幕間
『蓮ノ大三角☆』
慈 | さって、次は移動教室、っと。 音楽の授業だけは、まあまあ好きっかなー。 |
梢 | あ、慈。 ちょうどよかった。 |
慈 | んー? |
梢 | きょうの放課後、練習が終わったら部室に残ってくれないかしら。 |
慈 | え、いいけど……? |
梢 | それじゃあ、また後でね。 |
慈 | う、うん。 ……え、なに? 呼び出し? |
綴理 | きょうは風が柔らかいから、雲ものんびりさんだね。 夜は星たちも、きっとご機嫌。 |
綴理 | 夜……うーん……暗い……暗い暗い……消灯……うーん……お布団……。 なんだかボクも、ねむくなってきちゃった。 |
梢 | 綴理、ちょっといいかしら。 |
綴理 | ん。 こずもお昼寝? |
梢 | 部活が終わった後、話があるから。 |
綴理 | え……? |
梢 | それだけ。 じゃあ、よろしくね。 |
綴理 | ……ボク、またなにかした……? |
綴理 | あ、風、ちょっと冷たくなってきた……かも……。 |
梢 | ふたりとも、居残ってくれて、ありがとうね。 |
梢 | ……でも、どうしてそんなに遠くに座っているの? |
慈 | いや……。 |
綴理 | お説教、心当たりがない……。 |
梢 | 説教? 私があなたたちに? どうして? |
慈 | そりゃ、あんな呼び出し方されたら! そう思うよ! |
梢 | ええっ……。 普通に声をかけたつもりだったけれど……。 |
慈 | いいや! 完全に生活指導の先生だったね! |
綴理 | よく似てたよ。 |
梢 | ……あなたたち、 そんなにしょっちゅう生活指導されているの? |
梢 | いえ、それはいいわ。 きょうは少し、 あなたたちにとっても愉快ではない話をしようと思って……。 |
綴理 | やっぱりお説教なんだ……。 |
梢 | ここに、2枚の紙があるわ。 |
慈 | ……私と綴理の、退部届……!? ……ハッ! 素行不良の部員を追い出して、クリーンな部を作るつもり!? |
綴理 | ごめんなさい。 明日からまじめに授業を聞きます。 |
綴理 | 教科書ぜんぶ忘れてきても、まあいっか、 って思ったりせず、寮に取りにいきます。 |
梢 | それはぜひそうするべきだと思うけれど……。 というか、違うの、誤解しないで。 |
梢 | きょう話そうと思ったことはねーー。 |
綴理 | これ、3人での約束……。 |
慈 | ……全国大会の出場辞退と、 これ以上関わらないようにしようっていう、不干渉条約。 |
梢 | 北陸大会を突破したその後、3人で決めたこと。 文面を慈が作って、私たちがみんなでサインをした。 |
梢 | 去年は、そうすることがいちばんいいと、信じていた。 |
梢 | 慈が怪我をして、沙知先輩がいなくなって。 |
梢 | 私は部を守りたくて、地方大会の決勝で、綴理を傷つけた。 |
綴理 | ……。 |
梢 | 何度も意見を衝突させて、 信念とは決して呼べないようなエゴをぶつけ合った。 |
梢 | これは私たちが未熟だった証拠、 さしずめ……若木証明書。 |
梢 | ……一度、ちゃんと話をしたいと思って。 |
梢 | ふたりがまだ、私になにか言い足りないことがあるのなら、 それもすべて受け止めるつもり。 |
梢 | 私がもう少し、いろいろなことが上手に、できていたら……。 |
慈 | 上手にできてたら、私は怪我しなかった、って? 1年間、くすぶった時間を過ごすこともなかった? |
梢 | それは。 |
慈 | 梢は、傲慢だよね。 |
綴理 | めぐ。 |
慈 | 私が怪我をしたのは、ただ私が怪我をしたから。 踊れなくなったのも、私が踊れなかったから。 |
慈 | それだけ。 そこに意味なんてない。 |
慈 | なのに、ふたりはいつまでも私のリハビリに協力して、 自分の練習時間も、それ以外の時間も削ろうとした。 |
慈 | だから私はスクールアイドルを辞めることにした。 それは、私が決めたこと。 |
慈 | 見えない? ここに3人のサインが書いてあるのが。 |
慈 | 今の梢は部長かもしれないけど、私たちにとってはあの頃の梢も今の梢も、 ただ周りの人より少しだけしっかりしてるだけの同級生だよ。 |
慈 | それなのに、なんでもかんでも、 自分で背負い込もうとしないでよ。 ムカつく。 |
梢 | ……慈。 |
綴理 | ボクには、めぐみたいに言う資格はないと思う。 だって、こずが無理をしてたのは、ボクのせいだったから。 |
綴理 | 去年の今頃を思い出すと、今でも体が沈んでいく。 海の中で、だんだん光が見えなくなるみたいに。 |
綴理 | それが後悔という名前なら、ボクはずっと後悔してるよ。 もっとこずと、ちゃんと話せればよかった。 もちろん、めぐとも。 |
慈 | ん。 |
綴理 | そしたら今はボクが部長を代わってあげられてたかも。 |
慈 | それはムリだと思うけど……! |
梢 | …………ふたりとも。 |
