第11話『夢を咲かせる物語』

PART 5

花帆
ありがとうございましたー!
セラス
ましたー。
花帆
えへへ。 生徒会長さん、泣いてたね。
セラス
うん。
でも、よかった。
セラス
たくさんの人が集まってくれたおかげで……
スクールアイドル部だけじゃなくて、ぜんぶの部が、ちゃんとお別れできる。
花帆
お別れ……。
そっか、そうだよね。
花帆
学校は、なくなっちゃうんだよね。
セラス
……うん。
花帆
部活動してるみんな、喜んでるね。
セラス
廃校までのタイムリミットの中、過ごしてたはずなのに。
わたし、これが当たり前の景色だと思ってた。
セラス
先輩と、後輩。 同級生。
みんなで放課後、いっぱい練習して。
セラス
へとへとになって、木陰で風に当たったり。
水飲み場に、走っていったり。
セラス
ずっと変わらない、続いていく当たり前のもの。
セラス
でもそれがどんなに自分にとって大事なのか、
よくわかった、気がする。
セラス
ありがとう、花ちゃん。
花帆
そ、そんなぁ……あたしは別に、ぜんぜん。
花帆
みんなの力だよ。 みんなの。
セラス
蓮ノ空の人だけじゃなくて、みんなに言いたいんだ。
力を貸してくれた全員に、ありがとうって。
セラス
花ちゃんは、その最初のひとり。
花帆
えへへ……。
だったら、どういたしまして。
セラス
うん。
花帆
わ、見て見て!
蓮ノ空のスクコネポストにも、こんなに反応が!
花帆
ほらほら、こんなにたくさんの人が、瑞河のプレーオフを喜んでるよ!
セラス
うん……。
あ、お姉さん。
花帆
え? せっちゃんのお姉さん!?
どれどれ!?
セラス
じゃなくて。
わたしをスクールアイドル部に誘ってくれた、お姉さん方。
花帆
あ、病院に来てくれたっていう?
セラス
うん……。
見ててくれたんだ。
花帆
えへへ、どれどれ~。
セラス
うっ……目の前で読まれるの、ちょっと、恥ずかしい、かも……。
花帆
そう?
じゃあ、後で帰ってから読もうっと。
花帆
……『瑞河の廃校と、セラスちゃんの夢は残念だったけど』……?
セラス
……っ。
花帆
せっちゃんの、夢……?
これって、どういう?
セラス
……さあ。
花帆
でも、メッセージに……。
セラス
なんだろうね。
わたしなにか言ったのかな。
セラス
よく、覚えてないや。
花帆
……。
それじゃあみんな、気を付けて。
セラス
プレーオフまで、体調崩したりしないようにね。
ええ、もちろん。
綴理
また、会おうね。
決着の舞台で~!
花帆
……。
吟子
花帆先輩?
花帆
夢……せっちゃんの夢……。
花帆
もしかしたら、プレーオフじゃなくて……。
せっちゃんの夢は、他に……。
瑠璃乃
どしたん?
花帆
ねえ、みんな。
ちょっと、お願いがあるんだけど。
さやか
どうしたんですか?
花帆
あのね、えっとね、えっと……。
吟子
お願いが先にあって、内容を今考えてるの……?
花帆
例えばあたしなら……花咲きたいって夢……。
花帆
さやかちゃんは、期待に応えたい。
さやか
え、ええ。
花帆
瑠璃乃ちゃんと慈センパイは、世界中を夢中に。
瑠璃乃
なになに。
花帆
綴理センパイは、スクールアイドル。
綴理
うん。
花帆
吟子ちゃんは金沢の伝統を世界に。 姫芽ちゃんは、ゲームの布教。
小鈴ちゃんは、なにものかになりたい……。
小鈴
はい!
姫芽
どうしたんですか~?
花帆
梢センパイは、ラブライブ!優勝……。
花帆?
花帆
あの……!
知りたいんです!
花帆
せっちゃんの、本当の夢を!
花帆
それで、だから、どうやったら調べられるかな、って……。
さやか
プレーオフ以外の夢、ですか。
廃校を救う、じゃなくて?
花帆
それ以外の……たぶん、もっともっと、前の……。
吟子
ええと……。
瑠璃乃
これは、どうかな。
瑠璃乃
テレビに出て話題になったから、
昔の瑞河の配信がネットにたくさんアップされてるんだよね。
瑠璃乃
もしかしたら、そこにセラスちゃんが映ってるものも、
あるかも。
花帆
そ、それだー!
大事なことなのね?
