第8話『今はまだ遥か幽かな光』
PART 5
- 小鈴
セラスはこの命に代えても、我が国を守り切ると決めたのです!
- 小鈴
天よ、海よ、この大地よ! どうかセラスの旅路を、見届けてください!
- 姫芽
やるぅ~。
- 吟子
小鈴、気合入ってるね。
- 泉
かくも荘厳なる天の配剤よ!
見よ、我らが祖国の嘆きより生まれし麗しの姫君を! - 泉
今まさに、彼女ははるか運命の関門へ旅立たんとす!
- 泉
暗雲は轟き、険峻の峠は牙を剥き、
いかなる魔手も彼らの行く手を阻まんと躍り出るであろうーーされど! - 泉
苦難が千層の壁となろうとも、姫君はなお希望の弓を引き絞り、
夜の深処にさえ黎明を射抜くであろう! - 泉
その名は未来へ刻まれ、
人々はいつの日か高らかに謳うであろうーー
ーー『彼女こそ、救国の姫君なり』と! - 吟子
……!
- 小鈴&姫芽
おお~……。
- 泉
ふぅ……。
うん? どうしたのかな? - 吟子
いや、なんかすごい迫力で……
思わず、引き込まれちゃったっていうか……。 - 小鈴
すごいよ、泉ちゃん! ものすごくプロって感じだったよ!
- 泉
そうかい? ありがとう。
- 姫芽
いやぁ、さすがにお上手だねぇ~……。
これが演劇界の、チャンピオンかぁ。 - 泉
昔取った杵柄、ってやつだけどね。
- 小鈴
でも、ほんとにすごいよ!
- 小鈴
脚本だって、みんなで『こういうお話がいいよね』って話してたら、
泉ちゃんがたった一日で書き上げてきてくれたんだもん! - 吟子
演劇に関することなら、なんでもできるんだね、泉。
- 泉
そういうわけじゃない。
ひとつひとつ、必死になって学んでいった。 ただ、それだけさ。 - 姫芽
見て見て~、すごいよ、廊下~。
- 小鈴
え……? うわぁ!
いつの間にか、こんなにギャラリーが!? - 吟子
みんな、泉を見に来たんだね……。
- 小鈴
演劇部の方が、なんだか崩れ落ちてます!?
- 姫芽
あはは~。
いずみんの本気食らったら、みんなでノックアウトだねえ~。 - 泉
面映ゆいね。
- 泉
……ああ、久しぶりだな、この感覚。
- 姫芽
いずみん?
- 泉
うん。 もう一度、最初から通しでやろう。
まだちょっと出来に納得できない部分があるんだ。 - 吟子
さっきので……!?
- 姫芽
ぜんぜんおっけ~! やろ~!
- 小鈴
うん、やろう!
長野でがんばってるセラスちゃんにも、届くぐらい! - 泉
ありがとう。
じゃあみんな、立ち位置に戻ってくれーー。 - 吟子
もうすっかり、暗くなっちゃったね。
- 姫芽
帰って、甘いものチャージしたいねぇ……。
- 泉
みんな、遅くまで付き合ってくれて、ありがとう。
- 小鈴
ううん、ぜんぜん!
それより、いっぱいアドバイスくれて、ありがとうね! - 小鈴
泉ちゃんが経験者でよかったよ。
きっと、すごいものができる予感がするんだ! - 泉
そのために、主役の小鈴さんにはもう少し練習してもらわないとね。
- 小鈴
うっ! が、がんばるよ!
ちぇすとちぇすとちぇすと~! - 姫芽
気合のちぇすと三連発だ~。
- 泉
ふふふ。
- 泉
おっと……。
セラスからメッセージだ。 - 姫芽
どれどれ~?
- 小鈴
わ、きょうも撮影会なんだね!
- 吟子
また無茶ぶりされてるのかな。
- 小鈴
でもなんだかんだ、楽しそうだよ?
- 姫芽
せらりんも、夢中になったら肉体の限界超えちゃうタイプだからねえ~。
今はそれに加えて、使命感と責任感も肩に乗っちゃってるし~。 - 泉
……そうだね。 気を付けるとしよう。
情熱は時として、暴走に変わることも、よくある話だ。 - セラス
ね、泉。
ちょっと相談したいことが。 - セラス
やっぱりなんでもない。
- 泉
……うん?
- 吟子
……ね、泉は、どうして演劇辞めちゃったの?
- 泉
え?
- 吟子
いや、なんていうか……。 練習も楽しそうにしてたから。
演劇のこと、好きだったんだろうな、って。 - 泉
……そうだね、好きだったよ。
思い入れも、あった。 - 吟子
『やむを得ない事情』って、なんだったのかな、って。
- 泉
……。
- 吟子
あ、いや、ムリに話してほしいわけじゃないから。
- 泉
別段、話すこと自体は、構わないんだけれどね。
- 姫芽
ん~?
