第11話『スクールアイドルクラブのために!(?)』
PART 2
休日(土曜日)のチェックイン時間。 | |
それぞれ手荷物を持って、温泉旅館前に。 | |
豪華な温泉旅館を見上げて、一同は感心する。慈がどや顔。 | |
綴理 | おっきい。 |
さやか | 立派ですね……! |
瑠璃乃 | あめーじんぐじゃん! |
花帆 | まさかこれも梢センパイの所有する物件ですか!? |
梢 | 違うわ。 |
両手を広げてどや顔の慈。 | |
慈 | ふっふっふ、すごいでしょー! |
慈 | ゆのくに天祥さんは、 数多くの賞を受賞してる、とびっきりの温泉旅館なんだから! |
一同、旅館の部屋に。 | |
そこもすごくいいお部屋。梢が呆気にとられる。 | |
梢 | ちゃんとしたお部屋だわ……。 |
梢 | しかも、各ユニットごとに……。 |
梢 | 慈、あなたこれ本当に……? |
慈 | ちなみに夕食のメニューは、こちら。 |
花帆 | 極撰国産牛自家焼! |
さやか | 海の幸五種盛り……! |
瑠璃乃 | アワビの踊り焼き!! |
梢 | ……本当に? |
慈 | ぜんぶ旅館の方のご厚意だけどね! |
慈 | ただ、ミニライブの様子はちゃんと動画に編集して、 旅館の宣伝をするって条件付き。 ま、そこは私ががんばるからさ! |
花帆 | ーーあたし、慈センパイのこと見直しました! |
慈 | おおっ? |
花帆 | ちょっと意地悪だなって思ったこともありましたけど、 ほんとはすっごくいい人だったんですね! |
くるりと振り返る慈。そこには、ファン向けのあざとい笑顔が貼りつけられていた。 | |
慈 | ……。 そうだよ、花帆ちゃん☆ |
胸に手を当てて、情感たっぷりに言う慈。 | |
慈 | 私はね、大好きなみんなに、お返しをしたかったんだ。 本当に、心から感謝しているんだよ。 |
慈 | だって私を復帰させるために、るりちゃんだけじゃなくて、 みんなもがんばってくれたんだから……。 |
しかし直後、襲い掛かるクマのように両手をあげて、花帆を威嚇する慈。 | |
慈 | ーーなんて、言うとでも思ったかー! |
花帆 | ええええっ!? |
慈 | 残念でした! 豪華な食事が楽しめるユニットは、3組中たった1組だけ! ライブができるのも、その1組のみです! |
さやか | え!? |
慈 | 旅館のお手伝いをして、 もっとも旅館に貢献したユニットだけでーす! |
瑠璃乃 | うわあ。 |
花帆 | じゃ、じゃあそれ以外の方々は……? |
青ざめる花帆に、顎の下に指を当てて、かわいこぶって答える慈。 | |
慈 | 白米とお味噌汁にー、たくわんぐらいは出してくれるかも☆ |
花帆 | やぁだぁ~! 国産牛がいいぃ~! |
さやか | わ、わたしたちをたばかったんですか! |
瑠璃乃 | なにこのバラエティ番組みたいなノリ! |
高笑いをする慈。 | |
慈 | あっははははっ! |
梢 | ふふっ……ずいぶん楽しそうね、慈。 でも、さすがにちょっとやりすぎじゃないかしら。 |
綴理 | つまり、どういうこと?? |
一同、着物に着替え終わる。描写はしませんが、着付けは梢と慈が分担してお手伝いをした。なんなら綴理も着付けできそう? | |
さやか | 着替え終わりました、けど……。 |
梢 | ……それで? 慈。 |
慈 | それでは、ルールを説明するよ。 今からお手伝いをスタート。 |
慈 | 期限はきょうの夜17時まで。 その結果次第で、勝利ユニットが決まるからね。 |
慈 | お手伝い内容までは決めてないから、そこは旅館の人と相談してね。 以上! |
綴理 | わかった。 |
さやか | い、いいんですか、綴理先輩。 そんなあっさりと。 |
さやか | ライブと、高級料理がかかっているんですよ……! |
綴理がさやかの肩をぽんと叩く。 | |
綴理 | ボクはね、常々から思っていたんだ。 |
さやか | な、なんですか。 |
綴理 | さやの料理の腕は、プロ級だ、って。 |
綴理 | ぜひ料亭『さや処』を作って、 もっといろんな人にさやの料理を食べてほしい、って。 |
綴理 | その腕を振るう機会がやってきたんだよ。 |
さやか | わたし毎朝のお弁当作ってるだけですけど! |
綴理 | 大丈夫だよ。 あんなにおいしい煮物食べたの、初めてだったから。 |
綴理 | 煮物食べたのも初めてだったんだけど。 |
さやか | 誰がその大丈夫を信じられるっていうんですか! 昔の梢先輩ですか!? |
