第9話『ルリ・エスケープ』
PART 3
さやか | こういうことではないと思います。 |
花帆 | どう? 瑠璃乃、ちゃん、きもち、いーい? |
瑠璃乃 | きもちいいけど、もうちょっと強いほうが、ルリ好みかな~。 |
花帆 | えっ、これ以上……!? |
花帆 | さやかちゃん……。 |
さやか | いいですけど! |
瑠璃乃 | お、おぉぉおぉぉ。 |
瑠璃乃 | さやかちゃん、マッサージガチ勢かよ~。 |
さやか | なぜわたしがこんなことを……!? |
花帆 | ふふふ、 ねえ、瑠璃乃ちゃん……。 どぉ? |
花帆 | スクールアイドルクラブに入れば、 毎晩さやかちゃんのマッサージ付き、だょ……? |
瑠璃乃 | これが毎晩だってー……!? |
さやか | やりませんからね! |
花帆 | ふふふ、口ではこう言っているさやかちゃんだけどね……。 |
さやか | やりませんからね!? |
瑠璃乃 | はぁ~……。 お風呂もおっきかったし、やっぱりジャパン最高~……。 |
瑠璃乃 | あっ、もうちょっと下、ああ、そこそこ~。 |
梢 | ……。 瑠璃乃さんと、さやかさん……? いったい、なにをしているの? |
さやか | えっ!? こ、梢先輩! どうしてここに!? |
梢 | 私は、今から、課題の天体観測をしようと思って。 外に行くのだけれど……。 あなたたちは? |
さやか | これは、マッサージを少々! でも違うんです! やっているのはわたしの意思ではなく! |
梢 | そう……。 |
さやか | 理解を諦めた顔をしないでください! これは、花帆さんに言われて! |
花帆 | そうなんですよ、梢センパイ。 |
花帆 | ふふっ、実はこれは、 新入部員をぜったいスクールアイドルにしちゃおう大作戦の一環なんです。 |
花帆 | 瑠璃乃ちゃん、教室でもいろんな人から声をかけられて、 目移りしちゃってるみたいで。 |
梢 | ……なるほど、そういうこと。 あのね、ちょっといいかしら、花帆さん。 |
花帆 | はい、なんでしょうか? |
梢 | あの子にスクールアイドルクラブを選んでほしいという気持ちはわかるけれど、 |
梢 | あまり甘やかさないほうがいいのよ。 |
花帆 | え、なんでですか。 |
梢 | だってそんなの、まるで物で釣るみたいじゃない。 |
梢 | ちゃんとありのままを見せて、それで私たちの部を選んでもらえなければ、 意味がないと思わない? |
花帆 | ……それは、そー思いますけど。 でも、梢センパイだって最初はあたしに甘々でしたよね? |
梢 | えっ? そ、そんなことないわ。 私は最初から……そう、ちゃんと鬼のようだったわ。 |
花帆 | センパイが鬼になったのは、あたしに朝練させようとしてからですよ! |
梢 | そう……。 ということは花帆さんの中で、 今の私は鬼なのね。 |
梢 | どうせ鬼なら、もっと練習メニューを増やしても構わないかしら。 |
花帆 | ひどい! 今のは罠ですよ!? 罠ぁ! |
梢 | 冗談はともかく。 |
梢 | 瑠璃乃さんにスクールアイドルクラブに入ってもらいたいのなら、 もっと別の方法があるでしょう。 |
梢 | あなたは、スクールアイドルなのだから。 |
花帆 | それは、そうかもですけど……。 |
花帆 | でもセンパイもあたしのこと、甘やかしてくれましたしー……。 |
梢 | ……それはもう忘れなさい。じゃあね! |
花帆 | でも、スクールアイドルだからできること、か。 |
花帆 | うんっ、新入部員獲得のために、やれるだけのことはやっちゃおう! |
さやか | スクールアイドルだからできること、ですか。 |
花帆 | さやかちゃんは、なんだと思う? |
さやか | ……まさかマッサージとか言いませんよね? |
花帆 | あはは、なにそれ、ぜんぜん違うよさやかちゃん。 |
さやか | !? |
花帆 | あのね、あたしたちってスクールアイドルでしょ? |
花帆 | だったら、普段の練習でもかっこいいところを見せられたら 『この人みたいになりたい!』 |
花帆 | って思って、 熱心にクラブに来てくれるんじゃないかな。 |
さやか | 花帆さん……なんて真っ当なことを……。 |
花帆 | うん、昨日ね、梢センパイに言われてピンと来たの。 だからーー。 |
