第11話『夢を咲かせる物語』

PART 3

部室にもってきたノートパソコンで、慈が動画を編集している。
アシスタントとして姫芽、それに瑞河の素材提供者として泉がいる。
姫芽
これであとはエンコード終了を待って、アップするだけですね~!
よーし! 文化祭の宣伝動画、かんせーい!
姫芽
わ~!
お疲れさま。 コーヒーでいいかな。
お、さんきゅー。
はい、どうぞ。
マグカップを、慈と姫芽の前にそれぞれに置く泉。
自分もマグカップを持って、ふたりの前に座る。
姫芽
ありがとうございま~す~。
気が利くじゃん、泉ちゃん。
私は素材を提供しただけだからね。
なに言ってんの。
瑞河パート部分は、けっこう作ってくれたでしょ?
慈先輩の見よう見まねだよ。
うわべだけ真似るのは得意なんだ。
肩をすくめる泉。
それにしても、さすが蓮ノ空。 動画制作のレベルも高いね。
私が好きでやってるだけだけどねー。
めぐちゃんの卒業後も、ひとまず後継者ができたので、安心である。
胸を張る姫芽。
姫芽
おす~。
姫芽
ストリーマーとしてやってくなら、
自分で動画も作れた方が、ぜったいいいですからね~。
姫芽
人生に大切なことはすべて、みらぱ!に教わりました~……。
くすりと笑う泉。
いい師弟関係だ。
瑞河は、私が入部したときには、
もう他にスクールアイドルはいなかったから、少し憧れるよ。
ずっとふたりでやってきたの?
正確にはひとりかな。
セラスは部員ではなかったから。 でも、そうだね。
そういう意味では、私の師匠は、セラスということになるね。
姫芽
まだ中学生なのに~。
練習メニューを作ってくれたり、他校とのアポを取ってくれたり。
練習後のマッサージ。
ストレスケアに、なぜか岩盤浴の予約を取ってきてくれたこともあったよ。
えーいいなー。 メッチャ有能じゃん。
できることはぜんぶしようと思っていたんだろうね。
セラスはどうしても瑞河を救いたかった。
私をスカウトしに来たのも、そのひとつだから。
瑞河の経営はずっと綱渡り状態で、去年の今ぐらいには、
もう廃校計画が進められていたらしいから。
後がない。 本人はそのつもりだったんだろうね。
スクールアイドル部が中部大会優勝を決めたところで、
一度は廃校が撤回されるかもしれない……
……という話になったけど、結果はこの通り。
あれほど力を尽くしていたのに、ままならないものだね。
ずいぶん、他人行儀な言い方するね、キミ。
泉は無自覚に首を傾げる。
姫芽が面白がって泉に尋ねる。
そう、かな?
姫芽
泉ちゃんはぶっちゃけ~、セラスちゃんのこと、どう思ってるの~?
……ふっ。
もったいぶるように笑う泉。そのリアクションに、慈と姫芽は「んん?」となる。
姫芽
え、なになに~?
セラスは、眺めていると面白い。
急に俗っぽい部分出してくるじゃん!?
素直な気持ちを言うと、感謝しているよ。
おかげでこの一年は退屈せずに済んだ。
夢に向かって突き進むセラスは、輝いていたから。
姫芽
え~? 素直~!
私は素直で一途なんだよ。 ひねくれものは、セラスの方さ。
あの子、そうなの?
だから蓮ノ空にも、素直に感謝しているよ。
あなたたちのおかげで、瑞河の生徒たちにも火が付いた。
まだ自分たちにはやれることがあると、気づかせてもらった。
廃校を止めることはできなくても、
悔いのないように卒業することはできるだろう。 本当に、ありがとう。
文化祭と、その後のプレーオフが成功すれば、ね。
まだ準備段階。 なにかを成し遂げたわけじゃないんだから、
お礼を言うのはちょっと早いんだよ。
ふふ……そうだね。
姫芽
そうだよ~。 ちゃんと決着つけてやるんだからね~。
姫芽さんは本当に、戦うのが好きだね。
姫芽
泉ちゃんは~?
実は私はそうでもないんだ。 たいていは勝ち続けてきたからね。
勝負と名のつくもので、楽しい思いをしたことが、ほとんどない。
うちの天才ちゃんみたいじゃん。
ニヤニヤしながら問いかけてくる姫芽に、泉は微笑んで。
姫芽
つまり~、プレーオフは楽しみ、ってことですかね~?
そうだね。 引き分けは本当に予想外だった。
私にも、セラスにも。
廃校かかってたキミたちには悪いけど、
譲れない理由だったらこっちにもあったからね。
夢ってのは、願ってる人数が多けりゃ強いってわけじゃない。
たったひとりでも夢は夢。 誰にだって大切でしょ。
……。
だから、勝負するっきゃないの。
叶えられるかどうかは、後は自分次第。
……自分次第。
だから、あなたは、
私のことを全力で舞台に立たせてくれようとしているんだね。
そういうこと。 ステージに立てず夢を諦めるなんて、論外だから。
そこまでは手伝ってあげるんだよ。
でも、負けないからね。
なるほど……。 これが『先輩』か。
蓮ノ空が、ちょっと羨ましくなったよ。
姫芽
うぇへへ。 そんじょそこらのせんぱいじゃありませんよ~!