さやか | あ、いえ! 梢先輩のことを言っているわけではなく! |
目をぐるぐるにしてパニくっているさやかの発言を、大らかに受け流す梢。 | |
梢 | いいのよ。 |
そんな梢の袖を掴んで、花帆は不安そう。 | |
花帆 | お手伝いは楽しそうですし、 着物姿の梢センパイはとっても美人ですけど……。 |
花帆 | でも、さやかちゃんはすっごく強敵っぽいですよね……。 慈センパイだって、妙に自信満々ですし……。 |
難しい顔をする梢に、慈が朗らかに微笑みながら両手を打つ。 | |
梢 | ……そうね。 私も特段、こういったことが得意というわけじゃ。 |
慈 | じゃあスリーズブーケは不戦敗ってことでいいかな。 |
花帆 | え。 |
慈 | ま、しょうがないよね。 梢ができるのはあくまでも学校のおべんきょーだけだもんね☆ |
慈 | いいよいいよ、私は鬼じゃないからさ☆ |
花帆 | ーーやってやりましょう! 梢センパイ! |
梢 | えっ。 |
花帆 | 慈センパイのこと、ぎゃふんと言わせてやりましょう! |
花帆 | なに言ってるんですかもう、 あたしの梢センパイが世界最強なんですから! |
花帆 | 国産牛はぜんぶあたしたちのものですよ! |
梢の手を引っ張っていく花帆。ふたり退場。 | |
梢 | ちょ、ちょっと! 花帆さん! |
綴理 | さやも。 いざ、厨房に乗り込もう。 |
さやか | そんな、素人がお邪魔しちゃったら! |
同じように、綴理もさやかの手を引っ張っていく。 | |
綴理 | 大丈夫だよ。 さやはもうプロだから。 ボクが保証する。 |
綴理とさやか退場。 | |
さやか | 綴理先輩に保証されたからなんなんですか! |
うまくスリーズブーケとDOLLCHESTRAを焚きつけることができた慈はニヤリとしながら、瑠璃乃に振り返る。しかし、瑠璃乃は浮かない顔。 | |
慈 | よしよし、これですべて私の手のひらの上だよ……! |
慈 | じゃあるりちゃん、私たちもいこっか! |
瑠璃乃 | ……。 |
慈 | るりちゃん? |
瑠璃乃 | でも、めぐちゃん……。 |
慈 | あ、お手伝いのこと、心配してる? へーきへーき! |
慈 | なんたって私、お仕事で1日女将やったことあるからね! |
慈 | 最初からこれは、私たちが圧倒的に有利で…… そう! 負けるはずがない勝負なんだよ! |
胸に手を当てて、思いっきりドヤる慈だが、しかしさらに瑠璃乃は浮かない顔のまま。 | |
慈 | 私とるりちゃんで、あいつらボコボコにしてやろうぜ! |
瑠璃乃 | そうじゃなくて……だったら、なおさらってゆーか……。 |
瑠璃乃 | 食事もだし、ライブだって1組しか出られない勝負で、 しかもルリたちが勝てるって決まってるんだったら、なんかこー……。 |
瑠璃乃 | 胸の中が、もにゃもにゃ~って……。 |
予想外の瑠璃乃の言葉に、慌てる慈。 | |
慈 | る、るりちゃん? |
言葉の途中で、慈が瑠璃乃の頭をぽんぽんと撫でる。 | |
瑠璃乃 | ごめんね、なんか空気ビミョーにしちゃって。 |
瑠璃乃 | でも……ルリ、めぐちゃんのこと大好きだけど、 スクールアイドルのみんなのことも、好きだし~……。 |
瑠璃乃 | できるんだったら、みんなで楽しい方がーー。 |
瑠璃乃が顔をあげて慈を見上げる。慈はそっぽを向いたまま瑠璃乃の頭を撫でる。その頬が、微妙に赤い。 | |
瑠璃乃 | ……めぐちゃん? |
慈 | えっと、その……。 るりちゃんの言うことも、わかるんだけど……。 詳しくは後で説明するから! |
慈 | 今は手伝ってほしいなー……なんて! |
ぱちぱちと瞬きを繰り返す瑠璃乃。 | |
慈になにか事情があるのかと察する。 | |
瑠璃乃 | ……めぐちゃん、実はなんか悪だくみちゅー? |
慈 | べーっつにー!? |
じーと慈を見つめる瑠璃乃。慈に冷や汗が浮かんでいるのを見て、相好を崩す。 | |
瑠璃乃 | ……ふふっ。 だったら、わかった。 今はなんも聞かずに協力したげる。 |
明らかにほっとする慈に、瑠璃乃は苦笑い。 | |
慈 | ほっ……。 |
瑠璃乃がさらに慈の頭を撫でる。 | |
慈はわずかに頬を赤らめながら、照れ隠しに咳払いをする。 | |
瑠璃乃 | 仕方ないなー、めぐちゃんはもー。 |
慈 | ん……んんっ! |
慈 | よし! それじゃあスリーズブーケとDOLLCHESTRAに、 もう二度と温泉旅館に泊まれないぐらい敗北感を刻みつけてやろうっか! |
瑠璃乃 | そこまでする気はないけどね!? |