第1話『ちぇすとー!』

PART 9

綴理とさやかのふたりだけ。
練習の休憩中に、壁に寄りかかって話をするふたり。
さやか
そう言えば、知っていますか? 綴理先輩。
綴理
さやか
花帆さんが、スリーズブーケの後輩を見つけたと言って、
勧誘を頑張っているんです。
綴理
おー。
さやか
みらくらぱーく!も、勧誘には精力的だということですから、
今年は賑やかになるかもしれませんね。
綴理
スクールアイドルクラブは、賑やかな方がいい。
綴理
……そういえば、あの子はどうしてるんだろうね。
探しても全然見つからないんだけど。
さやか
あの子、というと……ああ。
と、さやかはそこでテーブルの方へ目をやる。お手製の缶バッジが置いてあるが、今は言及しない。
綴理
そう、ぱちぱち。
さやか
たぶん拍手ではなかったと思います。
綴理
そだっけ。 2文字ならすぐ覚えられるんだけどな……。
でも、ボクはあの子は明るい黄色だったと思うんだ。
さやか
……そうかもしれませんね。
もしも彼女がスクールアイドルを、チャレンジだと思ってくれたなら……
さやかがそっと缶バッジを手に取り、綴理が首を傾げる。
さやか
そういう未来も、いいかもしれません。
そうしたらきっとここは、彼女の舞台になれると思いますから。
綴理
なにそれ。
さやか
ああ、これですか。 これはーー。
そこでガララっと扉が開く。
ふたりがそちらを見ると、小鈴が息も絶え絶えに顔を上げる。
小鈴
やっと……やっと見つけた……!
さやか
あなたは。
綴理
お、来てくれた。
小鈴
村野 さやか先輩!! 夕霧 綴理先輩!!
入ってきて、勢いよく頭を下げる。
小鈴
徒町を……徒町 小鈴を、スクールアイドルクラブに入れてください!!
小鈴
徒町は今まで、居るだけでお荷物みたいな子でした!
何を頑張っても全然だめで、居ない方がマシみたいな感じで!
小鈴
でも……ここでなら……先輩たちの居る場所なら……
徒町も、何者かになれる気がしたんです!!
小鈴
何かを、何かを掴める気がしたんです!
お願いします!
さやかと綴理は顔を見合わせて、ふっと笑う。
さやか&綴理
……。
綴理
きみを迎えるのは、DOLLCHESTRA。
さやか
ここは、あなたの居場所になるはずです。
小鈴
あ……。
頷き、小鈴は目元を拭って、宣言する。
小鈴
はい!!
小鈴
徒町は、ここでーー何かを成し遂げたいです!!
綴理とさやかが、小鈴に頷く。
綴理
……それにしても、どこにも居なかったから森に住んでるのかと思った。
小鈴
あ、寮の外で野営するのは禁止されてました。
去年もひとりでキャンプしようとした人がいるみたいで。
さやか
その充電切れソロキャンパー知ってる気がする……。
さやか
……徒町 小鈴さん。
小鈴
はい!
さやか
頑張ったあなたに、これをあげようと思いまして。
小鈴に缶バッジを手渡すさやか。小鈴は缶バッジの文字を読む。
小鈴
『湖横断』……あの、これは。
そっと自身の胸に両手を当てて、さやかは微笑む。
さやか
あなた以外にとって、湖の横断はどうでもいい挑戦だと言ってましたよね。
確かに、誰に表彰されることでもないかもしれません。
さやか
でも確かに成し遂げたこと。
少なくともわたしは、ひとつ何かを成し遂げた、あなたの頑張りを認めたい。
感銘を受けたように目を見開く小鈴。
小鈴
……!
はにかむさやか。小鈴はごそごそと自分の通学鞄に缶バッジを付ける。
さやか
……なんて、少し押し付けでしょうか。
小鈴はごそごそと自分の通学鞄に缶バッジを付ける。
小鈴
……おふたりに、聴いてほしいことがあります!
鞄をばっと見せて、宣言する。
小鈴
徒町は欲張りだったみたいで、
湖横断だけで胸を張って実家に帰るのは止めたんです!
小鈴
これからも、もっともっとみっしょんを増やしたいと思ってて……なので!
小鈴
このかばんいっぱいに、徒町の3年間の証を刻みます!
さやか先輩から貰ったこれが、最初の最初です!
さやか
……!
綴理
良かったね、めちゃくちゃ喜んでもらえて。
小鈴
はい、めちゃくちゃ喜びました!
さやか
……ふふっ。
さやか
これからの小鈴さんに、期待させてくださいね。
小鈴
はい!
ちぇすとー!!