第9話『ルリ・エスケープ』
PART 1
カンカン照りの夏。瑠璃乃は小松空港からキャリーケースを引いて、空港の外に出る。 | |
瑠璃乃 | ついにやってきたよ……蓮ノ空! |
すちゃりとグラサンを取って、日本の夏の暑さに目を細める瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | ルリ、一年半ぶりの、日本! 意外と、これは、ナルホド……やや暑いかも! |
瑠璃乃 | ていうか、フツーにカリフォルニアより暑くね? 蒸し蒸ししてるってゆーか、ジメジメしてるってゆーか。 |
瑠璃乃、深呼吸。久々に帰ってきて味わう日本の匂いに、どこか嬉しそう。 | |
瑠璃乃 | すぅー…はぁー…。 うん、ニッポンの夏、って感じする。 |
瑠璃乃はびっくりしつつも、ノリノリで返す。 | |
瑠璃乃 | ん? え? ルリにご用ですかい? はいはいなんでしょ、外国からのお客さま! |
瑠璃乃 | ここから金沢市に行くためには、どーすればいいか、ってー? |
瑠璃乃 | えーとね、ウェイト! リトルウェイトプリーズ! |
瑠璃乃 | えーとえーと! ディス! ディスウェイ! ゴーストリート! オーバー! いえすいえす! |
瑠璃乃 | オッケーオッケー! ゴー! センキューセンキュー! おーいえーす! ゆあうぇるかむ! |
瑠璃乃 | お、これは、もし金沢駅に向かうなら、 タクシーで一緒に行こうかって、誘ってくれてる感じ……? |
瑠璃乃 | ん~~~! せんきゅせんきゅ! バイバイ! ぐっばーい! ぐっどらっく! はばないすでー! |
外国人たちを見送る瑠璃乃。額の汗を拭って、テンション急落の独り言。 | |
瑠璃乃 | ふぅ……。 |
瑠璃乃 | 送ってもらえばよかったかなあ。 |
瑠璃乃 | でも、密室の車内は、かなりムリめ。 いつ充電切れるか、わかんないし。 |
とぼとぼとバス乗り場に向かって歩いていく瑠璃乃。ぼっちモードなので、独り言はテンション低く。 | |
瑠璃乃 | はあ……、ルリはひとりでまったり、バスでいこー。 |
スマホを開く瑠璃乃。そこには6月フェスライブの映像が写っている。 | |
瑠璃乃 | でも、楽しみだなあ。 蓮ノ空スクールアイドルクラブ。 |
瑠璃乃 | ……楽しいことが待ってると、いいなぁ。 |
花帆 | 一緒のステージにあがった梢センパイと綴理センパイ、 すごかったですねぇ~……。 |
梢 | ええ、ありがとう……。 でも花帆さん、そう言ってくれるのは嬉しいけれど……。 |
さやか | あれから、結構な日が経ちましたよ。 |
花帆 | あたしの瞼の裏では、つい5分前のことのように~……。 |
綴理 | 記憶力いいね。 賢い。 |
梢 | そういう話かしら。 |
さやか | 実際、チャンネル登録数はグングン増えているみたいですね。 |
花帆&さやか | さすが梢センパイ!/さすが梢先輩です。 |
梢 | どうして張り合うの、あなたたち。 |
綴理 | さすがこず。 |
梢 | あなたまで、やめなさい! |
さやか | 梢先輩も、すっかり元通りですね。 |
梢 | ……そうね、さやかさん。 いろいろと迷惑をかけてしまったけれど、本当にありがとうね。 |
さやか | いえいえ、そんな、こ、梢先輩。 |
花帆 | ふたりもすっかり仲良くなったみたいで、嬉しいです。 |
花帆 | だからあたしはー、 この調子で新入部員が入ってきてくれないかなーって、思っているんですよ! |
さやか | 新入部員? |
花帆 | うん。 だってDream Believersって、 本当は3ユニットで歌う曲なんでしょ? |
さやか | ああ、そういうことですか。 |
花帆 | ね! だったら、部員が増えたら、 パーフェクトなDream Believersができるんだよ! |
