姫芽 | 悔しかったです、アタシも。 めぐちゃんとるりちゃん、最強だった。 |
姫芽 | なのに負けて……今年、アタシが入った。 |
姫芽 | なら、絶対に負けたくないです! |
姫芽 | アタシが入ったことで、 めぐちゃんとるりちゃんになんの貢献もできないなんて、絶対に嫌なんです! |
瑠璃乃 | そ、っか。 |
慈 | ん、そうだね。 姫芽ちゃんの想いは受け取ったよ。 |
瑠璃乃 | そうと決まったらめぐちゃん! なにかアイディアある? |
慈 | んー、そうだなー。 |
慈 | お互いにまで支障をきたすほど好き…… でもそれが両方の足を引っ張っちゃってるから問題……。 |
姫芽 | はいぃ……! もうほんとに、そこさえどうにか出来ればと……! しっかり集中したいんです~……! |
そう気付いて、慈は姫芽を振り返る。 | |
慈 | いや、待てよ……? ふたつだから、問題なのかも。 |
慈 | よっしゃ! 姫芽ちゃん! |
姫芽 | は、はい! |
慈 | だったらいっそ、もーっと増やしちゃおう! それこそ、10個とか! |
姫芽 | え~!? 逆に増やすんですか!? |
慈 | そうだよ、姫芽ちゃん。 |
姫芽 | で、でもっ……2個でも大変なのに、本当にそれで大丈夫でしょうか……。 |
慈 | スクールアイドルとゲームほどハマるのはムリだろうけど、 他の好きなことがあったら、案外落ち着くかも! |
慈 | ほら、好きを増やせば、一個一個の好きを抑えられる……みたいな! |
姫芽 | む、むむむ……。 でもそれは……。 |
瑠璃乃、姫芽に向かって | |
瑠璃乃 | うん、確かにそれってありかも! |
瑠璃乃 | たとえばさやかちゃんは、 フィギュアとスクールアイドルだけじゃないよね。 |
瑠璃乃 | お弁当作ったり、 最近だと小鈴ちゃんのチャレンジやったり、綴理先輩のお世話したり……。 |
瑠璃乃 | たぶんあれってたくさんあるから切り替えられてるんじゃないかな。 |
姫芽 | な、なるほど……え? さやかせんぱいだけ、1日50時間くらいあるんじゃ……。 |
慈 | それはよく思うけど、あの子もちゃんと24時間だから。 たぶん。 |
慈 | ま、とにかく。 どう? やってみない? |
姫芽、悩みつつ苦しみつつひとりごと。 | |
姫芽 | 好きを、増やす……。 上手くいかなきゃ、もっと集中できなくなる、かも……? |
姫芽 | でも、でも。 今のままじゃ、どっちにしてもアタシは……! |
姫芽、力強くうなずく。 | |
姫芽 | やります。 やらせてください!! |
ぐっと拳を握って、ふたりに向き直る。 | |
姫芽 | アタシ、ラブライブ!に出たい…… めぐちゃんせんぱいとるりちゃんせんぱいと……ふたりと一緒に! |
姫芽 | 今のままじゃ、とてもそんなこと言える状況じゃない……! |
姫芽 | アタシ、スランプどうにかするためだったらなんでもやります!! 対戦、よろしくお願いします!! |
瑠璃乃 | よ~し、それじゃあひめっちの、好きなもの増やす旅の始まりだー! |