幕間
『Brightness』
過去回想シーンからスタート。 | |
時系列としては、竜胆祭前。一年生の三人(+沙知)がいちばん仲良く、これから仲間としてやっていくんだ!というムードに包まれていた時期。 | |
部室に向かう梢を見つけて、綴理が声をかけてくる。 | |
綴理 | こず、こず。 |
梢 | あ、ゆうぎ……つ、づり。 |
綴理 | 『つ、づり』じゃないよ。 |
梢 | ……わかっているわ、綴理。 その、まだ、ちょっと言い慣れてないだけ。 |
綴理 | ふぅん? |
綴理 | えと……ボクの話をしても、いい? |
梢 | もちろん。 なにかあって話しかけてきたんでしょう? |
綴理 | DTMって、すごいんだね。 |
梢 | ああ……今、慈とふたりで勉強しているのよね。 |
綴理 | 音と音の手を繋げるだけで、あの子が曲にしてくれる。 すごく、がんばりやさん。 |
梢 | それは……すごいわね。 普通は、もっと時間がかかるものだけれど。 |
綴理 | こずとかめぐみたいに、 ギターが弾けないと作曲ってできないのかと思ってた。 |
梢 | 今は、楽器で作る人の方が珍しいかしらね。 |
綴理 | 自分の曲を形にできるのって、楽しいね。 |
梢 | それは、よかったわね。 ふふ、お気に入りの曲ができたら、私にも聞かせてくれる? |
綴理 | いいの? |
梢 | ええ、聞いてみたいわ。 DOLLCHESTRAの……あなたと、沙知先輩の曲。 |
綴理 | うん……うん。 ボク、いっぱい作るね。 |
慈 | お、来た来た。 |
慈、ジト目になり、照れつつも口を尖らせる。 | |
梢 | 早いわね。 め……慈。 |
慈 | いちいちつっかえるの、やめてくれない? なんか、こっちがハズいんだけど。 |
梢 | ふん……。 |
慈 | まあいいや。 沙知先輩が、これ書いといて、って。 |
ぴらと紙を差し出す慈。 | |
綴理 | うわ、“しょるい”だ……。 |
慈 | そう。 だから梢が来たらでいいかなって思ってた。 |
梢 | あなたたち……。 DTMを扱うほうがよっぽど難しいでしょう……。 |
慈 | えー? あれは楽しいじゃんー。 ねー? |
すでにこの頃から波長が合って仲良しな慈と綴理が「ねー」と言い合う。 | |
綴理 | ねー。 |
梢 | これ……。 ラブライブ!のエントリーシート! |
綴理 | こずの、夢だ。 |
梢 | ええ。 そう、ようやく始まるのね……。 スクールアイドルの憧れの大会が……! |
慈 | よっしゃ! それじゃあ、ちゃちゃっと優勝しますか。 |
梢 | ちょっと、慈! ラブライブ!はそんなに、簡単なものじゃ。 |
慈 | いけるいける。 梢だって焼きついてるでしょ。 |
慈 | 私たち3人プラス沙知先輩で立った、撫子祭ステージの熱狂。 そして、大成功。 |
慈 | はっきり言って、敵ナシだから。 私たち『蓮ノ大三角』は。 |
梢 | ……その名前、沙知先輩がつけたって噂を聞いたのだけれど。 |
慈 | まあなんでもいいじゃん! 強そうだし! |
慈 | ねー。 |
綴理 | あ……うん。 |
慈 | つづりー? またお口が「いー」ってなってるよー。 どしたー? ラブライブ!やだー? |
綴理 | ううん……。 |
綴理 | スクールアイドルの大会にボクが出るのは、まだ怖いけど。 |
綴理 | こずと、めぐ、さちが一緒なら。 ボクもスクールアイドル見習いとして、がんばれる気がするんだ。 |
綴理 | いつか……ボクが初めて見たスクールアイドルみたいに。 誰かの心に届く舞台を作れるように。 |
綴理 | やりたい。 みんなで。 |
慈 | おーし! 盛り上がってきたんだよ! |
梢 | そうね。 このメンバーで、優勝……。 |
慈 | お、その気になってきた? |
梢 | ……い、いえ。 |
梢 | そのためには、決して慢心せず、一歩一歩歩んでいくことが大事だと、 己を戒めただけよ。 |
