第5話『不完全で、未完成』
PART 1
小鈴 | 景色、よし! 角度、よし! 録画ーーっとと。 |
小鈴 | 録画、よし。 それじゃあ、あくしょん! |
小鈴 | かちまっ……あぁあえっと、あたしの名前は小鈴! 蓮ノ空女学院に通う一年生。 |
小鈴 | 特技は決まってないけど、好きなことはチャレンジ! 頑張れば、なんだってできるって信じてる! |
小鈴 | これから見せるのは、 あたしがチャレンジを成功しまくる一大ヒストリーーー |
姫芽 | なにしてるの~? |
小鈴 | どわぁ!? ひ、姫芽ちゃん!? |
姫芽 | どうも~、姫芽ちゃんで~す。 それでそれで~? |
小鈴 | ど、ども。 えっと、これはね、映画を撮ろうとしてるんだ! |
姫芽 | ほう、映画。 楽しそうなことしてるね~。 |
小鈴 | そ、そうかな? |
姫芽 | ? 楽しいからやってるんじゃないの? |
小鈴 | あーいや、えっとそれは……うん、やりたいことでは、あるかな? |
姫芽 | そっか。 アタシ、カメラマンやろっか? |
小鈴 | ううん、大丈夫! 姫芽ちゃんも練習あるだろうし! またあとでミーティングでね! |
姫芽 | ん、わかった。 それじゃああとでね~。 |
小鈴 | がんばらないと……! |
姫芽 | ……頑張りすぎだね~? |
吟子 | 小鈴、ミーティング始まるよ? |
小鈴 | アイ……オキマス……。 |
小鈴 | すみません、ご迷惑を。 |
瑠璃乃 | ずっと寝てたの? |
姫芽 | アタシが部室に来た時にはもうぐっすりでしたね~。 |
小鈴 | ミーティングに遅れるわけにはいきませんので、 体を引きずってやってまいりました。 そして……気づいたら意識が。 |
綴理 | ! なるほど。 |
さやか | 先輩が何を考えているのかうっすら分かりましたが、 遅刻しないように先にここで寝ておこうっていうのはダメですからね? |
綴理 | さやは、ボクのことよく分かってくれてるね……。 |
瑠璃乃 | 体調悪いの? 今日は休んでおく? |
小鈴 | あーいや、すみません。 |
小鈴 | ちょっとやることがあって、それに追われてただけです。 体調悪いとかじゃなくて。 |
慈 | ふうん? 疲れ果てるくらい頑張るようなことがあるの? |
小鈴 | それはその、映画を撮ろうとしてただけなんですけど……。 |
花帆 | 映画! え、すごいね! なんでなんで!? |
小鈴 | た、大したことじゃないんですけど。 ちょっと事情がありまして。 |
花帆 | ……あれ、もしかしてあまり聞かれたくなかった? |
小鈴 | そういうわけじゃないんですけど! でもミーティング前に徒町が時間取りすぎてるような気がしてまして! |
さやか | それでもあなたが突っ伏してたら気になるものなんですよ。 さ、そういうわけじゃないなら話しちゃいましょうね。 |
小鈴 | え、は、はい。 わかりました! 実はその、昔の友達から久しぶりに連絡がきたんです。 |
瑠璃乃 | お、幼馴染だね。 |
小鈴 | 中学からは別々ですし、やり取りもそんなに頻繁じゃなかったんですけど。 でも、徒町にとっては、チャレンジを教えてくれた大事な友だちなんです。 |
綴理 | すずに、チャレンジ。 じゃあ、すずがお世話になりました。 |
小鈴 | は、はい。 お世話になりました。 でもその子が……自分はもうチャレンジを……夢を諦めるって言ってて。 |
小鈴 | 映画監督になるっていう、昔からの夢を。 |
花帆 | 『小鈴が頑張っているのが分かって、とっても嬉しいわ。 昔から転んでもすぐ起き上がって頑張るあなたはーー』 |
綴理 | いいお手紙。 |
小鈴 | わ、わー! そ、その辺は良いんです! もっと下、もっと下なんです! |
花帆 | もっと下…… 『家族と、外国にいくことにしたの。 新天地で新しい夢を探すわ。』 |
姫芽 | 外国に行くことが、夢を諦めることになるの? |
小鈴 | その子……雪佳ちゃんっていうんですけど。 雪佳ちゃんが外国に行くっていうのは家業を手伝うことと同じなんです。 |
小鈴 | 心配になって昨日確認したら、 これまで撮ってアップしてた動画とかも全部動画サイトから消してて……。 |
慈 | なるほど……それは確かに諦めてるやつっぽいなあ……。 |
小鈴 | ……雪佳ちゃんはなんというか、チャレンジに全部成功する徒町というか、 なんでもできて完璧で、そういうとこはさやか先輩に似てて。 |
さやか | ぁ……似てますかね??? |
小鈴 | 徒町がチャレンジをするようになったのも雪佳ちゃんのおかげというか。 そんな雪佳ちゃんが、諦めるって選択をしたのが、徒町にとっては……。 |
小鈴 | だから! 徒町、頑張ろうと思ってるんです。 徒町が映画を撮って、雪佳ちゃんに届けたい。 |
小鈴 | 諦めないでほしいって、その気持ちを届けたいんです! |
瑠璃乃 | ん、いいじゃん! その子が夢を諦めるほど、 家族の手伝いが凄い大変なのかもしんないけど……。 |
瑠璃乃 | 小鈴ちゃんは、その子が頑張ってたのが好きだったんだもんね。 なんか分かる気がするな。 |
慈 | ……ま、まあ、言いたいことは分かる。 |
慈 | その子にも事情があるのかもしんないけど…… 小鈴ちゃんの知ってるその子は、楽しそうだったんでしょ? |
小鈴 | はい、誰よりも! |
慈 | ん、なら良いと思う。 |
花帆 | よし、じゃあ手伝うよ小鈴ちゃん! |
小鈴 | えっ!? で、でもさっきも言いましたけど、これは徒町の問題で。 |
小鈴 | それにライブの練習だってありますし…… みんなに迷惑はかけられませんから。 |
梢 | そう……? |
花帆 | え、全然手伝うよ!? |
小鈴 | 気持ちは嬉しいです! でもどのみち、雪佳ちゃんが外国に発つまで、あんまり時間がないんです。 |
小鈴 | だからやっぱり、そこまで皆さんに迷惑はかけられません。 |
小鈴 | それに、DOLLCHESTRAとしても、 徒町が一番練習頑張らなきゃダメですから。 |
小鈴 | 足を引っ張るのは最小限にしたくて。 |
綴理 | 引っ張られたことはないけど。 |
花帆 | 本当にいいのー? |
小鈴 | ……あぁ……うーん……はい。 |
瑠璃乃 | ……いや、小鈴ちゃんの気持ちも分かるよ。 ルリたちに何かできることがあったら、いつでも言ってね。 |
小鈴 | はい! みなさん本当にありがとうございます! 練習ももちろん、頑張ります! 強化月間!! |
梢 | ……分かりました。 それじゃあ、今日の練習を始めましょう! |