第3話『雨と、風と、太陽と』
PART 3
花帆 | あ゛~~~……。 きもちいいよ、さやかちゃん~~……。 |
さやか | 花帆さんどこも、かなり凝ってますねっ。 |
さやか | 少しでも疲れが、取れるといいんですがっ。 |
花帆 | ありがとうねえ、さやかちゃん。 お風呂上がりにマッサージなんて、極楽だよぉ。 |
さやか | それは、よかったですっ。 |
さやか | それでは、ここからは、 私のとっておきの足つぼを……。 |
花帆 | えっ!?そ、それ痛いやつじゃない!?大丈夫!? |
さやか | いえ、これがいちばん疲れに効くんです。 少し我慢してくださいね、それではいきますよ! |
花帆 | お、お手柔らかに、おてやわ、おてーー。 |
花帆 | ぴぎゃーーーーーーーーーーーー!!! |
花帆 | うう……。あたしはドリンクは甘いのが好きで、 マッサージも気持ちいいだけのがいいです……。 |
さやか | ドリンク?なんの話ですか? |
花帆 | なんでもない……。 あ、でも疲れカンペキに取れたかも! |
さやか | そんなわけありません。 今の足つぼが痛いってことは、相当な無理をしていますよ。 |
さやか | 今夜一晩は大人しくしてください。 |
花帆 | でも、ライブももう明日だし、ちょっとぐらいだったら。 |
さやか | だめです! |
花帆 | ひん。 なんか、さやかちゃんって、ちょっと梢センパイに似てるカモ……。 |
さやか | どういう意味ですか。 |
花帆 | あ、ううん!良い意味で!自分にも人にも厳しそうなところとか! 自分の考えをしっかりもってるのも、似てるかもかも! |
さやか | そう言われて、悪い気はしませんが……。 私はまだまだですよ。 |
花帆 | あたし、スクールアイドルクラブに入って、 よかったなあ。 |
花帆 | 今までね、楽しいことって、 あたしだけのことだと思っていたから。 |
花帆 | でも今は、梢センパイにトレーニングしてもらったり、 コメントしてくれるみんなにも励ましてもらったりして、 楽しさが広がっていって、あたしだけじゃないんだよ。 |
花帆 | そのことが、今が、すっごく楽しくて。 なんだか、ただ寝るのがもったいなくなっちゃうの。 |
花帆 | さやかちゃんは? |
さやか | わたしも……もちろん、毎日が楽しいですよ。 その、夕霧先輩にご指導いただいていますし。 |
花帆 | そっか。ふふ、やっぱり、おんなじだね。 |
さやか | ……ただ、先輩はどう思っているのか、 わかりませんが……。 |
花帆 | でもね、ほんとはちょっぴり不安な気持ちもあって。 |
さやか | 花帆さんが、ですか? |
花帆 | うん。おっきなライブだもん。 |
花帆 | 蓮ノ空ってもともとすごい学校だったみたいだし。 きっとたくさんの人が期待してくれていると思うし! |
花帆 | それに、梢センパイに、迷惑かけたくないし……。 |
さやか | 大丈夫ですよ。 |
花帆 | でも朝練だって、あたし、 真面目に取り組んだのつい最近だし! |
さやか | だいじょうぶですよ、花帆さん。 |
花帆 | うう、そうかなあ。 |
さやか | 花帆さんのがんばりをいちばん近くで見ていたのが、 乙宗先輩なんですから。 |
さやか | それに、もし花帆さんが失敗しても、 乙宗先輩なら、ばっちりとフォローしてくれますよ。 |
花帆 | その慰めは、あたしが失敗すること前提だから、 ちょっとどうかと思うけど! |
さやか | す、すみません。あの、でも……。失敗は、誰だってするものです。 わたしだって、たくさん失敗してきました。 |
さやか | だから、失敗とか成功とか気にせず、 明日のライブを思いっきり楽しんできてください。 |
花帆 | うん……。ありがとう、さやかちゃん。 |
さやか | それでは、そろそろ消灯の時間ですね。 花帆さんも、あまり緊張しないで、明日に備えてくださいね。 |
花帆 | うん、おやすみ。 |
花帆 | ……うん。 迷惑、かけないようにしなくっちゃ! |
さやか | 今、外に誰か……?あれは、花帆さん? |
さやか | さすがにこんな夜中に、気のせいです、よね。 |
花帆 | わあー! ライブステージだー! |