慈 | わー、ユートーセー的発言ー。 |
綴理 | ……最高を、迎えに……。 |
梢 | 綴理? |
綴理 | うん。 |
綴理 | 楽しみになってきた。 曲作るよ。 ボクも。 みんなの曲を、作りたいんだ。 |
現代に戻ってきて。 | |
シチュエーションとしては、102期生で学校終わりに衣装で使う小物を買いに来たイメージです。衣装は制服。 | |
(※それぞれのユニットで衣装のデザインが違うことはよくあるので、3人は同じものを買いにきたというよりは、同じ店にいくついでに集まった) | |
綴理 | ……。 |
お店から出てきて、ぼんやりと雨空を眺める綴理。 | |
その横に、梢が並んでくる。 | |
梢 | あら……雨だわ。 |
慈 | うわ、しかも強くなりそう。 こりゃ、るりちゃんと姫芽ちゃんに、 迎えにきてもらうわけにもいかないかな。 |
梢 | ……あなた、よく後輩を迎えに来させているの? |
慈 | 私、愛されてるからね☆ 羨ましいんだったら、梢もたまに甘えてみれば? |
梢 | まったく……。 |
慈 | うーん、今夜いっぱい続くみたい。 しょうがない。 ここはずぶ濡れ覚悟で、バス停まで走るかなあ。 |
梢 | そうね。 きょうの買い出しは、アクセサリー用の小物ばかりだから、 幸い濡れても平気………………あ。 |
慈 | ん? |
梢 | ……。 ……ねえ、綴理。 |
綴理 | うん? |
梢 | ここから、近かったわよね。 ……今夜は、あなたの家にお邪魔しても、いいかしら。 |
慈 | ん?? |
綴理 | 嬉しいけど……なんで? |
それほど濡れていないという体で、三人は制服のままです。 | |
三人はそれぞれ髪や体を拭き終わって、綴理にタオルを返す。 | |
梢 | タオル、ありがとうね。 |
綴理 | ううん。 |
慈 | ていうか、なんで綴理の家に? |
梢 | ……濡らしたら、まずいと思って。 |
慈 | あ。 |
綴理 | ラブライブ!の、エントリーシートだ。 |
梢 | みんなのを回収してきたばかりだったの。 だから……。 |
慈 | 濡れてガビガビになったら、また書いてもらえばいいだけじゃん! これだから、『でも、みんなの想いが……』とか言いそうなやつは……。 |
梢 | ……勝手に人の気持ちを想像しないで頂戴。 |
慈 | 明日休みでよかったよ。 あとで学校にも電話しとかないとね。 |
慈 | でも、綴理の家は、久々だなー。 |
梢 | えっ……? あなた、来たことあるの? |
慈 | そりゃあるでしょ。 友達だし。 |
梢 | そう……。 私もあるわ。 |
慈 | お、おう。 |
梢 | あるのよ。 どう? |
慈 | だから私もあるって言ってるでしょうが! |
綴理 | きょうは、賑やかだ。 |
梢 | 綴理が『うるさい』って言っているわよ。 |
慈 | 言うわけないでしょ綴理が。 |
慈 | 綴理は私のこと大好きだもんね~~。 |
綴理 | うん。 ずっとこれがいい。 愛してるよ、めぐ。 |
梢 | !? |
慈 | 私も愛してるぞ、夕霧 綴理☆ |
梢 | なん、なの……? |
綴理 | こないだ、めぐから教えてもらった。 最上級の感謝の言葉は『愛してる』だって。 |
梢 | それは間違いだからもう二度と言わないように。 さやかさんや小鈴さんには言ってないわよね? |
綴理 | うん、まだ。 |
梢 | やめておきなさい。 すごくびっくりするから。 |
綴理 | ? わかった。 |
慈 | 梢は、恥ずかしがり屋さんでちゅねえ。 |
梢 | あなたたちは、どうして恥ずかしくないのよ……。 |
慈 | 愛してるからかな。 梢と違って~。 |
綴理 | こず、ボクのこと愛してない……? |
梢 | 煽られても言いませんからね。 |
慈 | 綴理、もう少し首を傾けて。 そうそう、かわいらしい感じを盛って。 よし、いけるよ。 |
綴理 | こず、ボクのこと。 |
