第4話『昔もいまも、同じ空の下』
PART 7
花帆 | ひ、久しぶりに、ハードな1日でしたね……。 |
梢 | まだきょうは始まったばかりよ、花帆。 |
花帆 | おかしいなあ……? あたし、クラスの友達には体力あるねって言ってもらえたんだけどなあ……? |
吟子 | がんばってください。 目指せ、追い付け追い越せさやか先輩、ですね。 |
花帆 | そこいちばん厳しいところじゃない!? |
花帆 | さやかちゃんって綴理先輩とか慈先輩よりスタミナあるんだよ!? サイボーグだよ! |
吟子祖母 | ああ、ちょっといいかしら。 |
吟子 | どしたん? |
吟子祖母 | 話があるんやけどぉ。 |
吟子 | それで、話って? |
吟子祖母 | 最初にぃ、聞いておきたいことがあるげん。 |
吟子祖母 | この『伝統の衣装』は、あなたたちにとって、どんなもんなん? |
花帆 | なんだかすごい衣装、です! |
吟子祖母 | ふふ。 吟子は? |
吟子 | ……先人の想いが込められた、唯一無二の大切な衣装、やと思う。 それがどうしたん? |
吟子祖母 | では、梢さんは? |
梢 | 私にとっては。 ラブライブ!を優勝するための衣装です。 |
吟子祖母 | ……ほーなんや、なるほどね。 |
吟子 | これって、なにかのテスト……とかやないよね? |
吟子祖母 | ええ。 心配せんでも、私の答えは変わらんよ。 |
吟子祖母 | この衣装はぁ、もう直せんげん。 |
吟子 | ……え。 |
吟子祖母 | 生地そのものが痛んどるげん。 |
吟子祖母 | これやとぉ、衣装の形を元通りにしたところで、着て踊るのは無理やわ。 せいぜい、博物館に寄付するくらいや。 |
花帆 | そんな! |
梢 | それは……残念です。 |
吟子 | ……だめ、なんや。 おばあちゃんでも……? |
吟子祖母 | ええ。 |
吟子祖母 | 物には魂が宿る。 そう教えてきとったがいね、吟子。 ほやけどぉ、どんなに大切にしてもぉ、全てを残すことはできんげん。 |
吟子祖母 | 時にはぁ、滅んでゆくその儚さをしのび、心を痛めることだってある。 |
吟子 | そんな……。 ほんなこと言わんといてよ。 |
吟子 | 私は、この町の……みんなが大切にしてる伝統を、 ぜんぶ守りたいって思っとるんに……! |
吟子 | 何でおばあちゃん、ほんな諦めたみたいなことを……。 |
吟子祖母 | 聞かんか、吟子。 |
吟子 | っ。 |
吟子祖母 | あなたがぁんね、この衣装を朽ち果てるままにしたくないというのなら、 もうひとつ方法がある。 |
吟子祖母 | それはぁんね、形を変えて残すことや。 |
吟子 | 形を変えて……? |
花帆 | ……それって『逆さまの歌』みたいに? |
吟子祖母 | 時代が移ろうなら、 残されたものもそのあり方を変えてゆかんなん。 |
吟子祖母 | 時の流れに逆らうんじゃなくて、 自らの手で未来へと針を進めるげん。 |
吟子 | 自らの手、って……? |
吟子祖母 | 吟子、あなたがやるの。 あなたの手で、衣装を仕立て直さんか。 |
吟子 | ……あ。 |
花帆 | 吟子ちゃん……? |
吟子 | なんで……だって、おばあちゃんが……。 |
吟子祖母 | 手伝いがほしいんやったら、力を貸すしぃ。 ほやけどぉんね、私にできることはそこまで。 |
吟子 | なんで!? なんで急にそんなこと言うん! わからんよ! 直してくれるって思っとったんに! |
吟子祖母 | ……。 私はぁんね、この衣装には手を加えることはできん。 |
吟子祖母 | これはやっぱり、 今を生きるあなたたちスクールアイドルがやらんなんことや。 |
吟子 | やからって、私なんかが……。 |
梢 | ……吟子さん。 |
吟子 | ……少し、考えさせて。 |
吟子祖母 | はぁ……ごめんなさいね。 せっかく来ていただいたのに、力になれんくってぇ。 |
梢 | ……いえ。 でも、どうして……? |
吟子祖母 | その答えは。 今はまだ。 |
吟子祖母 | ……ひとつ言えるとすればぁ、この衣装がそういうものやから、かしらね。 |
梢 | わかりました。 |
梢 | ただ、この衣装をどうするべきなのかは、 私も、他のみんなと話してみないと。 |
梢 | ……まずは、吟子さんと、かしらね。 |
吟子祖母 | ふぅ……あとはあの子が、踏み出せるかどうか。 |