花帆 | スクールアイドルがいーっぱい! すごい、すごいですね、センパイ! |
梢 | そうね。 でも、あなたもその中のひとりなのよ。 |
花帆 | うっ! |
花帆 | ほ、ほんとにあたしたちがこのイベントに出るんですか…… |
花帆 | 梢センパイはともかく、あたしが出ても大丈夫ですか!? 人もいっぱい来てますよ!? |
梢 | そうね。久しぶりのライブとして、申し分ない舞台ね。 楽しみでしょう? |
花帆 | 楽しみは楽しみですけどぉ~~! |
花帆 | うう……。 しかし、ここまで来たからには、もう逃げるわけにはいきませんよね……。 |
花帆 | 覚悟を……覚悟を、決め……ます! |
花帆 | やります、やりますよ!?ステキな衣装も用意してもらったんですから! あたし、きょうはとことんがんばりますからね! |
梢 | ふふっ、がんばりましょう。 |
梢 | あら……日野下さん? その脚、どうしたの? |
花帆 | え?あ、実は!その、きょう朝起きたときタンスに小指ぶつけちゃって! それでまだちょっと違和感が! |
梢 | 寮の部屋にタンスなんてあったかしら……? 大丈夫?踊れそう? |
花帆 | はい、それはもう!ばっちりです! いいライブにしましょうね! |
梢 | ええ、そうね。 |
花帆 | ……痛っ……でも、大丈夫……。 あんなにがんばったんだもん……うん……。 |
花帆 | もっと、キレのある動きを、こう……。 |
花帆 | さやかちゃんだったら、もっと高く跳ぶはず……。 |
梢 | 日野下さん、そろそろ戻りましょう。 |
花帆 | ステップ踏んで、一歩を大きく……! |
梢 | 日野下さん? |
花帆 | ここで勢いつけて、ターンーー。 |
花帆 | ーーあっ。 |
梢 | ーー! 日野下さん! |
花帆 | 梢センパイ……? 梢センパイ! 梢センパイっ! |
花帆 | あっ。 |
慈 | あなたが今、梢と一緒にユニットを組んでいる子だね。 梢が待ってるよ。 |
花帆 | あの、ええと……。 あたし……。 |
慈 | がんばってね、スクールアイドル。 |
花帆 | あ……。 あの、ありがとうございます……。 |
梢 | 大げさに包帯を巻いてもらったけれど、大丈夫よ。 ひねっただけだから。 |
梢 | 少し安静にすれば、すぐによくなるって。 |
花帆 | ……。 |
梢 | ごめんなさい。 |
花帆 | え? |
梢 | あなたの大切なステージを、台無しにしてしまって。 |
花帆 | どうして、梢センパイが、謝るんですか。 伝統の衣装を着て、ふたりでステージに立つはずだったのに……。 |
花帆 | 迷惑かけたのは、あたし、じゃないですか……。 |
梢 | 私が、もっと上手にあなたを助けられていたらよかったのだけれど。 それができなくて、あなたにも迷惑をかけてしまったわ。 |
花帆 | そんな!センパイはあたしをかばってくれて! だから、あたしのほうこそ、ほんとに、ごめんなさい! |
梢 | あなたの足は、どうしたの? |
花帆 | これは……。 |
花帆 | ……センパイの言いつけを破って、夜中にも、練習をして。 ずっと足首に違和感があったんです。 |
花帆 | けど、そんなの練習が足りないからだって、無視して……。 |
花帆 | きょうも、ライブが始まればきっと、 気にならなくなるだろう、って……。 |
梢 | ……なるほどね。 |
花帆 | ごめんなさい!ほんとに、あたし……。 |
梢 | ……。 |
花帆 | 梢センパイに、迷惑かけたくなかったんです……。 |
花帆 | あたし、できてないことがまだまだあって…… 下手なままじゃ、だめだから、 |
花帆 | もっといっぱい練習して、もっともっと上手にならなきゃって……。 梢センパイも、さやかちゃんも、心配してくれていたのに……。 |
梢 | 今回は、大事には至らなかったけれど。 一歩間違えば、あなたが大怪我するかもしれなかったのよ。 |
梢 | それは、わかっているわね。 |
花帆 | 本当に、ごめんなさい! ぜんぶあたしのせいで……。ぜんぶ、ぜんぶあたしが悪いんです! |
花帆 | ごめんなさい、センパイ、ごめんなさい! |
梢 | 待って、日野下さんーー。 |