第4話『わたしのスクールアイドル』

PART 2

花帆
あ、さやかちゃーん!綴理センパーイ!
さやか
あれ、花帆さん。
綴理
こずはどうしたの?
花帆
それがですね、なんか急に用事が出来たって言ってました。
花帆
だから、綴理センパイ!今日はあたしのことも見て貰えますか!
綴理
ボクが、かほの?
花帆
や、やっぱりダメでしょうか!
さやか
わたしからもお願いします、夕霧先輩。
花帆さんを一人にするのは忍びないですし。
綴理
いや……むしろ、ボクの方からお願いしたいかな。
綴理
かほ、ボクたちと一緒にやろう。
花帆
わーやったー!!ありがとうございます!
さやか
ありがとうございます、夕霧先輩。
綴理
ああ、かほのも見たかったから、助かった。
花帆
えっ!?あたしの……練習をですか!?
綴理
うん。……とても見たい。
花帆
な、なんだか少し緊張しますけど……!
がんばりますので、きょうはよろしくお願いいたします!
綴理
準備いい?
花帆&さやか
はい!
綴理
えっと、先にかほに謝っておくと、
ボクはこずみたいにはできないから、そこだけごめん。
花帆
えー、そんなのぜんぜん気にしないでくださいよー。
ふたりがいつもしている練習が見たいです。
さやか
そ、その……結構特殊ですけど、頑張りましょうね。
花帆
とくしゅ……?
大丈夫!なんでもこい!です!
綴理
じゃあ……まず、えだまめ。
さやか
え、えだまめ。
花帆
さやかちゃんもめちゃくちゃ身体柔らかい!!
さやか
まあ、フィギュアスケートやってますからね……。
花帆
よ、よーし、あたしも……。
え、えだまめ!
花帆
と、ところでさやかちゃん、えだまめってなに……。
さやか
えっと、夕霧先輩の言い方は独特ですけどーー
綴理
じゃあ……そらまめ。
さやか
ストレッチです。
花帆
むりむりむりむりむり!!
さやか
あの、夕霧先輩。
花帆さんは柔軟も始めたばかりですから……。
綴理
じゃあ、出来る範囲でそらまめ。
花帆
ひーん!!
花帆
わん、つー、すりー、ふぉー!
わん、つー、すりー……ふぉー!
綴理
いえい。
花帆
凄い、凄いです!!
綴理センパイの踊り、すっごくきれい!!
綴理
そう?ありがとう。
さやか
……。
綴理
さや?
さやか
ああ、いえ。
夕霧先輩、どうして花帆さんたちの振り付けを?
花帆
あ、そう!
花帆
でもとっても参考になります!!
ありがとうございます!
綴理
そう、だね。うん。気がついたら踊ってた。
さやか
夕霧先輩……?
綴理
ねえ、かほ。
花帆
はい?
綴理
良かったら、一回踊ってくれないかな?
この前のライブのやつ、とっても良かったから。
花帆
あたしがですか?ええと、わ、わかりました!
日野下花帆、全力で踊らせていただきます!
綴理
うん、お願い。
さやか
あの、どうしたんですか?
なんだか先輩、やっぱり最近少し……。
綴理
ごめん、さや。
さやか
……先輩?
綴理
……。
綴理
ーーやめておくよ。
本気で言っているの?
花帆
えー!?
もったいなくないですか……!?
さやか
おはようございます。えっと、何があったんですか?
花帆
そ、それが……。
おはよう、村野さん。
昨日の部長会議で、スクールアイドルクラブにステージ出演の打診が来てね。
今度の学校見学で、パフォーマンスをして欲しいってことなの。
さやか
それは、素敵なお話ですが。
この前は私たちでライブをしたから、
綴理と村野さんでどうかっていう話をしていたのだけれど。
綴理、どうしても出ないつもり?
あなたのライブが見たい人だってたくさんいるのよ?
綴理
ボクのライブ……。
綴理
うん。やっぱり、やめとく。
花帆
そんなぁ。
さやか
……。
さやか
……夕霧先輩。
さやか
自主練、してきます。
綴理
……ごめん、さや。
花帆
え、あ、さやかちゃん!?
綴理
……。
……花帆さん。
村野さんと一緒に、練習してきてくれる?
花帆
えっ。
花帆
わかりました!
それで、綴理。どういうつもりなの。
綴理
……離れないんだ。
綴理
こずとかほが、頭から離れてくれない。
キミたちのライブが、目に焼き付いて……痛いんだ。
綴理
あの日のこずは……スクールアイドルだったよ。
……この前のライブ、そんなに良かった?
綴理
とても。
綴理
こずとかほが、二人で一つのユニットだって、誰の目から見ても分かる。
綴理
完璧じゃないのに完璧。ユニットで作る芸術。
うん。……スクールアイドル、だったよ。
そ。光栄ね。
あなたは……相変わらず、
自分のことはスクールアイドル失格だと思っているのね。
綴理
……失格とは、違うかな。
一度だって、その資格を手にしたことはない。
綴理
ボクはいつだって、夕霧綴理でしかないみたいだ。
……それで。
でも村野さんだって、
あなたのライブを見て入ってきてくれたんじゃないの?
綴理
それは、たぶん有難いことなんだと思う。
綴理
ボクにはよっぽど、さやの頑張りの方が綺麗なものに見えるけど……
さやはそれでも、ボクのパフォーマンスをほめてくれる。
だったらライブの出演依頼、断る必要はあった?
村野さんは本当に頑張り屋さんで、あなたのことも慕ってくれて……
面倒まで見てくれて。
あなたと一緒にライブに出たいと頑張ってくれている子に、
あなたがしていることはなに?
綴理
そう、だね。
綴理
さやはいつも、どうしたらいいかボクに聞いてくれる。
でもボクが、うまく言えなくて。
綴理
なのにさやは、一生懸命ボクに合わせてくれようとしてる。
頑張ってくれてる。まるで……。
綴理
去年の、こずみたい。
ーー綴理。
綴理
ごめん。
謝られるようなことではないけれど、
お互いもう去年の話はしないと決めたはずでしょう。
綴理
えっとーー。
だったらなおさらよ。
そんな風に頑張ってる子が今、あなたの都合でライブもできない。
それでも泣き言一つ言わずに一人で練習しに行ってーー
きっと、ライブができないのは自分が至らないからだと
思っているんじゃないかしら。
綴理
違う、そういう意味じゃーー。
綴理。あなたが下手なのは説明じゃない。
自分の気持ちを伝えること、相手の気持ちを想像すること、両方よ。
綴理
……こず?
私だって、花帆さんともっと信頼関係を築けるように、
今だって努力しているの。
もし。もし去年の私と村野さんが似ているというのなら。
……あなたも去年と変わるべきなんじゃないの?
少なくとも私はもう少し、あなたの気持ちを知りたかった。
あなただって、私にして欲しいことがあったんじゃない?
私と花帆さんが、素敵なスクールアイドルに見えているのなら。
あなたにもできることはあるはずよ。
あなたは、村野さんに、どうなってほしいの?
綴理
それは……それは。
やっぱり、差し出がましいことを言ったみたいね。
でも、今も求めるものがあるなら、あなたは伝えるべきだと思うわ。
たとえその言葉が、どれだけ拙いものだとしても。
きっと村野さんも、あなたのことをよく知らない。
あなたも、村野さんのことをまだよく知らないでしょう。
綴理
……。
……あなたも周りが言うような、
完璧でもなんでもないわ。
綴理
こず……、ボクは。
ボクは……。