第9話『ルリ・エスケープ』
PART 5
瑠璃乃 | 引っかき回しちゃって、ごめんね。 ごめん。 楽しかったのはほんとだから! |
花帆 | 瑠璃乃ちゃん! 待って! 急すぎるよ、こんなの! |
瑠璃乃 | でも、ほら、鉄は熱いうちにって言いますし。 これ以上傷が広がる前にー……みたいな……。 |
さやか | で、ですが! |
さやか | だったらどうして、スクールアイドルクラブに入ろうと思ったんですか!? やりたいことが、あったからじゃないんですか!? |
瑠璃乃 | それは…………。 ……めぐ、ちゃん、と……。 |
さやか | え? |
瑠璃乃 | ……ううん、なんでもない。 ……ゴメン、やっぱり、ルリには……。 |
花帆 | ね、瑠璃乃ちゃん。 ひとりが楽しいっていうのは、わかるんだ。 |
花帆 | あたしもね、ちっちゃい頃は病弱で、お部屋で本ばっかり読んでた。 今も本を読むのは好き。 けど。 |
花帆 | そればっかりじゃ嫌だから、 花咲きたいって思うんじゃないのかな! |
瑠璃乃 | る、ルリは……。 誰かに迷惑をかけるほうが、嫌、かな……。 |
花帆&さやか | ……。 |
瑠璃乃 | ルリのせいで、練習も中断させちゃって。 ごめんなさい。 |
瑠璃乃 | あ、でも、クラスはおんなじだから。 |
瑠璃乃 | これからも、その、仲良くしてほしいなんて…… 都合のいいお願い、かな。 |
花帆 | ……瑠璃乃ちゃん! |
花帆 | 待って、その! もう1回だけチャンスをちょうだい! |
瑠璃乃 | チャンスって。 |
花帆 | あと1回、1回でいいから! また部室に来てよ! ね、お願い! このまま辞めるなんて、瑠璃乃ちゃんだって嫌でしょ!? |
瑠璃乃 | それは……。 |
さやか | わたしからもお願いします、瑠璃乃さん。 たぶんなんですけど……。 |
さやか | 独りが楽しいのと、独りになっちゃうのは、 違うと思います、だから……。 |
花帆 | お願い! |
瑠璃乃 | ごめん、また気を遣わせちゃって。 |
花帆 | そ、そういうんじゃ……。 |
瑠璃乃 | でも……うん。 わかった。 |
瑠璃乃 | ただ、ムリしなくていーからね。 ルリはひとりでも、心配いらないよ。 |
花帆 | ……。 |
梢 | こら、花帆さん。 |
花帆 | えっ、あっ? 梢センパイ。 |
梢 | 急にバスに乗ったなんて聞いて、びっくりしちゃったわ。 寮母さんは、どうにかごまかしておいたけれど……。 |
梢 | いったいなにがあったの。 |
花帆 | 梢センパイ……。 梢センパイ~~~! |
梢 | えっ、ちょっと、ど、どうしたの? |
梢 | どうぞ。 |
花帆 | あ、いただきます。 ……あったかい。 |
梢 | それにしても、瑠璃乃さんにそんな二面性があったなんてねえ。 あんなに明るくて、積極的な子に見えたのに。 |
梢 | 人は見かけじゃ、わからないものだわ。 |
梢 | でも、ずっと退部届を持っていたなんて。 |
梢 | やっぱり心のどこかで、自分には無理かもしれないって、 思っていたのかしらね……。 |
花帆 | ……。 |
梢 | 花帆さん、こちらにいらっしゃいな。 |
花帆 | え? |
梢 | きょうは晴れていて、星がよく見えるわ。 望遠鏡、覗いてごらん。 |
花帆 | ええと……、はい。 |
花帆 | わ……。 すごい、目で見えない星が、こんなにいっぱい……! |
梢 | ふふ、面白いでしょう。 |
梢 | もうすぐ夏季休暇じゃない。 |
梢 | それで、自由研究の課題が出されたから、 早速手を付けようと思って。 |
花帆 | うっ……。 夏休み、宿題……。 |
梢 | ふふ。 だから、家の望遠鏡を引っ張り出して、送ってもらったのよ。 |
花帆 | あっ、これ。 学校の備品じゃなくて、梢センパイの。 |
梢 | ええ。 なんとなくね、昔から好きなの。 天体観測。 |
梢 | 肉眼で観測できる星はほんのわずか。 だけど、空にはいつだって満天の星が浮かんでいる。 |
梢 | それってまるで、スクールアイドルみたいだわ。 |
梢 | 私が狙うのは、当然、 いちばん輝く一等星だけれどね。 ふふっ。 |
梢 | 花帆さん。 あなたがなりたいのは、どんな星かしら? |
花帆 | あたしは……。 |
花帆 | 梢センパイ、あの、 ちょっと聞いてもらってもいいですか……。 |
梢 | ええ。 こないだのお礼……ってわけじゃないけれど。 ずっと、なにか話したそうにしていたものね。 |
花帆 | あたし、瑠璃乃ちゃんの気持ち、ぜんぜんわかんなくて。 っていうか、ひとりで考えていて、気づいたんです。 |
花帆 | たぶん、 わかろうとすらしていなかったんだろうな、って。 |
花帆 | 新入部員に入ってほしくて、それだけで。 瑠璃乃ちゃんのこと、見てあげられなかった。 |
花帆 | でも、スクールアイドルってひとりひとり違っていて……。 まるで星みたいで。 |
花帆 | どこにも『新入部員』なんて名前の子は、いないんですよね! |
梢 | そうね。 |
花帆 | あたし、今度こそちゃんと、 瑠璃乃ちゃんと向き合ってみます! |
花帆 | あと、ちゃんとあたしのことを見てくれて、あたしを甘やかしてくれて、 ありがとうございました、梢センパイ! |
梢 | な、なに急に。 だから私は、甘やかしてなんて。 |
花帆 | だから、あの。 よかったら、梢センパイにも手伝ってほしいことがあるんですけど! |
梢 | もちろん、いいけれど……。 これはあなたを甘やかすわけじゃないから。 |
梢 | ただ部長として、 部員のお願いを聞いてあげるというだけよ。 |
花帆 | えへへっ、ありがとうございます梢センパイ! それと! |
花帆 | あたしはどんな星になりたいのかは、 まだわかんないですけど! |
花帆 | でも、みんなで空におっきな大輪の星座を描きたいです! |
花帆 | そのためには、瑠璃乃ちゃんがぜったい必要なんです! |