第11話『スクールアイドルクラブのために!(?)』
PART 4
本日のお手伝いは終了。 | |
旅館のラウンジに、全員が集まる。 | |
慈 | ……というわけで、発表します。 今回、お手伝いでもっとも貢献したユニットは……。 |
慈が静かに手を挙げ、それを振り下ろす。 | |
慈 | ーー全員、引き分け! |
ブーイングが飛んでくる。 | |
花帆&さやか&梢&綴理&瑠璃乃 | えー!? |
花帆 | そんな、あんなに褒めてもらったのに! |
さやか | 技術点と演技構成点の詳細な内訳を求めます! |
綴理 | よくわかんないけど、さやの勝ちだったと思うよ。 |
瑠璃乃 | めぐちゃん、さすがにそれは苦しいヨ……。 自首しよ……。 |
慈 | ええい! 引き分けったら、引き分けだよ! 私がルールなの! |
花帆 | 国産牛! 国産牛! |
梢 | でも、どうするの? 引き分けの場合は。 |
ぐぐぐっと身を引く慈。梢が苦笑いする。 | |
慈 | そっ、それは……! |
梢 | 考えていなかったのね。 |
慈は、うっと言葉に詰まる。ここで『本当は一ユニットだけなんて嘘で、全ユニット出られるんだよ♡』と種明かしするのはあまりにもかっこ悪い。本当は自分が圧倒的に勝利をしてから言うつもりだったのに……! | |
そこで慈は時間稼ぎのために、部屋から出てゆくことにした。 | |
慈 | ……か、各自自由時間! |
花帆 | え!? |
慈 | ちょっと汗かいたから、先に温泉入ってくるね! 引き分け時のルールは、その後で発表します! |
さやか | 考えていなかっただけなのでは……? |
慈 | ほんとは今言ってもいいんだけどねー! でも企画ってドキドキワクワクが必要なものだし! |
慈 | というわけで、また後でね! |
花帆 | あっ、国産牛が逃げた! |
さやか | 実際どうなんでしょう……と瑠璃乃さんに聞くのは、 ルール違反ですか? |
瑠璃乃 | ううん、ぜんぜん。 だってルリもなんも聞いてないし! |
瑠璃乃 | めぐちゃんって、こうと決めたら、かなり突っ走っちゃうからなー。 |
瑠璃乃 | タレントになったときも、スクールアイドル始めたときも。 なんでもひとりで決めちゃうってゆーか。 |
花帆 | えっ、瑠璃乃ちゃんもしかして、けっこー苦労人……!? |
慈の一面を聞いてびっくりする友人に、瑠璃乃はけろっと笑う。 | |
瑠璃乃 | あはは、それこそぜんっぜん。 |
瑠璃乃 | だってめぐちゃんは、いつだって誰かのためにがんばってるんだもん。 ルリは、そーゆーめぐちゃんのことが、大好きだから。 |
疑わしげな花帆。なんとなく慈の意図を理解している梢は、ここで話を打ち切る。 | |
花帆 | 人のために……? あれがですかー……? |
梢 | ……。 せっかくだし、お部屋に戻って一休みしましょうか、花帆さん。 |
花帆 | あ、はいっ。 |
瑠璃乃 | じゃあルリも、お風呂いってくるね! |
さやか | ええ、ではまた後ほど。 いきましょう、綴理先輩。 |
動かない綴理を見て、問うさやか。 | |
綴理はぽつりと。 | |
さやか | 綴理先輩? |
綴理 | めぐは、優しいと思うよ。 |
さやか | ……それは? |
綴理 | ボクたちのことも、きっとライブに出してくれるだろうから。 |
少し考えて、さやかは綴理に問いただす。 | |
さやか | …………それ、確信があって言っているわけじゃなくて、 もしかして願望ですか? |
綴理 | 大丈夫。 きっと出してくれる。 |
さやかがツッコミを入れて、場面転換。 | |
さやか | だからそれが願望って話ですよね!? |
慈と瑠璃乃が並んで温泉に入って、くつろいでいる。 | |
部屋を出て行ったときとは裏腹に、慈の機嫌はすっかり直っていた。 | |
慈 | いいお湯だねえ……。 |
瑠璃乃 | ごくらく、ごくらく~……。 めぐちゃん、ごくらくってどーゆー意味? |
知ったかぶりをする慈に、瑠璃乃は素直に感心する。 | |
慈 | えっ!? それはー……。 『すごく楽』って言葉を、略したんだよ! |