うちのめぐちゃんせんぱいですからね~!
姫芽
泉ちゃんも、めぐ党に入りたいですか~?
も~、しょうがないな~! あとで会員ナンバー発行してあげる~!
これまででいちばん嬉しそうだ……。
卒業した後、蓮ノ空に私の銅像立てたりしないよね。
姫芽
その手が……!?
ない!
許可取りのために、地元商工会や、市役所などを回っているというシーン。
登場人物は、セラス、綴理、瑠璃乃。
瑠璃乃
ありがとうございました~!
綴理&セラス
ました~。
瑠璃乃
ふぃ~。 お役所さんを巡った巡った。
文化祭の準備、着々と進んでますな~。
瑠璃乃
これで蓮ノ空からのお手伝いもやってくれば、いよいよ現実的に……!
綴理
そっちはこずに任せてるからね。 きっと大丈夫だよ。
セラス
あの、オトナのお姉さん。
綴理
そう。 ボクたち三年生の中で、誕生日もいちばん早い。
セラス
すごい。 まるでオトナであることを運命づけられたと言っても。
綴理
かごんではない。
瑠璃乃
いつの間にそんな息ぴったりに!?
セラス
わかんない。
でもなんだろう……他人の気がしない……。
瑠璃乃
ルリがつづパイと完全にシンパシー合うまで、半年かかったのに!
綴理
せら……。 ひょっとしてきみは、ボクの……。
セラス
わたしの。
綴理
……後輩?
瑠璃乃
そうだよ!
瑠璃乃
なんだろう、魂の形が一緒なのかな……。
セラス
大丈夫。 わたしはちゃんとわざとボケてる。
綴理
じゃあボクもだよ。
セラス
やっぱり。
瑠璃乃
つづパイはウソでしょ!
2年間キャラ作ってたって言われたら、ルリ、人間不信になるよ!?
そこでスマホが鳴る。
セラスに梢から電話がかかってきた。
セラス
あ。
セラス
オトナのお姉さんだ。
セラス
はい、セラスです。
セラスさん。 取り急ぎ、報告しようと思って。
セラス
はい、お姉さん。
お姉さん……?
ええと、蓮ノ空からも、瑞河のために協力してくれるという人が、
かなりの数、集まってくださったわ。
セラス
わーい。
セラス
こっちも、現時点で、えと……。
セラス
お手伝いしてくれる人は、何百人も集まってくれました。
瑞河の生徒や、先生、父兄の方々……それに、長野のスクールアイドルも。
そう……。 ありがたい話ね。
セラス
はい、誰になにをしてもらうかは、瑞河の生徒会に一任することにしました。
その分わたしたちは、知ってもらうことに全力を注ごう、って。
ええ、それでいいと思うわ。
慈たちの作ってくれた動画も、再生数が伸びてるみたいね。
セラス
『こういうことをやりたいんです』
ってお手伝いをお願いするときの紹介映像としても、助かってます。
これで文化祭を開催することは、ひとまずできそうかしら。
セラス
はい。 なにからなにまで、ありがとうございます。
ううん。 それじゃ、そちらもがんばってね。
瑠璃乃
うぅむ……。
やっぱりしっかりしてるかも、セラス後輩……。 二個下なのに……。
セラス
いぇい。
綴理
せらは、がんばりやだね。
セラス
……え?
綴理
プレーオフ、やろうね。 必ず。
セラス
あ……はい。 ありがとうございます……。
瑠璃乃
ふふふ、やっぱり綴理先輩には、誰も敵わねーや。
綴理
ボク、さいきょー?
瑠璃乃
さいきょーデス!
セラス
……。
セラス
大丈夫。 人格では勝てなくても、ステージの上では泉が勝つから。
瑠璃乃
とんでもねーこと言ってる!?
セラス
泉はときどき悪魔みたいになるから……。
綴理
そうなの?
セラス
そう。
セラス
あれはね、魂と引き換えに力をくれる、おとぎ話の悪魔。
泉をあれ扱いするセラス。
そこで再びスマホが鳴る。
瑠璃乃
お?
セラス
悪魔からだ。
瑠璃乃
だいぶ語弊が!
セラス
はい、もしもし。
セラス
……テレビ局から、取材?
顔を見合わせる瑠璃乃と綴理。
瑠璃乃
! これで、もっと多くの人に!
綴理
瑞河のことを、知ってもらえる。
セラス
え……? わたしが、出るの?
なんで? 泉じゃなくて?
セラス
えええ……。
綴理&瑠璃乃
そこで言葉を失うセラス。
顔を赤らめながら、絞り出すようにつぶやく。
セラス
む、むり……。