花帆 | 梢センパイ! 綴理センパイ! がんばってください! |
さやか | なんでですか!? |
花帆 | だって! あたしたちセンパイに憧れてクラブに入ったじゃん! |
さやか | でもそこは『だからがんばる!』って言うべき場面では……。 |
花帆 | がんばるよ! もちろんがんばるけど! そう、こうなったら、みんなでがんばろうね! 4人で! |
梢 | うまくまとまったような、そうでもないような。 |
綴理 | こずはいっつもがんばってるのにね。 |
梢 | あなた、この間から私のことを全肯定していない? 大丈夫? |
綴理 | こずの大丈夫は信用できる。 |
梢 | 今のはあなたに聞いた方の『大丈夫?』よ! ……まあいいわ。 さ、瑠璃乃さんが来たみたいよ。 |
瑠璃乃 | おはざまーっす! きょうから練習、よろしくお願いしまっす! |
綴理 | うん、よろしく。 えっとね、きょうはどうしよっか? |
梢 | いつもは私が花帆さんを、綴理がさやかさんをレッスンしているのだけれど、 そうね。 |
梢 | 瑠璃乃さんがいるから、 |
梢 | まとめて二年生が一年生を指導する形にしましょうか。 |
綴理 | わかった。 |
さやか | わかりました。 ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。 |
花帆 | 最初は体力ぜんぜん追いつかなくて大変だと思うけど、 つぼみ同士、一緒にがんばろうね、瑠璃乃ちゃん! |
瑠璃乃 | あいあい! お手柔らかに、おなしゃー! |
さやか | 驚きました。 瑠璃乃さん、運動神経がいいんですね。 |
綴理 | どこでダンスやってたの? |
瑠璃乃 | いやー、たまーにスクールに通ってたぐらいで。 あとは、ほとんど自主練ですよぉー。 |
梢 | そう、すごいのね。 体幹もしっかりしているし、基礎体力も申し分ないわ。 |
花帆 | ぜぇ、ぜぇ……がんば、あたし、がんばって……。 |
梢 | 指先の動きもとってもきれい。 |
梢 | 瑠璃乃さんなら、もしかしたらあっという間に 人気のスクールアイドルになれるかもしれないわね。 |
瑠璃乃 | あっという間に、テッペン届いちゃうかもっ!? なーんて、ちょーし乗ってみちゃったり! |
綴理 | 期待の新人ってやつだ。 |
梢 | そうね、ワクワクしちゃうわ。 |
さやか | わ、わたしもがんばります! |
花帆 | うう、あーたーしーもー……。 |
梢 | 花帆さんは、その前にもっと体力をつけなくっちゃね。 さやかさんだけじゃなくて、瑠璃乃さんにも置いていかれちゃうわよ。 |
花帆 | や゛ーだー! |
綴理 | さやは、最近またカチカチになってきた。 炊き立てのお米だった頃を、思い出して。 |
さやか | うっ、精進します……。 |
瑠璃乃 | ……。 |
梢 | それじゃあ次は、歌の練習をしてみましょうか。 |
梢 | な、なに? |
瑠璃乃 | あいむそーりー! ごめんなさい! ルリ、ちょっとトイレ! 行ってきてもいいですか!? |
梢 | え、ええ、もちろんよ。 戻ってきたら、レッスンの続きをしましょうね。 |
瑠璃乃 | らじゃ! それじゃあその、ちょっと失礼しまーすー! |
花帆 | ……。 遅くないですか? 瑠璃乃ちゃん。 |
梢 | そうね。 どうしたのかしら。 |
綴理 | もしかして、トイレが見つからなくて、さまよっている……? |
さやか | いやいや、階段下りてすぐですよ。 |
花帆&梢&綴理 | ……。 |
花帆 | ちょ、ちょっと様子を見てきますね! |
さやか | 行ってきます! |
梢 | なにかあったら大変だものね。 私たちも探しに行きましょう。 |
綴理 | うん。 |
花帆 | 近くのトイレ探したけど、いなかったよー! さやかちゃんは、どう!? |
さやか | それが……部室に、こんな置き手紙が……。 |
花帆 | え!? |
置手紙 | 『ルリは、ミジンコです』 |
花帆 | なにこれ!? どういうこと!? 人間じゃなかったの!? |
さやか | いえ、人間だと思いますけど……。 |
瑠璃乃 | あ……。 おっかれっしたー……。 |
花帆 | え? あ、うん。 |
さやか | お疲れ様です。 ……って!? |
花帆 | 今の!? |
さやか | まさか瑠璃乃さん!? |