花帆
たぶん!
……いえ、すごく!
花帆
お願いします、みなさん!
手分けして……探すの、手伝ってください!
全員で動画を見る。
スクールアイドルA
それでは、新入部員のご挨拶で~す。
スクールアイドルB
緊張してる~。
スクールアイドルC
かわいい~。
セラス
セラス、です。
今年から瑞河女子の中等部に入りました。
セラス
中学生なので、まだスクールアイドルじゃないです。
スクールアイドルA
えー、いいじゃんべつにー。
スクールアイドルB
セラスちゃんは、私たちがスカウトしたんだよ~。
スクールアイドルC
では、セラスちゃん。
ずばり、スクールアイドルとしての夢は?
セラス
それは……。
セラス
わたしは、先輩に誘われて、この学校にやってきました。
セラス
わたしは、瑞河女子のスクールアイドル部が大好きです。
だから。
セラス
瑞河女子の一員として、いつかラブライブ!のステージに上がるのが、
わたしの夢です。
スクールアイドルA
ようし、それじゃあみんなで!
スクールアイドルA&B&C
ラブライブ!優勝ー!
おー!
セラス
お、おー。
セラス
……。
花帆
せっちゃん!
セラス
え?
セラス
えっと……どうしたの? 忘れ物?
花帆
見つけたよ、せっちゃんの夢。
セラス
……わたしの、夢?
花帆
うん。
花帆
せっちゃん、瑞河のスクールアイドルになって、
ラブライブ!に出たかったんだよね。
セラス
……。
花帆
それが、せっちゃんの本当の夢なんだよね?
セラス
花ちゃん、なにを見たのかわからないけど、
たぶん、勘違いしてるよ。
花帆
でも!
セラス
わたしの夢は、瑞河のラブライブ!優勝。
その夢はきっと、泉が叶えてくれる。
セラス
学校を救えなかったのは、残念だけど。
でも、それだけ。
花帆
違うよ!
だって、配信の中のせっちゃんは、あんなに楽しそうに夢を語ってて……!
花帆
せっちゃんは……夢を、諦めたの?
セラス
……っ。
それは……。
もういいだろう、セラス。
これ以上あなたを見ているのは、さすがの私でもね、胸が痛むよ。
セラス
泉……。
余計なことは言わないで。
花帆さん。
セラスの気持ちはあなたが見た頃と、なにも変わっていないよ。
セラス
泉!
花帆
やっぱり……。
セラスは絶対にこの学校を廃校から救いたかった。
そうでなければ、瑞河女子がなくなってしまうから。
自分がこの学校のスクールアイドルとしてラブライブ!に出場するという夢が、
叶わなくなるから。
プレーオフは、セラスにとっては夢じゃなかったんだ。
ただスクールアイドルに憧れたひとりの少女として、
ラブライブ!に出たいだけだったんだよ。
花帆
せっちゃん……。
セラス
っ。 ……そうだよ。
でも、わたしの夢は、もう叶わないの。
セラス
今、中学生のわたしじゃ……廃校が決まった時点で、ぜったいに。
花帆
だったらどうして、プレーオフのために、こんなにがんばってくれて……。
セラス
……それは。
そんなの、決まっている。
あなたのためだ。
日野下 花帆さん。
花帆
……あたし、の?
セラス
……違う。
セラス
わたしは、応援してくれる人みんなのために、
がんばってただけ……。
そうじゃないだろう。
私はあなたの夢を叶えるために、瑞河に来たんだ。
言ったじゃないか、私にすべてを捧げると。
自分を取り繕うな。 セラス。
セラス
だって……。
セラス
もう、叶わないんだよ。
セラス
わたしはこの学校のスクールアイドルには、なれないんだもん!
セラス
だったらせめて、みんなに瑞河のことを覚えていてほしかった……。
セラス
泉に、最後まで悔いなく戦い抜いてほしかった……。
セラス
花ちゃんに……笑ってほしかったんだもん……。
花帆
そんな、せっちゃん……。
セラス
……ウソついてて、ごめんね、花ちゃん……。
花帆
……ああ、そうだったんだ。
花帆
あたしじゃなかったんだ……。
せっちゃんが、あたしたちの想いを、叶えようとしてくれてたんだ……。
花帆
あたしを花咲かせてくれようとしてたんだ……。
花帆
あたし、そうと気づかずに……。
ずっと……。
花帆
プレーオフをしても、せっちゃんの願いは叶わなかったのに……。
花帆
夢を信じてたのは、あたしたちだけだったんだ……。