慈 | はい、これで辛気臭い話は終わり! 3人とも若かったし、 ヤなこと続いちゃってたよね! 以上! 文句ある!? |
梢 | でも……。 |
慈 | なんかヤなの! だってこれからもことあるごとに『あの頃はごめんね……』 って言われそうじゃん!? |
慈 | 今の私は幸せなんだから、蒸し返さなくていーの! |
綴理 | こずはもうちょっと軽い人を見習った方が良いと思う。 雲とか。 |
慈 | 人間関係も、勉強も、スクールアイドルも、梢にとっては同じなんだよね。 できないことがあるなら、できるようになるまでやる。 |
慈 | できないのは自分の努力が足りないからだ、って。 |
梢 | そ、それは……なんだって、そういうものでしょう? |
慈 | 私が梢だったら、1時間で心折れてる。 |
綴理 | ボクなら5秒。 |
梢 | でも……私も、嫌なのよ。 私の力が及ばなかったばかりに、誰かが悲しい顔をするのは。 |
梢 | 私は、できるなら、 音楽のように完璧なものになりたい。 |
梢 | 五線譜の上、たったひとつでも構成要素が欠けていたら、 それはもう完璧ではなくなってしまうの。 |
慈 | 綴理、梢のほっぺをひっぱっちゃえ。 |
綴理 | むにー。 |
梢 | ひょっほ!?(ちょっと!?) |
慈 | これで完璧じゃなくなったね! 理想から遠ざかったよ! |
梢 | もう! 人がせっかく真面目に話しているのに! ……まったく……ふふ。 |
梢 | ……でも、ありがとう。 少し、心が軽くなったわ。 |
綴理 | 少しだけなんだ。 |
慈 | しょうがない。 梢は結局、背負い込むのも好きなんだから。 |
梢 | そ、そういうわけじゃ……ないと、思うわ。 |
綴理 | それじゃあ、この若木証明書? ってやつ。 どうしよう。 |
慈 | んー、ビリビリに破いて捨てちゃう? 残しておいたら、梢が自室に飾って『戒めよ』とか言いそうだし。 |
梢 | で、でも、過去に犯した過ちに向き合うのは、 成長のために必要なことで……。 |
慈 | ほんとにやるつもりだったの!? 自罰的も行き過ぎるとそういう趣味の人みたいなんだけど! |
梢 | 別にやりたくてやっているわけじゃないわ! |
綴理 | ん。 とりあえず、持って帰ろうか。 |
慈 | 周りになんにもない学校だから、星だけはきれいなんだよねえ。 |
梢 | 私は好きよ。 この帰り道。 春夏秋冬、いろんな星が見られて。 |
綴理 | あれ? そういえば紙って2枚あったよね? もう1枚は? ボクの想像にしかいなかった? |
梢 | ……忘れてたわけじゃないわ。 見せるタイミングがなくて。 |
慈 | ラブライブ!のエントリーシート! |
綴理 | 去年も見たやつだ。 |
梢 | もちろん、去年とは違うわ。 去年出場をしたのは、私と綴理だけだったけれど。 |
慈 | 今年は6人、3ユニット! |
綴理 | DOLLCHESTRAで出れるんだ。 |
梢 | そういうこと。 本当にやりたかったことが、できるようになるわ。 |
梢 | いえ、もちろん、綴理と出場したラブライブ!も、 あれはあれで勉強になったけれど……そうじゃなくてね。 |
綴理 | なんかその言い方、さやみたい。 |
慈 | みらくらぱーく!で、世界を塗り替える日が来たかー! |
梢 | 私たちスリーズブーケならきっと、最高のスクールアイドルに手が届く。 そう、あの日に夢見たような。 |
慈 | 誰が勝っても負けても、恨みっこなしだからね。 |
梢 | ええ、もちろん。 |
綴理 | でも、ボクとさやがいちばんだよ。 |
慈 | それって勝利宣言かー!? この天才がー! |
梢 | うふふっ。 あなたたちって、仲がいいんだか悪いんだか……。 |
梢 | ……でも、きっとかけがえのない関係なのよね。 だって、誰が欠けても成り立たない。 『蓮ノ大三角』ですもの。 |
綴理 | 蓮ノ大三角。 |
慈 | 綴理ー? |
綴理 | いいこと考えた。 |
綴理 | 星を折ろう。 |
梢&慈 | ? |
花帆 | きょうもがんばりましょー! |
瑠璃乃 | じんこーみつどが低い! 居心地ヨシ! |
さやか | おはようございます。 きょうもよろしくお願いします。 |
花帆 | あれ? なんですか、この折り紙のお星さま。 |
瑠璃乃 | ほんとだー。 昨日はなかったよね? |
綴理 | それは、もともと若木だった。 でも今は、お星さまなんだよ。 |
瑠璃乃 | さやかちゃん、翻訳ぷりーず! |
さやか | えっ、すみません、わかりません! |
綴理 | そして名を、蓮ノ大三角と言う。 |
花帆 | 星1個だけなのに!? |
慈 | ……なんか、楽しそうだけど。 |
梢 | いいんじゃないかしら。 あの頃の想い出が星になるなんて。 破くよりも、よっぽどいいわ。 |
慈 | ……まっ、そーかもね。 |
梢 | ええ、それじゃあ……みんな! |
梢 | きょうも練習、がんばりましょうね! |
花帆&さやか&綴理&瑠璃乃&慈 | はーい! |