第1話『未来への歌』
PART 2
花帆は廊下を歩いて、部室に向かっている。 | |
花帆 | よーし、だったら新入生が来るかもしれないし。 |
花帆 | きょうはあたしが部室にいちばん乗り! 部室のお掃除でもしちゃおっかなー。 |
ガラガラと部室を開く。 | |
するとギョッとする花帆。 | |
花帆 | ……へ? |
そこには、祈るように胸の前で手を組んで、その姿勢のまま地べたに寝転んでいる吟子の姿。 | |
吟子は目を閉じて、全身で芸楽部の伝統を感じている。 | |
感極まったようにつぶやく吟子。 | |
吟子 | ……はぁ……。 ここが、芸楽部……。 |
一瞬時が止まる。 | |
おずおずと声をかける花帆。 | |
花帆 | ……。 |
花帆 | あの。 |
吟子 | ……耳を澄ませば、部員たちの声が聞こえてくるよう……。 |
花帆 | もしもーし。 |
ぱっちりと目を開く吟子。 | |
花帆と目が合う。 | |
吟子 | やけにハッキリと……。 はえ? |
花帆 | なにしてるの? |
吟子 | っーー。 |
吟子 | っ~~、う、うわあああああああああああ! |
テーブルを挟んで、向かい合わせに座る。 | |
吟子は顔を真っ赤にしてうつむいていて、花帆が冷や汗を流す。 | |
花帆 | えーと、さっきのは……。 |
吟子 | ……蓮ノ空の、伝統を、感じたくて……。 |
花帆 | 伝統……? |
拳を固めて、羞恥にぷるぷると震える吟子。 | |
気まずい。 | |
吟子 | っ~~…………。 |
花帆 | あ、あの、あたし。 そうだ! 紅茶いれてあげるね! |
立ち上がる花帆。ドタバタと紅茶を用意しようとするも、なにもかも不得手。 | |
花帆 | あっ、ポットにお水入ってない! えーと、えーと、茶葉はどれがいいんだっけ……。 |
花帆 | 確か、ティーポットにこれぐらいの量を入れて、いたような……! いや、でもちょっとだけお湯を注いで、蒸らす……!? |
吟子 | ……。 |
花帆 | ご、ごめん! ティーパックでもいいかな!? |
吟子 | あの、お構いなく……。 |
四苦八苦しながら、なんとか吟子にティーカップの紅茶を出す。 | |
そうして、席に座り直す花帆。 | |
花帆 | あはは……。 えーと、一年生の子、だよね? もしかして、入部希望……だったりする? |
紅茶を口に運んでいた吟子は、ぎこちなくうなずく。 | |
すぐ視線を揺らし、目をそらす吟子。ガチガチに緊張しているのが見て取れる。 | |
吟子 | ……はい。 ……不法侵入者が、許されるのなら。 |
花帆は一年生を和ませようと、笑顔を作る。 | |
花帆 | だ、大丈夫だよ! 鍵かかってなかったんだし、つい入っちゃうときってあるよね! |
花帆 | お名前は? |
吟子 | あっ、すみません。 百生 吟子、です。 吟ずるに子と書いて、吟子です。 |
花帆 | 吟子ちゃん! そっか、だから声きれいなんだね! |
吟子 | いえ、そんな……。 |
花帆 | あたしは二年生の日野下 花帆だよ。 よろしくね! |
吟子、小さくうなずいた後、上目遣いで花帆を見つめる。 | |
吟子 | ……はい。 |
敬語が苦手そうに言い直す。 | |
吟子 | ……あの、入部テストとか、あるの? あっ……ある、んですか? |
花帆 | えー、そんなのないよー。 あ、だったら、志望動機とか聞いてみたいな! |
吟子 | 志望動機……。 |
花帆 | うん、あなたはどうしてスクールアイドルクラブを志望したんですか? ってやつ! なんでもいいよ! |
和ませようと思って質問した花帆だが、そこで吟子が雰囲気を変える。 | |
吟子は懐から手帳を取り出す。 | |
その表紙に書かれているタイトルを読み上げる花帆。 | |
花帆 | ……手帳? 『目指せ、No.1スクールアイドル』……? |
ぱらぱらと手帳をめくった吟子。挟んでいた紙が落ちて、テーブルに散らばる。 | |
吟子 | あーー。 |
慌てる吟子。 | |
吟子 | す、すみません、挟んでいた紙が散らばって、すみません。 |
そのうちの一枚を拾い上げて、まじまじと見つめる花帆。 | |
花帆 | これって……もしかして、衣装デザイン? |
テーブルにたくさん広がったその紙を見回して、驚く。 | |
花帆 | こんなに、いっぱい!? |
見せるつもりじゃないものまで見せることになってしまって、恥ずかしそうに目を伏せる吟子。緊張を鎮めるために、深呼吸。 | |
吟子 | その……力作を集めてきました。 すべてが会心の出来、というわけでは……ありませんが……。 |
背筋を伸ばして、毅然と花帆を見つめる。 | |
吟子 | ……っ、私は、この蓮ノ空女学院に入学することが、夢でした。 この学校で、立派なスクールアイドルになりたいです。 |
花帆 | ーー! |
吟子 | 若輩者ですがーー。 目標は、ラブライブ!優勝です。 この学校なら、それが叶えられると信じています。 |
吟子の言葉に感銘を受ける花帆。 | |
花帆 | ね…………。 |
吟子 | ……ね? |
花帆 | 熱意っ! |
吟子 | え? |
花帆は立ち上がって、吟子の手を握る。 | |
花帆 | ね! 吟子ちゃん! あたしたちと一緒にーー! |
花帆 | ーースリーズブーケ、やろうよ! |
ぽかんとした吟子の顔。 | |
吟子 | …………え? |