梢 | 言いませんからね! |
ぷぷぷと笑う慈。 | |
慈 | そういえば梢って、綴理の名前を呼ぶのも、相当時間かかってたよね。 |
慈 | 私のときはすぐだったくせに。 やっぱり顔かー……? |
梢 | ……あなたたちは、仲良くなるの早かったわね。 |
綴理 | めぐは、初めてボクの言葉が聞こえる人だったんだ。 |
綴理 | めぐはすごい。 めぐは言葉。 |
綴理 | ボクに、『それってこういう意味?』って、ずっと、ずっと聞いてくれた。 嬉しかった。 |
綴理 | ありがとうございます。 ふじしまめぐみさん。 |
慈 | え? いやいや。 暇だったし。 |
慈 | てか綴理って、ふつーにめっちゃかわいくない? 顔じゃなくて。 いや顔もだけど。 |
慈 | 私、こういう系に弱いのかも……。 おっきな犬も飼ってるし……。 |
綴理 | そっか~。 |
梢 | 怒っていいところだと思うわよ、綴理。 |
綴理 | いけませんよ、めぐみせんぱい。 なんなんですかー。 |
梢&慈 | ふふふ/あはは |
慈 | 迫力ないなあ。 |
梢 | ……もう、2年も経ったのね。 |
慈 | そうだねえ。 |
梢 | 一年生の頃、初めてこのエントリーシートに名前を記入したとき。 私には自信の欠片もなかったわ。 |
梢 | 全国どころか、地方大会を突破するビジョンすら、見えなかった。 でもね。 |
梢 | ここに書かれたあなたたちの名前を見たら…… 不思議と、勇気がわいてきたの。 |
梢 | 結果として……少し、綴理には、寄りかかりすぎてしまったけれど……。 |
綴理 | うれしいよ。 今は、ぜんぶが。 |
綴理 | こずは、いちばん長い間、ボクの名前を呼んでくれた友達。 |
綴理 | ボクが、いちばん名前を呼んでる友達だから。 |
梢 | それは……たぶん、私もそうなのだけれど……。 |
慈 | 今度はあんたがみんなの勇気になる番だよ。 乙宗 梢。 |
梢 | ……そうね。 『任せて』って胸を張らなきゃ。 そのために、ずっと走ってきたんだもの。 |
慈 | エントリーシート出すとき。 今の一年は、なにか言ってた? |
綴理 | すずは、がんばりますーちぇすとー、って。 |
梢 | 吟子さんは、相変わらず緊張していたみたいだったけれど。 でもそれも、強い想いを抱いてくれているからだわ。 姫芽さんは? |
慈 | ん~……まあ、ひと悶着あったけど、でも最後にはやる気満々で。 もうね、みらくらぱーく!の秘密兵器だよ。 |
梢 | ふふ……いい子たち。 本当に。 |
慈 | そりゃ、私たちの後輩だもん。 |
梢 | ふふっ、よく言うわ。 |
綴理 | かほと、さやと、るりの後輩だからね。 |
梢 | きっと……叶えましょうね。 私たちの夢を。 |
慈 | うん! |
綴理 | 目指せ……ラブライブ!優勝。 |
梢&綴理&慈 | ふふふ。 |
綴理 | あ……。 このあと、お風呂、入る? 入るよね。 お風呂は、入らなきゃ……だよね? |
慈 | え、なに? |
梢 | あ……。 そういえばあなた、そんなこと言ってたわね。 |
綴理 | うん。 ボクも思い出した。 先に言うほうがいいって。 |
梢 | 仕方ないわね。 |
慈 | なんのこと? |
綴理 | ボク、友だちと一緒に、家のお風呂に入るのが、夢だったんだ。 |
慈 | それじゃ、おやすみなさーい。 |
綴理 | おやすみ。 |
梢 | ……おやすみなさい。 |
慈 | ……。 |
綴理 | あったかいな……。 |
綴理 | ……目を閉じてるのに、光が見えるよ。 1、2、3……9つ。 |
梢 | ……。 |
梢 | 私も……。 |
梢、目を閉じたままつぶやく。 | |
綴理にだけ聞こえるように、小さな声で。 | |
梢 | ……愛しているわよ、あなたたちのこと。 |
綴理 | ……こず。 |
梢 | な……!? |
慈 | え、なんか言いましたぁ? 乙宗さん☆ |
梢 | ~~~~~~っ! |