第10話『ルリめぐ・ファンファーレ』

PART 5

一年生組は、三人が同室のイメージ。
ベッドに倒れ込んでいる花帆。疲労困憊。
花帆
が、がんばりすぎた…………。
花帆
瑠璃乃ちゃんと、さやかちゃんと……。
ふたりに付き合って、あんなに走るんじゃなかった……。
花帆
朝から遊んで、練習もたっぷりして……
もうあたしのHPはゼロです……。
花帆
海はこわい……。 遊びすぎちゃいすぎる……。
さやかがノートをぺらぺらとめくりながら、瑠璃乃に語る。➝ここスマホでも行けそう
さやか
瑠璃乃さん、実はわたしも微力ながらお手伝いしようと思って、
詳しく調べてみたんです。
さやか
怪我が治っているのに、
メンタルの問題で以前のように演技ができなくなることは、
さやか
フィギュアの世界でも往々にして起こることのようです。
瑠璃乃
そうなんだ。
えっ、それって治る……んだよね?
さやか
ええ、もちろん治ります。
ですが、その方法はどうしても人それぞれのようで……。
さやかの言葉を真剣に聞く瑠璃乃。
瑠璃乃
ふんふん、ふんふん。
さやか
ひとつ言えるのは、瑠璃乃さんがやろうとしている
『ライブでやる気を取り戻させる』
さやか
という方法も、ちゃんと効果があるみたいですよ。
瑠璃乃
えー、そうなんだ!
ありがと! さやかちゃん!
さやか
ただ……。
瑠璃乃
……ただ?
さやか
いえ、その。
さやか
楽しいライブで精神的なショックを上書きできるというのなら、
その逆もまた然りというか……。
さやか
もし、瑠璃乃さんのライブが失敗に終わってしまったら、
さやか
そのことで余計にショックを受けるということも、あり得ます。
瑠璃乃
……。
さやか
おそらく、梢先輩がステージから落ちたときも、
慈先輩は似た気持ちを思い出したはずです。
さやか
あのときは大事には至らなかったようですが、
瑠璃乃さんは慈先輩にとっても、きっとトクベツな人……でしょうから。
不安そうな気持ちを押し隠して、瑠璃乃は微笑む。
瑠璃乃
ルリが、失敗したら……。
瑠璃乃
んっ! どんとうぉーりーだよ、さやかちゃん!
ルリは、失敗なんかしないよ。
まだ不安そうなさやか。瑠璃乃は膝を抱いて思い出話を語る。
さやか
そう、ですか。
瑠璃乃
めぐちゃんのためだもん!
瑠璃乃
ね。 めぐちゃんって見ての通り美人だし、
スタイルもいいし、きれーな声してて、笑顔も最高っしょ?
急な話のテンポについていけないさやか。
さやか
え? ええと。
瑠璃乃
その上、地頭もよくて、運動神経は抜群。
お話だって面白いから、周りにいっつも人が集まってきたし。
瑠璃乃
しかもめぐちゃんってもともとタレントなんだよ!
ばりばりテレビとか出てたんだから!
さやか
そ、そうなんですか。
瑠璃乃
そう! ほんとになんでもできて、
めぐちゃんはずっとすごかったんだ。
瑠璃乃
だからね、きっとぜんぶうまくいくよ。
瑠璃乃
今回だって、めぐちゃんなら、きっと乗り越えられる。
瑠璃乃
ルリはね、そう、信じているんだ。
さやか
……とても強い絆、ですね。
瑠璃乃
そりゃ、小学校から一緒だからね!
瑠璃乃
よっし、合宿はまだまだ続くんだし、
きょうはもう寝ちゃおっか!
瑠璃乃
それともどうする!?
定番の枕投げとかしちゃう!?
さやか
ふふっ。 それなら、わたしはなかなかの腕前ですよ。
瑠璃乃
おっ、さやかちゃんいける口!?
さやか
ええ。 お姉ちゃんの後ろをついて回っていた頃などは、
よくフィギュアの合宿にも行ったりしていましたから。
さやか
同年代の子たちと大部屋に泊まった際は、定番行事でした。
瑠璃乃
よっし、だったら!
花帆ちゃんも、ほらほら!
花帆
えっ……えっ?
花帆
で、でもあたし、筋肉痛でーー。
さやか
えいっ。
瑠璃乃
たりゃー!
SE。さやかと瑠璃乃から枕を投げられて、ベッドの上で、ばたんと後ろにひっくり返る花帆。
一瞬、シーンとする。さやかと瑠璃乃は恐る恐る花帆の様子を見やる。
花帆
わあああっ!?
さやか
……花帆さん?
がばっと花帆が起き上がる。びっくりするさやかと瑠璃乃。
瑠璃乃
……やば、生きてる?
花帆
もぉー!
さやか&瑠璃乃
花帆
こうなったら、明日の分の元気も、今ここで使っちゃうんだから!
花帆
ひと花咲かせてやるー!
覚悟しろー!
さやか
わわっ!
瑠璃乃
あははっ!
三人の笑い声が響き渡り、フェードアウト。
花帆&さやか&瑠璃乃
あはははっ!
シーン切り替え、夜の砂浜、慈がダンスのレッスン中。
衣装はトレーニングウェア。
……はぁ……はぁ……。
ダンスレッスンの最中、アバンの声が慈に聞こえてくる。
またふたりで楽しいことができるね。
瑠璃乃
そうだよ! また一緒にやろうよ、めぐちゃん!
必ず追いつくから!
慈、立ち止まり、汗を拭う。
ふっと笑みを浮かべて、一言つぶやいてから、また体を動かす慈。
……まだ、こんなこと。
ほんと、なーにやってんだか、私。