第4話『昔もいまも、同じ空の下』

PART 3

前のシーンから数日後。吟子が祖母に連絡を取り、次の休みに全員で吟子の実家に押し掛ける、という流れ。メンバー全員私服。
場所のイメージは竪町。金沢駅前からバスに乗って向かった。
SE、バスから下車する一同。
SE、ワイワイガヤガヤという喧噪。
メンバーを先導しつつ、告げる吟子。
吟子
ここまでくれば、もう、あと少しです。
でもいいのかしら。
こんなに大人数で押しかけてしまって。
9人というメンバーを見回す梢。
吟子
祖母に聞いたら、ぜひみんなで遊びに来てくださいって言ってましたので!
周りを見回しながら、楽しそうな花帆。
花帆
へ~。 このあたりが吟子ちゃんの地元なんだね~。
吟子
はい、そしてこちらがーー。
花帆
ここが!
吟子
到着しました! 『金沢くらしの博物館』です!
ってなんでだー!
私たち、吟子ちゃんのおうちに向かってたんでしょ!?
吟子
す、すみません、慈先輩。
吟子
おばあちゃんとの約束の時間まで、まだ間がありますし、
せっかくの機会なので、どうしても皆さんに見てほしいものがありまして!
見てほしいものぉ~……?
館内にお客さんはまばら。観光客が物珍しそうに、各教室に貼られた写真などを眺めている。
ただ、吟子は瞳を輝かせて、嬉しそうに全員を案内する。
吟子はめちゃめちゃ内弁慶気質があるので、地元に帰ってきたことで水を得た魚のようになっている。
吟子
こちらでは、なんと……ご覧ください!
壁にかかっているのは、当時の写真。50年前ぐらいの芸楽部が商店街のステージにあがっている写真が飾ってある。写真を見上げる一同。
これって……当時の、蓮ノ空芸楽部の写真?
吟子
はい! ここは金沢の様々な民俗文化財や歴史が集められてるんですけど、
その中には、芸楽部のコーナーもあるんです!
蓮ノ空からこんなに離れているのに。
吟子
祖母から聞いたんですが、
当時の商店街が地元を盛り上げるために、誘致をしてたみたいですね。
吟子
だから、写真が多く残ってるんですよ。
吟子
これから伝統の衣装を着ることになるので、
こういったものに触れておくのも大事かなと思いまして……!
小鈴
はっ、こっちの写真、
Sparkly Spotの衣装にちょっと似てませんか!?
吟子
あ……ほんとだ。
わくわくするさやか。
さやか
すごい、こんな昔から面影が……!
綴理
たぶん、中身はちょっとずつ変わってるんだ。
『逆さまの歌』のときみたいに。
瑠璃乃
なんかおもしろそうかも!
よーし、ひめっち! みらぱ!っぽいのさがそー!
姫芽
らじゃ~!
なんとなくユニットごとに分かれて展示品を見て回る一同。花帆と梢が吟子と回る。
花帆
すごいなあ……。 スクールアイドルって、
こんなにずっと前から、たくさんの人たちを笑顔にしてたんだねえ。
花帆
ね、ね、吟子ちゃんは、昔からここに来てたの?
(花帆と話しているときは特に)大人っぽく装おうとして、おばあちゃん→祖母と言い換える吟子。
吟子
あ、うん。
初めては、5歳ぐらいのときに、おばあちゃん……祖母と一緒に。
吟子
それからは、ちょこちょこと。
花帆
そっか~。 あたし、吟子ちゃんが芸楽部にこだわってた理由が、
ちょっとわかった気がするなあ。
花帆
だって、ここに飾られてる写真、みんな楽しそうだもん。
花帆の純度百パーセントの善人に向けるような屈託ない笑顔
花帆
吟子ちゃんもこんな風に、スクールアイドルになって、
みんなの笑顔を花咲かせたいって思ったんだね!
花帆の純度百パーセントの善人に向けるような屈託ない笑顔を浴びて、そんなに大したことを考えていたわけじゃないんだけど……と恥ずかしそうにそっぽを向いてうなずく吟子。
吟子
……う、うん。 まあ、それも、あるかな……ハイ。
梢は写真を眺めながら、うっとりとつぶやく。
……素敵ね。
これは、スクールアイドルクラブができる前、
もっと、もっと昔から、蓮ノ空に綿々と紡がれてきた歴史そのものだわ。
梢、傍らに立つ吟子に微笑みかける。
ありがとう、吟子さん。 ここに連れてきてくれて。
恐縮してこくこくとうなずく吟子。
吟子
あ、いえ……。
ただ単に、私がスクールアイドルクラブの方々に見てほしかっただけなので。
吟子
梢先輩にそんなに響くなんて、思ってませんでした。
音楽の歴史は、文化の歴史でしょう。
クラシックやジャズをやるときに、たくさん勉強したから。
過去を学んで未来を作る。 その繰り返し。
蓮ノ空の音楽の歴史を知れるのは、
大勢の先人の想いに触れることができるみたいで、純粋に嬉しいわ。
それにね、自分たちはその先頭に立っているんだって、
胸を張れるような気がしてくるのよ。
梢が言語化してくれた伝統へのリスペクトの言葉を聞いて、感動する吟子。
吟子
梢先輩……。
で、では、時間の許す限り、私が館内をご案内いたしますね!
花帆
はーい! お願いします、吟子せんせい!
吟子
ちょっと!
それじゃあ、お願いするわね、吟子先生。
楽しそうに乗る梢にからかわれて、慌てる吟子だった。
吟子
梢先輩まで!?
一同、ようやく吟子の家に到着。
古風な屋敷と、隣には工房とお店がある。
玄関の前に立ち並ぶ一同に、実家を紹介する吟子。
吟子
長旅お疲れさまでした! こちらが、百生家です。
花帆
隣にお店があるよ!
さやか
加賀繍を使った、様々なお土産が売っているみたいですね。
瑠璃乃
えーすごい! あとで見ていこー!
こらこら、遊びに来たわけじゃないんだぞー。
綴理
違うの?
吟子祖母
いいええ。 遊びに来たつもりで、ゆっくりしていきまっし。
吟子
あ、おばあちゃん!
丁寧に頭を下げる吟子祖母。
吟子祖母
おかえり、吟子。 それに、スクールアイドルクラブの皆さん。
よくいらっしゃいました。
一同も頭を下げる。
小鈴
こんにちは! 徒町です!
姫芽
お世話になります~。
吟子
今の時間は、ワークショップのお手伝いやなかったん?
吟子祖母
ええ、もうじき出るところや。 先にぃ、衣装だけ受け取っとくわ。
そこでひとりだけ怪訝そうな顔をしていた梢。
もし、かして……。 先生ですか?
吟子
えっ?
吟子祖母
あら……? 梢さん?
まあ、ずいぶんと大きくなって。
その節は、ご無沙汰しております。
そう、吟子さんのおばあ様だったのね。
吟子
梢先輩とおばあちゃん、知り合いだったんですか!?
昔ね、七五三のときに衣装を作ってもらったのよ。
吟子祖母
懐かしいわ。 あの頃の梢さん、こんなに小さかってんよ。
小鈴
梢先輩が、小さく……!?
花帆
ええー、そのときのお話、聞きたいです!
吟子祖母
そうやね。 夜にでもゆっくり。
ま、とりあえず、入りまっし。