- 泉
聞いたところで、あまり楽しい話ではないと、思うよ。
- 小鈴
でも、徒町は聞きたいな。 泉ちゃんのこともっと知れたら、
きっと、もっともっと仲良くなれるって、思うから。 - 泉
……そうか。
- 泉
……意外と、嬉しいものだね。
そんな風に、歩み寄ってもらえるのは。 - 泉
どうやら私は、私の思っていた以上に、あなたたちに気を許しているようだ。
- 泉
聞いてくれるかい? 他の誰にも話したことのない、私の過去を。
- 小鈴
うん。
- 泉
私が初めて夢を追いかけたのは、演劇だったんだ。
そこで、運命の人と出会った。 - 泉
……と、これが演劇を辞めた理由だ。
- 吟子
『先輩』と一緒に、同じ夢を……。
- 小鈴
そんなことがあったんだ……。
- 姫芽
……一緒に夢を見る仲間を失うのは、寂しいことだね。
- 泉
私にとっては、終わったことさ。
きっと、出会うべきじゃなかったんだよ。 私たちは。 - 吟子
私は、そうは思わないけど……。
- 小鈴
だって泉ちゃんは『先輩』と離れたくなかったんだよね!?
体を壊さなければ、きっと、今も一緒に……! - 泉
……どうかな。
今確かに言えることは、そんな未来は訪れなかった。 それだけさ。 - 姫芽
……。
- 泉
それから……先輩の手を離した私は、夢を願う少女たちの夢を叶えることで、
なんとか生き長らえてきたんだ。 - 吟子
でも、だったら……。
今も演劇をやるのは、つらいんじゃ……? - 泉
……それがね、不思議なんだ。
- 泉
今までは、なにも感じなかったんだよ。
- 泉
演劇の手伝いをしたところで、心にはさざ波ひとつ立たない。
先輩を失った私の世界は、ずっと灰色だったから。 - 泉
でもね、瑞蓮祭を成功に導くため、あなたたちと劇を作っていくのは……。
楽しいと、思えるんだ。 - 小鈴
それって……!
- 泉
わからない。 だけど、少なくともひとつだけ、言えることがあるとすれば。
この蓮ノ空に来て、私は少しずつ、変わってきたようだ。 - 泉
単なる暇つぶしのつもりで選んだ場所だったんだけどな……。
- 小鈴
わかるよ、泉ちゃん!
『出会い』だね! - 小鈴
徒町も、ここに来てさやか先輩と綴理先輩、それに吟子ちゃんと姫芽ちゃん、
先輩方と、みんなに出会えたから、変われたって思うから! - 小鈴
ちょっとずつだけど……でも、ちょっとずつでも、
前に進んでるって気がするんだ! - 泉
……小鈴さん。
- 姫芽
アタシも、みらぱ!に出会えて人生変わったからねえ~。
- 姫芽
ほんの少しでもいずみんにアタシたちがいい影響を与えられたんだったら、
なによりだね~。 - 泉
……うん、姫芽ちゃん。
- 吟子
でもいちばんはもちろん、セラス、でしょ?
- 吟子
あの子、泉とのEdel Note、ずっと張り切ってるもんね。
『スクールアイドルのことを大好きにさせてやる』って。 - 泉
……。 私は、それをただ、セラスの光を浴びて輝くだけの、
イミテーションだと、思っていたんだ。 - 泉
今までと同じように、どうせうまくいくはずがないと。
けれど……。 - 泉
どうかな。
今の私は、ほんの少しでも、自分自身で輝けていると、思うかい? - 小鈴
泉ちゃんは、すっごく輝いてるよ!
- 姫芽
ライブであれだけ大勢を楽しませてるいずみんが、
輝いてないわけないじゃん~。 - 吟子
泉は立派なスクールアイドルで、ライバルだって思ってるよ。
少なくとも、私はね。 - 泉
……ありがとう。
- 泉
あなたたちに肯定してもらうと、心が軽くなる。
こんな当たり前のことも、私は忘れていたようだ。 - 泉
瑞蓮祭のために、劇を成功させよう。 私も、精一杯やるよ。
- 姫芽
せらりんのためにもね~。
- 小鈴
うん!
- 吟子
あの生意気でかわいい後輩のためにね。
- 泉
ああ。
私を救おうともがいてくれている、セラスの、ために。 - 泉
そうとも……。 リベンジを果たし、取り戻すんだ……。
私は、私の情熱を。