花帆 | そんなの、どうなっちゃうんだろー! |
さやか | きっと、もっともっとすごいことができるかもしれませんね! |
綴理 | もうひとつのユニット、かぁ。 |
梢 | ……。 どちらにせよ、来年になれば新入生が入ってくるんじゃないかしら。 |
花帆 | えー! 待てませんよぉ! |
花帆 | どこかに新入部員落ちてないかなあ……。 あ、綴理センパイって実は三つ子だったりしませんか? |
さやか | なに恐ろしいことを言い出すんですか。 |
梢 | 悪夢だわ。 |
綴理 | ボクなんなの。 |
瑠璃乃 | たのもーう! ここがスクールアイドルクラブでお間違いないですかー!? |
梢 | え、ええ、そうだけれど。 あなたは? |
瑠璃乃 | 大沢瑠璃乃! 入部志望です! |
花帆 | しーー。 |
花帆 | 新入部員だーー! |
瑠璃乃 | 大沢瑠璃乃って言いまーす。 今月から、蓮ノ空に転入してきました。 ぺーぺーの一年生です! |
梢 | へえ、これまでカリフォルニアの学校に通っていたのね。 |
瑠璃乃 | いえす! ほんとは夏休み明けに転入してくる予定だったんですけど、 待ちきれなくって、帰ってきちゃった! |
瑠璃乃 | あ、来ちゃいましたです! |
梢 | いいのよ、堅苦しくしないで。 普段通りの言葉遣いで、構わないわ。 |
花帆 | そうそう! よろしくね、瑠璃乃ちゃん! |
瑠璃乃 | じゃあ、お言葉に甘えちゃって。 よろよろ! 気軽にルリでもなんでも呼んでね! |
綴理 | よろよろ、るり。 |
さやか | さすがの順応力……。 ええと、よろしくお願いします、瑠璃乃さん。 |
花帆 | それでそれで、瑠璃乃ちゃん! どうしてうちに来たの!? |
花帆 | っていうか、なんでスクールアイドルになりたいって思ったの!? |
梢 | そうね、私も興味があるわ。 |
さやか | やっぱりこの間のライブですか? |
瑠璃乃 | なんか、楽しそうだから!! |
さやか | た、楽しそう……? |
花帆 | わかる! いいよね、スクールアイドル! |
瑠璃乃 | そうそう! みんなでわーって盛り上がって、 うおーって感じになって、キラキラーって輝いて! |
瑠璃乃 | それがなんかもうメッチャ眩しくて! すごーい! いいじゃーん! って、ルリ思った! ゆえにルリ有り! |
花帆 | うんうん、だよねだよね。 なっちゃうよね! |
瑠璃乃 | ルリ、楽しいこと大好きだから、 これはぜひともスクールアイドルにならなきゃなーって思って、 急いで帰ってきたわけなんだー! |
梢 | そう……。 でも、配信でライブを見て、 そう思ってくれたってことよね。 それは、嬉しいわ。 |
綴理 | さすがこず。 |
梢 | それはもういいから。 |
梢 | 瑠璃乃さん、入部届もありがとう。 これは受理するわね。 |
梢 | ええと、でも転入してきたばかりなら、 最初から本格的に活動するのは、いろいろと大変じゃないかしら? |
梢 | 授業のカリキュラムも違うものだし。 |
瑠璃乃 | それは……確かに! |
梢 | ええ。 だから最初は、仮入部という形でどうかしら。 それなら、予定が合う日に来てくれれば構わないから。 |
梢 | 少しずつ、新生活に慣れていきましょう。 |
瑠璃乃 | お気遣い、ありありっす! ルリもそれで問題ないっていうか、おーるうぇるかむです! |
瑠璃乃 | 逆に、入部審査とかなくて、命助かったー! |
花帆 | そんなのあったら、あたし今ここにいないよー。 あはは。 |
さやか | 胸を張って言うことですか!? |
瑠璃乃 | あははっ。 |
瑠璃乃 | そいじゃあ、仮部員ってことで、どーかひとつよろしくぅー! |
花帆 | うんっ! |