瑠璃乃 | へえ~~~。 すごくらく、すごくらく、ごくらく、ごくらく……。 ん? あんま略せてなくない? |
慈 | 昔の人の考えることは、よくわかんないね! |
瑠璃乃 | そっか~。 |
難所を乗り切ったとホッとする慈に、瑠璃乃は今度はさっきよりもうちょっと真面目なトーンで尋ねてくる。 | |
瑠璃乃 | ……ねえ、めぐちゃん。 |
慈 | えっ!? いや、知ったかぶりとかじゃなくて、 由来はもしかしたら諸説あるかもだから一概には言えないかもだけど。 |
瑠璃乃 | そろそろ、話してほしーなー。 |
慈 | ……それって? |
芝居がかった大げさな口調で言う瑠璃乃。それから慈に甘えたような声で。 | |
瑠璃乃 | 藤島 慈は、なにを企んでいたのか! そのすべて! 計画のぜんぼー? を! |
瑠璃乃 | めぐちゃん、ダメ? |
顔を逸らす慈。その逸らした顔の方にサササと回り込む瑠璃乃。今度はさらに合わせた両手を頬に添えて、あざとい上目遣い。 | |
慈 | ん、んん~……。 |
瑠璃乃 | ダメ? |
慈 | …………ああんもう! わかったってば! そんな目、しないでよ! |
瑠璃乃 | やったー! さっすがめぐちゃん! |
慈 | ほんっとるりちゃんに弱いなー私……。 でもまあ、いろいろ協力してもらったしね。 |
慈 | 実は。 |
言いかけて停止する慈。 | |
素直に話すのがどんどん恥ずかしくなってゆく。 | |
慈 | ………………。 |
瑠璃乃 | 実は? |
頬を膨らませて、拗ねるような顔でつぶやく慈。 | |
慈 | やっぱやめた。 |
瑠璃乃 | なんでー!? |
慈 | なんか改まって言うようなことじゃないし! |
慈 | 本当はもともと3ユニットぜんぶライブに出られるってこととか! 豪華な料理も、みんなちゃんと食べられるってこととか! |
慈はまだ拗ねたまま。 | |
瑠璃乃 | えっ……そーなの!? |
慈 | ……旅館の人は、そう言ってくれた。 |
慈 | でも、普通にライブ出るだけじゃつまんないかなって、 私が勝負ってことにしたの。 ……だって。 |
瑠璃乃はボソボソと喋る慈のことをじっと見つめてる。 | |
瑠璃乃 | ……。 |
慈 | ……せっかく3ユニットもいるんだから、お互いに競い合ったほうが、 もっともっとスクールアイドルとして成長できるじゃん。 |
瑠璃乃の言葉を否定する慈。首を横にブンブンと振って。 | |
瑠璃乃 | めぐちゃんは、みんなのことを思って。 |
慈 | そ、そういうんじゃない。 |
瑠璃乃 | でも、それだったら最初から、 |
瑠璃乃 | 『みんなのやる気をふぁいやーさせるために勝負しよう』 って、言えばよかったんじゃ? |
瑠璃乃 | わざわざ隠さなくても。 |
慈 | だって、実際やってみて梢と綴理をボコボコにしたほうが 『ほらお前らふぬけてるからだぞ!』って言えるじゃん。 |
慈 | 私もそのほうが大勝利して気分いいし!! |
瑠璃乃 | そーゆーことだったかー! 大納得! |
瑠璃乃 | そんで、結果がいーぶんになっちゃったんだねえ。 |
瑠璃乃 | いーぶんっていうか、負けてたけど……。 |
慈 | あいつらも、必死になればそれなりにやれるってことでしょ! まだまだ目が離せないけどね! |
慈 | と、とにかく! 私のいるスクールアイドルクラブなんだから、 世界一を目指してがんばってもらわなきゃ困るの! |
慈 | だって私の夢は、ここで世界を夢中にさせることなんだから! |
慈 | るりちゃんもくれぐれ勘違いしないよーに! これは、ぜんぶ私自身のためにやったことだからね! |
慈のツンデレっぽい台詞に、瑠璃乃は悪い笑顔を浮かべる。 | |
瑠璃乃 | うひひっ。 |
それに対して、からかわれているような雰囲気を感じて、慈が過敏に反応する。 | |
慈 | 今度はなんですか! 大沢 瑠璃乃さん! |
瑠璃乃 | えーなんでもなーい☆ きゅるるーん☆ |
慈っぽいあざとかわいい声をあげる瑠璃乃に、ぱしゃぱしゃと慈がお湯を書ける。 | |
慈 | この、このこのー! |
瑠璃乃 | きゃー! |