第7話『センパイとコウハイ』
PART 3
梢 | もう、一年が経つのね……。 |
さやか | あ、乙宗先輩。 |
梢 | 村野さん。 どうかしたの? 綴理ならーー。 |
さやか | ああいえ、綴理先輩を探しに来たわけではないんです。 |
梢 | そうなの? |
梢 | まあ、冷静に考えてみたらお昼休みにあの子がどこにいるかなんて、 予想もできないわね……。 |
さやか | あはは。 えっと、失礼しますね。 |
梢 | ……。 |
梢 | それで、部室に来た理由は? |
さやか | えっと、そうですね! 乙宗先輩がここに居ると聞いてーー。 |
梢 | あら、私に用事だったの? |
さやか | 用事というかなんというか! こんにちは! |
梢 | ええ、こんにちは……どうしたの? |
さやか | あ、すみませんすみません! ええっとですね! そのーー。 |
梢 | 村野さん。 |
梢 | 何があったのかはよく分からないけれど、 私で良ければお話は聞くから、そう緊張しないで? |
さやか | あっ……あー、すみませんわたしったら。 |
梢 | ひょっとして綴理と何かあったの? |
さやか | 何かあった、というわけではないんですけど。 |
さやか | 乙宗先輩は……その。 綴理先輩のこと、どう思います? |
梢 | そうねぇ……同い年の学友であり、 同じスクールアイドルクラブの仲間である、かしら。 |
梢 | 少し抜けているところはあるけれど…… それは村野さんも分かっていることでしょうし。 |
さやか | はい、そうですね。 |
梢 | あとは……そうねぇ。 あの子、綺麗でしょう? |
さやか | えっ? あ、はい、それはもう。 |
梢 | ふっと隣を見た時にね。 ぼーっとどこかを見つめているあの子の横顔が凄く綺麗なものだから…… |
梢 | 今でもたまに、勝手に眺めていることはあるわ。 |
さやか | そんな羨ましいことが。 わたし、先輩がたと違って身長が低いので……。 |
梢 | ふふっ。 だから教えてあげようかなって思ったのよ。 |
梢 | あ、分かったわ。 あなたの魂胆が。 |
さやか | え゛!? |
梢 | 記事にするんじゃない? 撫子祭で、花帆さんと一緒に作る記事。 スクールアイドルクラブの、紹介の。 |
さやか | あっ……あー! そうなんですそうなんです! はい! ば、バレちゃいましたーあはは! |
梢 | ふふっ。 ならもう少しちゃんと話してあげないとね。 きっと、綴理のところには花帆さんが行っているのでしょう? |
さやか | はい、その通りです……! |
梢 | 綴理が私のことを話して、 記事に書けるような内容が出来ればいいけれど…… |
梢 | まあ、そこを心配してもどうしようもないわね。 ふむ。 |
梢 | ……村野さんには、言うまでもないことかもしれないけれど。 |
梢 | 綴理は、凄い子よ。 出会った時からずっと、ステージに立てば誰をも魅了できる。 |
梢 | ……いいえ。 あの子が踊ろうと思った場所がステージに変わってしまう、 の方が正しいかしら。 |
さやか | 踊ろうと思った場所が……。 |
梢 | ええ。 ひとたび踊れば、 みんなが目を奪われてしまうの。 |
さやか | あ……はい、経験あります。 |
梢 | でしょう? 私が会ったのは入学式の時だから、付き合いは高校からだけれど。 |
梢 | でも、スクールアイドルとして活躍したいという夢を持っていた私にとって…… あの子と同じ部に居るということは、本当に誇りだった。 |
さやか | ……スクールアイドルとして活躍したい、ですか? |
梢 | そうよ、私は最初からスクールアイドルとして頑張るつもりで、 ラブライブ!優勝経験のあるこの学校に来たの。 |
梢 | ……だから、そういう意味でも綴理とは正反対ね。 |
さやか | え、そうなんですか。 |
梢 | そうそう。 |
梢 | 直前の二月くらいにスクールアイドルという存在を知った綴理は、 今から入れて、スクールアイドルとして活動できる学校ならどこでもいい、 だなんて…… |
梢 | そんな勢いで飛び込んできた子だったから。 |
さやか | それで入れちゃうのが綴理先輩ですね……。 |
梢 | そうね。 |
梢 | あの子がもっと早くスクールアイドルを知っていて、 スクールアイドル部のある学校に入ろうとしていたら…… |
梢 | 最初から、引く手数多だったでしょうに。 |
梢 | ……だからかしらね。 最初は、むっとしたものよ。 |
梢 | ラブライブ!のことも全然知らないし。 いちから教えてあげたのは、私。 |
さやか | えっとその、むっとした、 っていうのは、どうにかなりました? |
梢 | え? ああ。 そんなもの、あの子の練習を一目見ただけで吹き飛んだわ。 |
梢 | あの子と一緒に居ることが、私が成長するために一番良いって…… 確信できたのもその時だもの。 |
梢 | 輝いていて、人々の目を奪う……。 私にとっても、憧れの一人よ。 |
さやか | そう……なんですね。 |
さやか | あの。 |
梢 | なあに? |
さやか | 乙宗先輩の気持ちは、分かります。 ですが、だったら……。 |
さやか | どうして、わたしが来るまで……。 |
梢 | 誰も隣に立ってくれなかったのか、でしょ? |
梢 | それは……詳しく言うつもりはないけれど。 でも、そうね。 一つだけ、話せることがあるとしたら。 |
梢 | 綴理に憧れを持つことと、一緒にステージに立つことは、 両立しなかったのよ。 これまでも、これからも。 |